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ちょっと過去話です

 その晩、どうやらあたしは寝ぼけてベッドから落ちたらしい。

 うとうとと微睡みながら、深いところに落ちていく感覚に少しだけ意識を浮上させるけど、その時のあたしは兎に角疲れていて、瞼を開ける事なんか出来なかった。

「落ちた?」

 たぶん落ちた。

 寝相が悪いわけじゃないけど、どうもベッドから転げ落ちたらしい。

 落ちた衝撃というより、深く落ちる気配があって、ぽんと何かの上に弾んだ。ただそれだけ。

「ぬくぬく」

 ふわふわの何かの上に落ちて、そこはとっても暖かくてあたしは完全に目を覚ます事なくそのまま深い眠りに落ちて行った。

 本当は、寝てる場合じゃなかったのだと気が付いた時には、取り返しのつかない事になっていた。






「おい、起きろ」

「むう」

「むうじゃない。起きろ」

 知らない声に起こされて、しかめっ面で瞼を開けた。

 今日って仕事だったっけ? あたし、ぐうすか眠ってたの? まずいじゃないか。

 あたしの仕事は、添い寝屋だ。

 一種の風俗業なのかもしれない。

 エッチな事はしないけど、一晩買われる。

 ひとつの布団に入って添い寝することもあれば、寝ているお客さんの側に居るだけの時もある。

 どちらにせよ基本的にはあたしは起きていて、お客さんが安眠出来るのを見守るのが仕事だった。

「す、すみません。寝てました? あたし、あれ」

 作り笑顔を張り付けて、慌てて起き上がる。

 寝ててもいいよと大抵のお客さんは言ってくれるけど、本気寝はしたことがなかった。

 それなのに、熟睡しちゃうなんてどうかしている。

「寝てましたじゃないだろ。寝てたよ気持ちよさそうに」

 慌てるあたしを呆れた様に見ながら、お客さんはどんっとあたしの胸を突き飛ばした。

「うわあ」

 不意打ちで突き飛ばされたって、華奢じゃない自信があるあたしは普通ならびくともしない。

 だけど、このベッドは妙にふかふかな上にふわんふわんで、体を支える事が出来なかったあたしは無様にベッドの上に転がった。

「なにするんですか。って、な、なに?」

 庶民代表、というより貧乏代表なあたしには恐れ多い程立派なベッドに転がされてあたしの頭はようやくクリアになった。

 あたし、こんなところに仕事に来た覚えがない。

 というか、今更だけど昨日休みだった気がするしお客さんの顔にも見覚えがない。

 あたしがいくら馬鹿だって、お客さんの顔位覚えてる。

 忘れない筈だ、あまり自信はないけど。

 呆然とお客さんらしき人の顔を見つめ、記憶を探るけどヒントらしいものすら浮かんで来ないなんて流石に異常だ。

 だってこの顔は一度見たら絶対忘れっこない、恰好よすぎるもん。

 今はかなり怖い顔してるけど、さらさらな栗色の髪に緑色の瞳、お人形さんみたいに綺麗な顔してる。

 中性的なわけではなく、体つきは結構がっしりしていて雑誌のモデルとか余裕で出来そうだ。

 年はあたしより少し上っぽいけど、二十代後半って、感じはしない。

「あの、ここどこですか」

「ここは俺の部屋だ」

「あたしなんでここに、って。乗らないでください!」

 なんでお腹の上なのよぉ。あたしスタイル悪いのに、知らない人にお腹の上に乗られるなんて酷すぎる。

「魔力はないな。力も弱そうだ」

「魔力なんてあるわけないし。こう見えてもか、か弱い女の子なんですけど」

 むっとして、お客さんの体を押し返す。

 力いっぱい押し返してるのにびくともしない。なんだかそれってずるい。

「それで全力か、本当に弱いな」

 弱いって、男の人に力で勝てる自信なんかないよ。体重なら勝っちゃうかもしれないけど。

 いや、この人には体重も負けると思う。

 多分、というかあたしの希望だけど、体重も負けてる筈だ。

「か弱いねえ、確かにおまえは小さいな。疑って悪かった」

「そうです、小さいんです。疑われることなんてなにもしてないんです。だからどいてください重いんだってば」

 ばたばたと暴れだすと「悪かった悪かった」と急に笑いだし解放してくれた。

「でもな、お前が疑われることはしていないと言い張っても、これは由々しき問題なんだぞ」

「何が問題なんですか?」

 意味が分からない。

 問題なのはここがどこか分からない事、あたしがどうやってここに来たのかも分からないことだ。

 この人も驚いている様だから、この人があたしを誘拐してきた可能性は低そうだけど、そうすると余計に分からない。

「ここは、俺の部屋。この国でトップクラスの警備に守られてる王子の寝室だ。問題だろ?」

 呆れた様に言いながら、ぐしゃぐしゃとあたしの髪を撫でまわす。

 今度はなんですか、動物扱いですか。とむっとしかけたところで、今の言葉の意味をやっと理解した。

 今、なんて言ったんだっけ? この人なんか凄いこと言ってなかった?

「あれ、あたし耳が悪くなったのかな。王子とか聞こえたんだけど」

「耳の機能に間違いはないな。俺は王子だ。この国の王位継承権第一の王子。アンディ・メイソンだ」

「寝る。あたし寝ぼけてたんだね。うん、ちゃんと寝て。夢から覚めよう」

 王子とか、魔法とか何よそれ。夢だよ夢。

 毛布を頭からかぶって、ギュッと目を閉じて、早く眠っちゃえ。

「こらこらこら。起きろ」

「嫌です。こんなの変だもん。自分の部屋で寝てたのに、起きたら違う部屋なんて、そんな漫画みたいな事あるわけないじゃない。だからこれは夢なの!」


 

 

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