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殺人衝動  作者: 嵐龍
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~死刑執行人の解放~

第一章殺人衝動


颯間(そうま) (かざみ)。中学二年生。成績は中の上。友達はそれなりにいて女友達もいる。ごく有り触れた少年である。

いや、一つだけ普通ではない点と言えば、それは殺人(・・)衝動(・・)である。

もちろん、人を殺したことはない。しかし、時々理由もなく人を殺したくなるのである。

誰でもいい。ただ、刀で斬り殺したい。銃で撃ち殺したい。そして、殺した後の愉悦に陶酔(とうすい)したいのである。

俺は、そんな異常な感情を誰にも打ち明けられずにいた。

 


そう、あの日までは―――――



■■■

 

 学校が終わり、あたりが暗くなっていく家路を独りでのんびり歩いていた。

夏が過ぎ、小川沿いの道を吹く風が涼しく心地良かった。

 普段人をあまり見かけない川沿いの道を歩いていると、川を挟んで声が聞こえてきた。


 少し先の橋の近くで三人組の男と一人の女の子が口論になっているようだった。

 男達は高校生ぐらいだろうか?少なくとも知っている人ではない。見るからにガラの悪そうな連中だった。女の子の方は知っていた。同じクラスではあったが、話したことはなかった気がする。男子からはソコソコ人気のある女子だった。

(見た感じナンパだな・・・)

 ガラの悪い連中にもムカつくし、ここは女の子を助けてイイとこ見せようかと思ったその時、それ(・・)は起こった。




“ねぇ?殺さない?”




(ヴッ・・また・・)




“フフフッ・・殺そうよ”




(やめ・・




ハハハッ‼背筋がゾクゾクする‼

フハハハッ‼笑いが止まらない‼



殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼

殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼

殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼

殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼

殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼

殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼殺したいッ‼



「˝あぁ・・・」

俺は焦る気持ちを抑え、その場にしゃがみ込んだ。

(こんな時の対処法は“相手を見ない”事だッ! 見なければ実行に移らないッ!)

 動悸を沈めるため深呼吸をし、現場を見ないようにしながらその場から早足で逃げた。



■■■



 家の前に着いたころには、息切れはしていたが冷静になっていた。

(ハァ・・ハァ・・ハァ・・また起きちまったか)

 幸い、今日は自宅に両親はおらず俺は玄関に座り込み、呼吸を整えた。

(これで人を殺したくなるのは何度目だっけ・・・)

 いつからかは憶えていないが、今日のように人を殺したくなることが何度かあった。最初は友達との喧嘩が発端だったと思う。先生が止めていなければ、手元にあった鉛筆で相手を刺していたかもしれない。最初は一時的な興奮がきっかけだと思った。しかしその後、突発的に殺人衝動が起こるようになった。ただ単に通りすがっただけで殺したくなったりした。その時は決まって頭の中で「殺せ」という声が響いた。もちろん、人を殺せば罪になる事ぐらいは理解している。だから俺は必死に衝動を止める方法を考えた。そして、相手を見なければ殺人衝動が起こらないことに気づいた。



―――――それ以来、殺人を実行したことは一度もない―――――



第二章覚醒



 目覚めの良い朝だった。昨日は疲れていた事もあり、殺人衝動も慣れていたので熟睡できた。制服に着替え、今朝のニュースを聞き流しながら朝食を食べた。玄関に向かい、いってきますの挨拶をして家を出た。

学校に着くと、大勢の生徒がすでに登校していた。いつもと変わらない風景を見ながら、昇降口へ向かった。

靴を脱いで、上靴に履き替えようと下駄箱を開けた時、上靴と一緒に白い封筒が入っていることに気づいた。ラブレターだと思った俺は、ここで開けるのは恥ずかしいと思い、鞄の中にサッとラブレターを隠した。

