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「お前の手は温かいな」

 返事になってません。とは突っ込めない返事が帰ってきた。

「そう、ですかね」

 あたしの手が温かいというより、王子の手が冷たいんだと思う。

 握られた手が冷たいもん。

「ああ、温かい。ほっとする温かさだな」

 うわ、笑った。

 手を握られたまま、そんな風に笑いながら言われたら乙女心が、いや乙女って自分で言うのは図々しいけど、潤いに免疫の無い乙女心が鷲掴みにされちゃうんですけどっ。

「じゃ、じゃあ仕方ないですね」

 何が仕方ないのか分からないけど、こんなこと言われてそれでもなお、手を離して欲しいとは言えない。

「お前は日本から来たのか。日本という国か」

「ここが日本じゃないなら、あたしは日本から来たと言うことになります。でも王子様は日本語話してますよね、本当は日本を知っているんじゃ」

 日本を知らないのに日本語を知ってるのは変だし。

 というか、知ってるという、レベルじゃない。

 かなり流暢に日本語を話している。

「日本語等話していない。お前がグロリオーサ語を話しているのだ」

「え。嘘」

 そんな言葉知らない。

 あたし英語だって話せないし。

「本当だ。お前、そういえば名前をまだ聞いていなかったな」

「そうでしたっけ。あたしは本城万里です。もとしろが名字で、まりが名前です」

 名前を先に言うべきなのかな。

「まぁりと言うのか」

「まありじゃなく、万里です」

「ま、りぃ。違うな。ま、り。万里ぃか」

「はい。王子様上手です」

 今までスムーズに話が聞こえてたのに、名前になったら突然ぎこちなくなった。

「ふむ、まり。ま、り。万里」

「はい」

 何故名前だけ舌足らずに話す王子が可愛らしい感じがして、これはもしかしてギャップ萌えという奴なのかとまた乙女心を鷲掴みにされた。

 こんな美形が舌足らずに自分の名前を呼ぶなんて、萌えなきゃ嘘だ。

「万里は落ちてきたんだ」

「え」

 言われて首を傾げた。

 落ちてきた? どこから。

「ここに、落ちてきた。俺の上に」

「王子様の上にっ! す、すみませんっ! あたし重かったですよね。うわっ。どうしよう。ごめんなさい」

 落ちて、王子の上に乗っちゃったなんて重いのに、あたし重いのにぃ!

「お前の発想は常に体型に向くんだな」

 この短い間に見慣れてしまった王子の呆れ顔に我にかえる。

 あら、なんで呆れられてるんだろ?

「え」

「重くなかった。驚きはしたがな。突然俺の上に落ちてきて、そのまま熟睡するとはな」

「ごめんなさい。なんて言ってお詫びしたらいいのかもう分かりません」

 なんであたし熟睡しちゃったの。

 馬鹿だ、あたし。

 穴があったら入りたい。

「どこかに穴があったら、あたしのこと放り込んで埋めちゃて下さい」

「穴に埋める? 何故」

「恥ずかしいからです」

 真顔で返され更に恥ずかしさが募る。

 こういう答えを聞くとこの人が日本人じゃないんだなと思う。

 まあ、見た目が全然日本人じゃないけど。

「恥ずかしいと穴に入るのか、お前の国は変わっているな」

「いえ、実際に入るのではなく。穴に入って隠れたい程恥ずかしいということで」

「ああ、そう言うことか。それなら同じような言葉があるぞ。ハナハナビバに拐われたいと言うんだ」

「は、ハナビ、ハ」

 なんだそれ。

「何故急にどもるのだ。」

 今度は王子が首を傾げる。

「え、だって初めて聞く名前なので。ええとハナハナバビロン?」

 あれ、なんか多いかな。

「ハナハナビバ。鳥だ。大きさはそうだな、この部屋の天井じゃ、高さが足りないな」

「え」

 それは鳥じゃなくて、恐竜とかなんじゃ。

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