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「なんで、急に」
皮膚が焼けている様な痛みが続いて、火膨れができ始めるけどブレスレッドは外れないからどうすることも出来ない。
「見せてみろ」
「王子様、触っちゃ駄目です。火傷しちゃう」
「聖女様、お手をこちらに」
ホルガーさんの魔法なんだろうか、両手で水の塊をあたしの前に差し出してきた。
「この中にお手を入れてください。癒しの水です」
「ありがとうございます。あ、冷たい」
水の塊の中に左手を入れると、ひんやりとしたものに包まれた。
「本物の水なんですね」
中で指先を動かすと、水の塊が揺れる。
「飲むことも可能ですよ」
「そうなんですか。魔法って凄いんですね」
冷たい水の中に左手をつけても痛みは変わらない。熱さも変わらない、どんどん酷くなっていく。
「少しは楽になったか?」
「熱は変わらないみたいです。なんで急に」
ひりひりと皮膚が焼け続けている気がする。
水の塊の中で、あたしの左手は赤く腫れあがっている。
「どうしてこんな事」
「それは万里が聖女だって認めたがらないからだよ」
「だってあたしは、聖女なんかじゃ……。あなた誰」
突然知らない声が部屋の中に響いて、あたしは驚いて声を上げた。
「僕はイシュル。万里をこの世界に召喚したこの世界の神だよ」
ホルガーさんの頭上に突然現れたのは、金髪で青い目の少年だった。
綺麗な顔だけど、少し怖い感じがする。
「神様? 王子様、この人がイシュル。あれ? 王子様?」
抱きしめられたままの体勢で振り返るけど、王子はぴくりとも動かない。
目の前のホルガーさんも、目を開けたまま眠ってでもいるように反応が無くなってしまった。
「ふたりの時は今止めてある。この世界の人間の前に僕の姿を晒すわけにはいかないからね」
時を止める。その一言にあたしは硬直してしまう。
そんな事が簡単に出来るものなの? これも魔法なの?
「魔法じゃなく、神の奇跡と言ってほしいね。万里」
「神の奇跡。じゃあ、この熱も光も」
神様は心を読めるんだろうか、声に出していないのにあたしの疑問に答えてきた。
「そう僕の力」
神様の力。
「火傷したままじゃ可哀想だから治してあげるね」
神様の手から出た光があたしの左手を包むと、ブレスレットの熱も光も消え痛みも一瞬で消え去った。
「あ、痛くない。ありがとうございます」
火傷が治ったのは嬉しいけど、神様が自分で火傷させたくせに可哀想ってなんだか酷いけど、治して貰えたから良いのかな。
魔法って凄い、一瞬で火傷まで治せちゃうんだ。
「それは万里が悪いんだって、君が頑固に聖女じゃないって言い張るからお仕置きしたの」
聖女じゃないって言っただけで見ず知らずの人にお仕置きされるなんて、なんだか理解の範囲を超えすぎていてまた涙が出てきそうだ。
火傷治してくれてありがとうなんて言わなきゃ良かった。
「泣かないでよ鬱陶しいから。君は聖女なんだからそれは自覚する様に」
じわりと滲む涙を煩わしそうに見ながら、神様は無理な事ばかり言う。
「自覚する様にって。あたしはあなたを信仰してないし。なんの力もないし聖女だって言われても」
昨日まで日本でのんびり生きていたのに、いきなり他の世界に落とされて聖女をやれとか無茶すぎる。
でも、あたしの文句なんか神様にはどうでもいいみたいだった。
「それでも聖女なんだよ。君の力は君が自覚してないだけでちゃんとあるから大丈夫」
自信たっぷりにそう言い切ると、神様はあたしの前に降りてきた。
「君は元の世界に帰りたい?」
「それは勿論帰りたいです。今すぐに」
「本当にそう思っているのかな」
「だってこんな知らない世界で暮らすなんて不安だし。あたし聖女なんてやれる自信ないし」
貧乏だけど、それなりに楽しかった。
仕事の仲間ともうまくいってたし。彼氏はいなかったけど。
帰ることが出来るなら、今すぐ帰りたい。
「ふうん。まあ、いいや。万里が一年頑張ったら返してあげる」
「一年。何を頑張ればいいんですか」
努力とか根性とか、あたしが最も苦手な類の事だけど、この際そんな文句は言っていられない。
「一年間、毎日王子と一緒に眠る事」