教室に入ると、多くのクラスメイトで賑わっていた。もうすぐHR(ホームルーム)が始まる時間だ。俺は席に着き、誰も見ていない事を確認してさっきのラブレターを読もうとした。鞄に手を入れ、ラブレターに手を伸ばしたとき、声を掛けられ焦った。気づかれたことに驚いたのもあったが、話しかけてきたのが昨日、橋で見かけた女子だったからでもあった。

(昨日見てたのバレたかな・・・)

何もせず走り去ったことに対して怒られると思い身構えていたが、その子の言葉に驚愕した。

「どうしてあんな(・・・)()したの・・・?」

彼女の声は震えていた。何かに怯えているようだった。いや、()に怯えているようだった。俺は一瞬声が出なかったが、昨日の事を指して言っているのか、何があったのかを聞き出そうと口を開きかけたが、彼女は俺から逃げるように立ち去ってしまった。

少女の後を追おうとしたが、不意にラブレターが頭の中を過った。もしかしたら、彼女が俺に何かを伝えたくて手紙を出したのかもしれない。昨日の答えがそこに書いてあるかもしれない。そんな期待を抱いて、鞄からラブレターを取り出した。封を開けて手紙を取り出し、俺は手紙の文字を見て背筋が凍った。











お前を見てるぞ











その文字は、紙の中央に大きく書かれていた。まるでイタズラがバレてしまった子供のような心境になった。

(俺は何もしていないはずだ。ただ、橋を通り過ぎただけだ。何もしていない・・・)

「何もしていない」と何度も心の中で繰り返し、自分を落ち着かせようとした。紙の裏にもう一枚、厚手の紙が貼ってあることに気づいた。プリントアウトした写真だった。夜に撮影されたのであろう。真っ黒で良く見えなかったが、二人の影が映っていた。一人は立ち、もう一人は足元に横たわっていた。立っている人影は、光の反射でキラキラ光っている棒状のものを持っていた。恐らく、この人物が横たわっている人物を棒で殴って倒したのであろう。そう思わせる写真であった。しかし、俺が注目した点はそこではなかった。立っている人影が自分(・・)に見えて仕方がなかったことだった。

俺は急かされるように紙の束を握り潰し、鞄の奥へ吐き捨てるようにねじ込んだ。あれは自分じゃないと信じたかった。自分であることが信じられなかった。



  ―――――HRの内容は今朝のニュースについてだった

            港の方で男性三人が殺害され、犯人は捕まっていないということだった―――――



■■■



 俺は家路を急いだ。今朝のことで頭がいっぱいで授業なんて身に入らなかった。とにかく逃げたかった。

 家の前に着き、心なしかホッとした。とりあえず自分の部屋に行こうと思い、玄関のドアを開けると目の前に大きなダンボール箱が置かれていた。親が受け取ったのであろう。いつも、俺の荷物はそのまま玄関前に置いていた。通販でよく買い物をするので、これくらいのことは日常茶飯事だが、今日届く予定の荷物はないはずだ。伝票を見ると確かに俺宛てになっている。差出人はよく使っている通販サイトだった。とりあえず玄関前に荷物を置いておくのは邪魔なので、荷物を抱えて自分の部屋へと向かった。荷物は結構な重さだった。

 部屋に入り、荷物を置いて開封するためにその場に座った。重さからして金属が入っていると思うが、それが何なのかは検討が着かなかった。学校での嫌な出来事から逃避するために、何が入っているのか考えをめぐらしながらダンボール箱の封を切った。

 中身は刀と拳銃だった。刀は大河ドラマなどに出てくる普通の日本刀だ。拳銃は海外のアクション映画でよく登場するタイプで、史上最もツイてない刑事が所持している拳銃と一緒だ。剣や銃に興味があったので、模造刀とエアガンだと思い少し心が躍った。しかし、詳しく見てみると本物らしかった。刀は模造刀にしては重かったし、拳銃には実弾がセットで入っていた。そして本物だと確信した理由は刀を抜いた時、刃に薄く血が残っていたからだった。普通は本物だと分かった時点で驚き恐怖するのだろうが、そうではなかった。嬉しかった。血を見て興奮した。コレで人を切ったらどうなるのだろうか?興味がわいた。試してみたかった。人を殺すのが楽しみになった。気づいたら学校で真っ青になっていた顔が笑顔になっていた。

