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「確認するけど、王子に添い寝するのは問題ないんだよね。自分がどういう状況か理解はしてるのかな。一年間王子に添い寝するんだよ」
「はい。それは大丈夫です。あたしの仕事は添い寝屋ですから」
一人のお客さんが毎日指名してくれてるってだけだし。
心配なのは、あたしが一年間一緒にいるって事を王子が我慢できるかどうかだ。
「王子様が寝てる間起きていた方がいいんでしょうか。眠っても平気ですか」
お店の基本方針は、眠るのはお客さんだけ。あたしたちスタッフは起きている。だったけど。寝ててもいいのかな。
「眠っていていいよ。すぐ傍で人が起きている気配がしていたら王子は眠れないだろうしね」
「ああ、そういう人もいますね」
その辺は王子の様子を見て決めよう。
王子が起きていて欲しそうなら起きてるし、眠ってた方がいいなら一緒に寝ちゃおう。
その方があたしも楽だし。
「じゃあ、万里がここで添い寝屋をするのは了承を得たという事で。ここからは注意事項」
注意事項と言われて、思わず姿勢を正してしまう。
ここからが重要? 神様はなんだかにやにや笑っている。
「はい」
「外れない様にしてあるから問題ないと思うけど、ブレスレットは壊したり無くしたりしないこと。これが万里の世界とこの世界を繋いでいるから万一壊したら万里は元の世界に帰れなくなってしまう。万里が帰れなくなる要因は二つある、このブレスレットを壊した時、もう一つはこの世界で命を落した時」
神様の言葉にごくりと咽喉が鳴る。
「死んだら僕でも生き返らせないから。気を付けて」
なんとなく死ぬことはないんじゃないかって思っていたけど、それは甘かったみたいだ。
さっきのも痛かったし、痛みも苦しみも当たり前に感じる。
これは夢じゃない。
「分かりました」
怖いけど、死ぬ可能性なんてよっぽどの事がない限りないよね?
「あと、このブレスレットは万里の命を一回だけ守る事が出来る」
「一回だけ」
「事故でも毒でも、病気でも。理由はなんでもいいけど、万里が死にそうになった時一回だけ万里の命を守ることが出来る。ただし、その力を使ったらブレスレットは壊れてしまうから万里は元の世界には帰れなくなる」
命が助かっても、元の世界に帰れなくなる。
それって、向こうの世界のあたしは死んじゃったのと同じって事だよね。
「分かりました。大丈夫です。あたし丈夫だから病気にはならないと思います」
元気に一年間暮らして、王子の呪いを解けばあたしは元の世界に戻れる。
一年なんてあっという間だもん。楽勝だよ。
寝るのが仕事、それも元の世界でやっていた仕事。簡単だ。
「あと、こっちも結構重要。王子の呪いは万里の体に少しずつ吸収されて解呪される。解呪された呪いはそのまま万里の力になる。年月が経てばその分万里の力は増強されていく。ここまでは理解できたかな」
つまり王子と一緒に眠ることであたしは王子の呪いを自分の力に変換していくってことか。なんか凄い。あたし、とろいし頭もあんまり良くないし、スタイルも良くないし、いいところなんにも無いって思っていたけど、人の役に立つことも出来るんじゃない。
今後の事考えるとちょっと気が重いけど、それってちょっと嬉しいな。




