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魔王が居るってことは、ファンタジーなゲームみたいな感じって事?
魔法があって、魔王がいて、勇者。
レベルを上げるにはモンスターを退治しないといけないとか? うえぇっ。怖すぎる。
「今のところ魔王は復活していないけれど。モンスターというか魔獣はいるよ。この都は強い結界が守っているから魔獣は入ってこられないから大丈夫だけどね」
大丈夫って、でもいるんだよね。魔獣。
人を襲ったりとか、街を襲ったりとか。
怖いよー。やっぱり日本に帰りたい。
「でもあたしが呼ばれた理由がわかりません。勇者は魔王を退治する能力があるから召喚されたのかもしれないけど、癒しの力を持った人はこの世界にいるってさっき言いましたよね。だったらあたし必要ないですよね」
王子ってことは、国のトップでしょ? 強い力を持った人を探すことも可能なんじゃないのかな。わざわざ神様があたしを召喚しなくたって、王子が望めばいいだけの話だよね。
「この世界にも癒しの力をもった人間はいるけれど、呪いを浄化できる人間はいないから君が必要になったって事だよ」
「呪い、呪いって、え。王子様呪われてるんですかっ」
呪いを浄化する能力より、王子が呪われているっていう方に驚いた。
「そう。王子は呪われている。助けたいと思う?」
「あたしで力になれるなら助けたいです。あたしにそんな力があればですけど」
即答。
今日初めて会った人だけど、王子はあたしに優しくしてくれた。
王子はどういうわけか神様の力が見えるらしいから、神様の加護とやらが付いているらしいブレスレットをしている人間に優しくしただけなのかもしれないけど。
泣きわめく初対面のあたしを面倒がらずに慰めてくれたのだ。それだけで理由は十分だった。
「万里お人よしって言われた事ない?」
「お人よしですか? 無いです。馬鹿だとは良く言われていましたけど」
店長曰く、あたしは大馬鹿者らしい。
「同じ意味だねそれ。普通は文句が出るところだ」
「文句ですか」
文句は言いたい。突然召喚されてあたしこんな恰好だし。起きたら食べようと思って冷蔵庫に入れておいたプリンにも未練がある。同僚の美紀ちゃんと映画に行く約束もしてたのに。って、あたし向こうの世界でどうなっちゃうの?
「さっき一年間って言いましたよね。一年も向こうの世界に帰れないって事は、あたし行方不明扱いになっちゃいませんか?」
部屋代も水道光熱費も携帯代も引き落としだからその点は問題ないけど、多分一年分の部屋代とその他もろもろを払えるくらいは貯金あったと思うし、でも行方不明扱いは困る。
「ああ、それは大丈夫。向こうの世界では時間過ぎてないから」
「時間が過ぎない? こっちで一年経っても向こうの時間はそうじゃないって事なんですか」
「時間の流れがここと向こうは違うから」
「それって具体的にどのくらいなんでしょうか」
神様的には時間が過ぎてないとかじゃないなら、一年ここに居てもいいかな。なんて安易に考えちゃうけど。
「一年だと瞬き一回分かな」
「瞬き一回ですか」
それなら、いいかな。
一年間、旅行気分で。人助けだし。
「本当に向こうの世界に帰る事出来るんですよね」
話が上手すぎないかな? あたしにとっては不利な条件では無いよね。
「この状況は不利な条件じゃ無いって思うんだ。万里は本当人が良いというか馬鹿というか」
なんか何気に酷い事言われてる。しかも、若干呆れてもいる様な雰囲気で神様はあたしの事を見ている。
だって、一年頑張ればお家に帰れるし、向こうは瞬き程度の時間しか過ぎてないなら、浦島太郎状態になるわけでもなさそうだし。
聖女様なんて崇めて欲しいわけじゃないけど、王子を助ける為に呼ばれたなら虐待される事もないだろうし。あ、でも。
「あたし魔力無いって言われましたよ。魔力と癒しの力とか浄化の力は違うんですか?」
神様の勘違いって可能性、残ってたよ。