 武器と一緒に手紙が入っていた。内容は、近くの港の地図と時間だけが書かれていた。港は今朝のニュースで聞いた港から少し離れた場所だった。それである程度理解した。本能がそう言っていた。殺しの始まりだと。







「さあ、始めようか・・・」





第三章解放



 午前0時、家をこっそり抜け出し指定された人気のない港の倉庫まで来た。

 重い扉をゆっくり開け、倉庫内に足を踏み入れた。内部は明かりで照らされ、数十人の男達が鉄の棒などの武器を持って皆こちらを睨んだ。

「テメェが俺らを呼び出したのか?」

 一番近くにいたガラの悪い大柄の男が言った。

「昨日オレらのダチ二人が殺されたんだけどヨォ。テメェが()ッたのか?」

 俺は沈黙したまま微動だにしなかった。

「オイ!聞いてんのか⁉」

 男は俺に詰め寄ってきたが、一筋の光と共にその場に崩れ落ちた。

「ハハッ・・さあ、始めようぜ。クソ野郎共‼」

 俺は笑顔で刀を突き出し高らかに叫んだ。

 男達は一瞬怯んだが、自分達のほうが人数で勝っていると踏んだのか、怒号と共に一斉に襲いかかってきた。

「オイオイ、一斉に相手しなきゃイケねえのかよ。メンド臭ぇなぁ」

先頭の三人が飛び掛かってきたので、懐に踏み込み刃を横に走らせた。

「「「ヴォァ・・・」」」

 三人が呻き声を上げ、倒れた。

「ハイ、三人終わり」

 続けて、振った遠心力を利用しその場で回転して左の敵の足を斬り付け、動きを封じたところを右上から刀を振り下ろす。そして背後から突進してきた相手に脇から刃を突き刺した。刀を直ぐに抜き、振り向いてトドメに首を斬る。

 敵は一瞬で倒れていく味方に恐怖を感じたのか一斉に後ずさった。

 俺の周辺は死体と血で溢れ、誰も寄せ付けないような雰囲気を醸し出していた。

「コレで終わり?これからが面白いのに?」

 刀に付いた血を振り落として言った。

「全く。仲間が殺されて仲良く集団で復讐しに来たと思ったら、目の前で仲間が殺されて怖気づいてんのかよ。お笑い草だね。これがお前らの言うオトモダチってヤツなのかい?」

「バッタみたいに群がったからって、強くなる訳じゃないんだよ?強さは個人の能力で決まる。バカが集まったからって、天才に勝てるわけねえんだよ。分かる?そもそも日本語分かる?」

「このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 男が一人飛び出してきた。

「おっ、少しはガッツがあるね。そんな君に良いことを教えてあげよう」

 男は一閃で腹を裂かれ倒れた。

「飛んだら腹がガラ空きだって学習しろよ。バーーーーカ」

 残った男達は震えながら怯えた目で俺を見ていた。

「さぁて、最後に残った君達に三つ良いことを教えようか」

 腰に刀を収め、手を後ろに回し、

「まず一つ、ヤバくなったら逃げとけ」

 拳銃を敵に向け乱射した。

 銃声と逃げ回る男達の悲鳴だけが倉庫内に響いた。

「二つ、どんな時も最悪の事態を想定しておけ」

 入ってきた入り口の前は俺が立っている。それ以外の出入り口はすべて俺が未然に塞いでおいた。もちろん窓の類はない。

 密閉された空間の中、男達は逃れられぬ最期を泣き叫びながらただ壁にしがみついた。

 俺は空のマガジンを交換し、生き残った一人に向かって銃を向けた。

「そして最後、三つ目だ」

 容赦なく引き金を引き、生き残りが消え、

「俺は人を殺すとおしゃべりになるようだ」

 あたりは静まり返った。

 何十という死体が倒れ、血と薬莢が散らばり、まるで荒れ狂う嵐が過ぎ去ったような惨状だった。

 その中心に立つ俺の感情は、一遍の曇りもなく晴れ晴れとしていた。

 


