紅影:待ち人
結構スラスラと書けたんで投稿。
「ひぃぃぃーーーっ!」
「………」
無益な戦い。それが、この戦闘における私の心からの感想だった。
「きゃあぁぁぁーーーっ!?」
「………」
何者がやったのかは分からないが、この大図書館、いや、紅魔館に襲撃があったらしい。それは紅魔館を駆け巡る大きな魔力の塊―――おそらく妹様のものだろうけど―――から分かった。まあそうでなくともここのいる不埒な者共から誰でも想像できることだけれど。
「うわあぁぁぁーーーっ!!?」
「………」
目の前の襲撃者。これまで見たことない敵。数百年生きてきた私でもこんななりのモノに遭遇したことは皆無だった。
どちらと言えば妖怪寄りの、しかし妖怪とは全く異なる雰囲気を持った襲撃者。こいつらが一体何者なのか少しばかり興味がある。魔法使いという職業病だろうか、未知に出会うと追究解明したくなるのは私の癖であった。
「いやあぁぁぁーーーっ!??」
「………」
とは言っても。
未知の研究対象と言えど、私の図書館を勝手に荒らしてもいいという理屈にはならないわ。これは私の図書館なのだから。
そう、私の―――
「パチュリーさまあぁぁっ!! いい加減に助けてくださいよおぉぉぉーーーっ!!!」
かっこよく決めようとしたところでうるさい外野から声をかけられた。
「うるさいわよ小悪魔。今いいところだったのに」
「こっちはただいま絶賛大ピンチですよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うひぃぃぃーーっ!?」とか悲鳴をあげながら、黒い襲撃者の攻撃を危なげに避けてゆく。小悪魔一人に対して襲撃者は十名ほど。飛んだり走り回りながら逃げ惑う小悪魔の涙顔を見ていると何だか暴漢に襲われる少女のイメージがふと思い出されるのだが、その主犯たちは自我があるのかさえ不明な見た目化け物の集団。どちらかと言えば妖怪に襲われる人間のイメージに近い。
自分は悪魔という立派な妖怪のクセに、どうして役者が入れ替わるのかしら。とんだ大根役者ね、と私はつぶやく。
今更だけど、あそこで逃げ回っているのは小悪魔という私の召喚魔。この図書館の整理と管理を任せている。いわば司書ってところね。
私はパチュリー・ノーレッジ。この大図書館の主にして、紅魔館の当主レミリアことレミィの友人。さっき言ったように魔法使いで七曜の魔法使いなんて言われてたりもする。生まれながらの魔法使いで所謂魔女ってやつ。自称普通の魔法使いの白黒魔法使いとは違って人間じゃない。カテゴリー的には妖怪に区別されるのかしら。
「パチュリーさまあぁぁぁ!! 余裕あるなら手助けしてくださいぃぃぃぃ!!?」
小悪魔のバカうるさい大声が図書館内に響き渡る。襲撃者たちはほぼ無音状態で行動しているからここに無駄に響き渡るのは小悪魔の足音と叫び声のみであった。
全く……上品じゃないわね。私の使い魔たるもの、常に泰然としてもらわなきゃ困るわ。
小悪魔の周りに襲撃者がいるように当然のごとく私の周りにもこいつらはいる。けれどこいつらの戦闘力は小悪魔に毛が生えた程度でしかない。
つまるところ、雑魚なのだ。数百年生きてきた魔法使いの私の敵ではない。
しかし、元々下級悪魔である小悪魔はそうもいかないようで。単体での戦闘なら何の苦もないが、敵が増えていくごとに戦闘が悪化していった。十体にもなるともはや戦闘続行は不可能と判断して逃げに徹することにしたようだ。
それでも情勢は厳しいようだが。相手の攻撃も何発かもらっているようだ。
まあ、確かに私の方は余裕がある。敵そのものも弱いから範囲魔法で一瞬で消せる上に残った敵の攻撃は発動中の「水符『ジェリーフィッシュプリンセス』」で防御している。一定数のダメージで破裂するものの、そんなに多くのダメージが蓄積する前に敵は倒してしまうため問題ない。
小悪魔の方は敵の攻撃で服が所々破れかかっている。これ以上長引くと服が破れて小悪魔のあられもない姿がここで披露されることになるだろう。それはそれで面白そうではあったが、流石にそれはアレだし、何より女しかいないこの紅魔館でそんなサービスカットは誰も得をしない。
私は周りの雑魚を炎の範囲魔法「サマーフレイム」で一掃し、空いた空間から小悪魔を追いかける襲撃者に向けて魔法を放つ準備をする。
私は常に肌身離さず持ち歩いている魔道書がある。魔道書そのものは魔法の威力を高めるための出力機関に過ぎず、この本そのものに記載されている魔法の文句は全て暗記している。それでも、状態保存の魔法がかけられ長年共にあった愛用書はこれ以上にない魔法媒体として機能してくれていた。
