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「は?」
頑張らなきゃいけない事ってなんだろう? なんて身構えていたら予想外の事を言われて首を傾げた。
一緒に寝るって王子と? なんでそれが頑張るってことになるんだろう。
「万里の仕事は添い寝する事だろ。それをここで王子相手にやって欲しいって事」
「王子様は不眠症か何かですか」
お客さんの殆どは不眠で悩んでいた。
添い寝屋なんて、マイナーな商売だけどそこそこ需要があるのだ。
お客さんは誰かの紹介でお店を知り、あたしを呼ぶ。
お店はどこかのメンタルクリニックと契約しているとか、精神科のお医者さんが副業で添い寝屋を営業しているとか、色々噂はあったけど詳しい事は分からなかった。
数人しかいない同僚は誰も本当の事を知らなかったし、店長もお客さんも教えてくれなかったのだ。
呼ばれる場所はお客さんの家や、ホテル、お店のへや、お店で借りているマンションの一室と様々だったけど、することは一つ添い寝だけだった。
お客さんは女の人も男の人も、若い人もお年寄りもいた。
眠れない辛い夜を何日も過ごし、あたし達を呼ぶ。
一緒に布団に入ることもあれば、枕元に座り手を繋いでいるだけの時もある。
エッチな行為は無しだった。
基本的にはお客さんの望みはなんでも叶えなきゃいけなかったけど、エッチな事は拒否していいと店長から唯一許可が出ていた。
魘されるお客さんは多かった。
眠りながら涙を流すお客さんもいた。
ずっと頭を撫でていて欲しいと希望するお客さんもいた。
皆、どこか傷ついていて、寂しそうで辛そうだった。
王子はお客さんに感じていた寂しさや辛さは感じなかったけど、何が問題で不眠になっているんだろう。
「不眠、そうだねえ。そんな感じ。万里にはね癒しの力があるんだよ。あっちの世界の人間には珍しい力だね」
「癒しの力」
そういえば、お客さんに言われたことがある。
あたしと寝るとぐっすり眠れるだけじゃなくて、心が元気になった気がするって。
それがあたしの力?
「癒しの力、あるのかもしれないですけど。元気になった気になる位が関の山なんじゃないかな」
眠れない人がぐっすり寝ることが出来たら、それだけで体の疲れは回復する。
体が元気になれば心だって元気になると思う。
あたしが居ると熟睡できるって言うお客さんは多かったけど、それはひと肌効果だと思う。
ある程度の年齢になったら、恋人や夫婦で無い限り同じベッドに眠る事はないだろうし、眠れないから添い寝して欲しいなんて、仲の良い友達にも頼めないだろうし。
ひと肌が恋しいと思ったって、その欲求を叶えるのは難しいのかもしれない。
あ、でも。
「王子様なら添い寝したいって人沢山いるんじゃないですか? なにもあたしみたいなのを呼ばなくても。この世界にも癒しの力位持っている人いるんじゃないですか?」
なにせ魔法が普通にある世界だ。
ゲームに出てくるHP回復の魔法みたいに、王子を癒してくれる魔法があったっておかしくないと思う。
「癒しの力を持っている人は沢山いるよ。少しの怪我なら簡単に治せる。さっきこの男がやったみたいにね」
「ホルガーさんのお水」
火傷治ってなかったと思うんだけど。効果が出る前だったのかな。
「そう。あれは癒しの水。本当なら一瞬で火傷が消える。僕の力の方が強かったから効かなかったけどね。この男が無能なわけじゃないよ」
「そんな事思ってませんけど」
無能って、仮にも自分に使えている神官に向かって酷すぎるんじゃないの?
神様って結構性格悪いのかも。
「性格が悪いってよく言われるよ。昔召喚した勇者も言ってたなあ。懐かしい懐かしい」
また心を読まれたらしい。
勇者って、そんなのまで召喚してるんだ。
「え、勇者も召喚したんですか」
神様って万能じゃないの? なんでなんでもかんでも召喚しちゃうんだろう。
「そ。神様にも決まりがあってね。自分の世界の物にはあまり干渉が出来ないんだ。なにか大きな事をさせるには他の世界から召喚しないといけない」
だからって、気軽に召喚されても困るんだけど。
というか、勇者はなんで召喚されたんだろう。
「勇者を召喚する理由なんて、ひとつでしょ。魔王退治」
当然とばかりに神様は言うけど、あたしはその一言で震え上がった。
「魔王っ。そんなのまでこの世界はいるんですか」