■■■



 その後、俺はダンボール箱に入っていたもう一枚の紙の指示通り、近くに停泊していた貨物船に乗り込んだ。これだけ暴れておいてのこのこ家に帰れるわけがない。両親には何も言っていないが、何故か安心できた。手紙の主が何か手を打ってくれそうだった。確信はないが、ここまで俺をうまく動かせたのだ。何か策があるに違いない。

 すでに貨物船は動いていて、どこかに向かっている。多分、日本国内ではなく国外だろう。どこかの戦場に送り出されるに違いない。身体が戦闘を求めていた。殺しに飢えていた。不安はなく、むしろ清々しかった。心の底から自由になれた気がした。

「さあ、これからどうなるんだろうな」

 


―――――血で染まる未来への期待を胸に、

俺の新しい人生が始まる―――――




■■■■■



「期待してるわよ」



暗い無機質な部屋の中で、窓越しに少女が呟いた。まるで門出を祝うように・・・
















To be continued

あとがき


はじめまして、初めて小説を執筆させて頂いた嵐龍です。この作品を読んで頂きありがとうございます。

何分処女作でしたので、色々と至らない点も多々あったかもしれませんが、精いっぱい頑張りました! 主人公に感情移入しかつ情景を思い浮かべながら書いていたものですから、中々筆が進まず「これ書き終わるのかな?w」なんて不安もありましたが無事書き終わりました。

この作品は大学祭のために執筆したものですが、前々から溜めておいたネタを元に色々付け加えながら物語を作り上げました。今年の大学祭の展示のテーマは「自然」だそうでこの小説もそのテーマに沿って書かなければならなかったのですが、テーマが決まる前に大筋を固めてしまったので無理やりテーマと結びつけます。(笑)

という事で、この作品のテーマは「自然」です。主人公の(かざみ)君にとって殺人は自然な行動だったという事です。現代社会において殺人は異常な行動ですが、今作では殺人を正常な行動のように書くことでフィクションの世界を生み出しました。後から知ったのですが、精神病質サイコパスという言葉があり、主人公の風君のような理由もなく人を殺めてしまうような人間も極々稀にいるようです。私自身このような小説を書いていますが、別に人殺しに興味があるという訳ではありません。私はこの異常な主人公から「自然」とは何か?という事を伝えたかったのです。「自然」の定義ほど曖昧なものはないと思っています。「自然」とは個々人の常識と価値観によって定まるものですから、人によってその定義が変わってしまうと思うのです。それを法律、宗教や暗黙のルールなどで縛ることにより共通の常識や価値観などを生み出し、それが社会にとっての「あたりまえ」を作り上げているのではないでしょうか。そして、個々の「あたりまえ」がすれ違い、ぶつかり合った時に戦争などの争いが起こってしまうのではないかと思います。私が伝えたい事は、「あたりまえ」で物事を終わらせてしまうといずれ人とぶつかってしまうでしょう。だから、自分の「あたりまえ」を肯定する前に相手の「あたりまえ」を理解してほしいのです。受け入れることはできないでしょうが、それでこの世からひとつ争い事が減るならばそれで良いと思います。それが私の願いです。

長々と説教垂れてしまいましたが、以上がこの作品を生み出した理由です。この話には続きがありますが、長編になりそうなので書けるかどうか不安です。書けないかもしれません。書けたときはまたお会いしましょう。最後まで読んで頂き重ねてお礼を申し上げます。

ありがとうございました!


嵐龍

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