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「怯えなくてもいい。意識していれば殺人衝動は起きない」
「怯えてなんかいません。びっくりしただけです。神様そんな話ししなかったし。でもあたしはきっと特例で大丈夫だと思います。じゃなきゃ神様だってあたしを召喚しないと思うし」
自信はないけど、王子様に殺される確率が高かったら神様はこんな事しないんじゃないかな。だって、何人召喚しても殺されちゃうんじゃ意味ないし。
「……確かに、先ほどはほんの少しの間万里の傍で微睡むことが出来たが……」
「ほら、じゃあやっぱり大丈夫ですよ」
王子の言葉にあたしは無理矢理笑顔を作る。
「あたしは特例です。大丈夫です」
怖いよ。殺人衝動って何って感じだし。
王妃様よりによって、なんて呪いを掛けたのよ。
「万里は怖いと思わないのか? 聖女だから恐怖を感じないそんな事はないだろう」
「呪いの内容は驚きましたけど、でも王子様があたしを殺す事はないと思ってますから」
こんなのただのはったりだ。
平和な日本で生まれ育ったのに、近くにいたら殺すかもなんて言われて怖くない筈がない。
でもさ。
あたしプロだもん。一応二年ちょっと添い寝屋をやってたプロだもん。
嫌とか、怖いとか。そういう顔はお客に見せない。
苦手なお客さんだって、そりゃいるよ。いたよ、苦手なお客さん。
お風呂に何日も入ってないんじゃないのって感じの人とか、やくざかもしれないって感じの怖い人とか、そういうお客だっていたよ。
プロなんだから、お客さんが動揺する様なマイナス感情を表にだしちゃいけないんだ。
「王子さまはあたしが傍にいたら嫌ですか」
今うっかり怖がっちゃったけど、もう絶対王子の呪いを怖がったりしない。
王子の嫌がる理由があたし自身にないなら、あたしは頑張るしかない。
「神様は王子様を大切に思っていると言っていました。あたしに王子様の力になって欲しいって。あたしには、あたしだけには王子様の呪いを浄化できる力があるって」
にっこりと笑って、怖くないって精一杯アピールしながら王子様の両手を握る。
冷たい手だ。
王子様の手は凄く冷たい。
さっき頭を撫でられた時は温かいって思ったのに、今王子の手は凄く凄く冷たい。
「神様は王子の呪いを浄化したいんです。王子を救いたいと言ってました」
嘘だけど。そこまで神様言い切ってなかったと思うけど。
嘘も方便ってこういう時に使うんだよね。
「万里」
「王子様があたしが傍にいるのが嫌じゃないなら、どうか一年間傍に置いて下さい」
「……駄目だ」
「嫌ですか? あたしみたいなのが近くにいるのは迷惑ですか」
泣き落とし。あたしみたいなのがやって効果があるかどうか分からないけど。
根性で王子を納得させなくちゃ。
だって神様と約束したんだから、
「そうじゃない。万里を危険な目に合わせるわけにはいかない」
「王子様。あたしは大丈夫です。絶対大丈夫ですから」
「駄目だ。たった一度短い時間何もなかったからと言って、いつもそうだとは限らないだろう。お前を危険な目に合わせるわけにはいかない」
なんでこんなに頑固なんだろう。
ああ、もう神様なんとかして!! あたし頑張るから、最初位なんとかしてよぉ!
『しょうがないな。万里に協力してあげるよ』




