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 ブレスレットは買ったときお店の人が付けてくれた。

『幸せな縁を結んでくれます様に』

 そう言って手首にブレスレットを通してくれたんだけど……って。あれ、留め具じゃなかった。

「どうやって付けた」

「お店の人がこうやって、手首に。あれ」

 留め具がないんだもん、輪になったままのブレスレットを左手に通しただけ。なのに、今同じようにやろうとしてもブレスレットは親指の付け根に引っ掛かってそこから先に進まない。

「あれ? なんで?」

 長さに余裕ある筈なのになんでだろう。

「外れないみたいだな」

「なんでだろう。付けて貰ったとき無理矢理してる感じなかったのに。あたし一晩で凄く太った?」

 ブレスレットが縮んだりするわけないから、原因はひょっとして、あたし? そんなぁ。

「お前のそれは素なのか」

 あたしの太った発言に、王子は大きなため息をついた。

「え。なんでため息つかれちゃうんですか。あたし真面目に考えてるんですよ。昨日沢山食べちゃったし、太らなくても浮腫んでる可能性はあると思うんですけど」

「浮腫む?」

「あたし代謝が良くないから、水分とか塩分とか取りすぎるとすぐに浮腫んじゃうんですよね。指輪とかしたまま寝ると次の日大変な事になっちゃうから、必ず外して寝るようにしてるんです」

 よく考えたらあたし、寝起きの素っぴんだよ。

 ブレスレット外れない位浮腫んでて、髪は鳥の巣、おまけに素っぴんでこんな格好いい人の前に居るなんて、どんな罰ゲームなんだか。

 頑張ってお化粧したって、ぽっちゃりは所詮ぽっちゃりだし、お化粧は自己満足な感じもするけど、初対面が寝起きの素っぴんて最悪なんじゃないだろうか。

 パイル素材の可愛いワンピースなんて着てたって、残念な要素がありすぎる。

 わーん、今すぐ逃げ出したいっ。

「おい、何をぶつぶつ言って」

「あ、すみません。なんでもないです」

 慌ててベッドの上に正座して、にっこりと営業スマイルを顔に張り付けた。

 今更遅いかもしれないけど、見た目がイマイチなら残るは愛嬌、お客さんには癒し系な笑顔と評判いいんだから。

「そうか、外せないのは分かったからそのまま見せてくれ」

 王子に笑顔は通用しないのか、疲れた様にそう言うから素直に左手を差し出すと、王子は両手であたしの手を握り、しげしげとブレスレットを調べ始めた。

「あの王子様」

 沈黙に耐えきれなくなって、王子に声を掛けた。

 添い寝屋なんて仕事してるけど、私生活は潤いの欠片もないからプライベートでこんな風に手を握られた事なんてないし、なんだか顔が赤くなってきそうだ。

 手を握られて赤面するなんて、今時の中学生だってもっと進んでるだろうに。

 なんだか情けない気持ちになってきてしまった。

「ん」

「そんなに珍しいものでもないですよね。安物だし」

 仮にも王子を名のる人が真剣に調べる様なものでは

 無いと思うんだけど、何が気になるんだろう。

「綺麗な細工だと思うが」

「綺麗ですか」

 そう言うあなたが綺麗ですけどね。

 さっきより顔が近くて、何だか目のやり場に困っちゃうんだけど。

 長い睫毛とか、透き通る様に白い肌とか、手タレが出来そうな位綺麗な王子の手とか、握ってるのがあたしの手じゃなかったらもう少し状況を堪能出来るのに。

「いい細工だ。お前の国の細工師はいい腕をしているんだな」

「これはあたしでも買えるレベルのものなので、そんなに良いものじゃないと思いますが」

 可愛いデザインだけど、所詮露店で売ってる物だしなあ。

 王子様ならもっと良いもの沢山見ていると思うのだけど。この国は技術が発達していないのかな。

「あの」

 そろそろ解放して欲しくて声を掛ける。

「なんだ」

「そろそろ手を離して頂けたらなって」

 こんな事を言うのも何となく恥ずかしい。

 あたしだけ意識しているみたいじゃないか。


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