私は図書館の本に危害を加えないように、加えたとしても最低限で済む魔法を選別する。決定したのは簡単な魔法だった。
私が操る木、火、土、金、水の五行の力。その一つの金属性の初歩的な魔法。
私の体内に眠る魔力を、金属性を帯びたものに変換させてその魔力を私の前に顕現させる。それは、刀身がやや短い短剣のような形状をした金属性の魔法だった。
「―――オータムエッジ」
そう名づけられた金属製の短剣は私の前に整列するように並ぶ。合計すると丁度十本ある短剣が小悪魔を狙う襲撃者どもを逆に狙いをつける。遠くから狙いをつける狙撃手のように私は短剣を射出する。
高速で一直線に進む短剣は狙い違わず襲撃者どものうなじに当たる首の一部分を貫通した。
襲撃者どもは一定のダメージを負うと地面に溶け込むようにして消えることがこれまでの戦闘から判明した。普通一般に言われる弱点に攻撃を加えるとより少ない数で絶命(?)することも確認した。
今回もそれに違わず、襲撃者どもは短剣が貫通した瞬間から動きを停止しその後は地面に消えていった。
「あ……た、助かったーー……」
襲撃者に追われていた小悪魔は見るからに安堵し、まだ敵は完全に消え去っていないのにも関わらずその場にぺたりとしゃがみ込んでしまった。それほど疲労しているのだろう。
私は小悪魔のもとに浮遊しながら近づく。
「大丈夫? 小悪魔」
「あ、パチュリー様…」
小悪魔は私の姿を捉えた瞬間、うるっと涙腺を緩めた。
次の瞬間には小悪魔は私の胸の中にいた。
「うわあーーんパチュリーさまぁー! こわかったですよぉー!」
もはや悪魔という矜持を捨て、まるで子供のように泣き喚く小悪魔。背丈だけなら小悪魔の方が七、八センチは軽く高いため、絵面的には非常に悪い。でかいだけの子供みたいだ。
私はよしよしと慰めながら小悪魔をあやす。一応私が助けるのが遅くなったため逃げ惑う羽目になったのだが、そのことをこの小悪魔は恐怖からの解放からすっかり忘れているようだ。私的には後ろでぶつぶつ恨まれるよりはいいので忘れてもらって一向に構わないのだが。
それと、そろそろいい加減に離れてもらわないと。
「小悪魔、そろそろ離れなさい。敵が全滅したわけじゃないのよ」
「……そう、ですね」
そのことを告げると、小悪魔は名残惜しそうに私から離れた。
「全滅どころか」
「数も、元に戻ってますもんね……」
小悪魔はもう私から離れまいと私の真横で敵に向かって精一杯の威嚇をしていた。
私がサマーフレイムとオータムエッジで倒した襲撃者はこの僅かな時間で復活しており、何食わぬ顔でそこに立っていた。
これが、こいつらの一番分からないところ。倒しても無尽蔵のようにこいつらは湧いて出てきて私たちを襲ってくる。
そもそも私たちを襲うこと自体不可解なわけだが、ここではそれは置いておく。
問題はこいつらの数だ。いったいどれくらいいる?
まさか不死? 地面に溶け込むアクションは復活するまでの過程?いや、何か永久機関のようなものを持っているのかもしれない。
「こいつらは、普通の妖怪とは少し違いますね…」
「そんなの、誰が見たってわかるわ」
「うぅっ……雰囲気とかが、ですよね」
答えるまでもない、と私は付け加える。そう言うと小悪魔は見るからにガクッと肩を落とすのだが、今はそんなどうでもいいことを気にするほど思考にスペースはない。
「まるでこいつら、蜥蜴の尻尾切りのようね……」
蜥蜴の尻尾は切り落としても時間がたてばまた新しい尻尾が生えてくる。まるでそれのようだと揶揄して言ったのだ。
それに、そういうことができる魔法がないわけでもない。
大本が別にあって本体とは切り離されたものが襲ってくるなど、魔法を駆使した技術でよくあるものなのだ。今回はその事象に近いものかもしれない。
適当につぶやいただけだったが、案外それは確信を突いているかもしれないと私は思った。
(とは言っても、その大本が分からないのじゃ手の打ちようもないのだけど)
私は努めて冷静に状況を把握する。この程度の危機、私が生きていた間でいくらでもあった。
(動揺するほどでもないわ。こんな有象無象、一瞬で蹴散らせる)
そしてそれは正しい、と先程の初級魔法だけで倒せた実績からも間違いない。小悪魔だって落ち着いて各個撃破していけば耐えられないことはないだろう。先程は気が動転していただけであって。
それに……。
私はその先を考えると思わず苦笑してしまう。そんな私に小悪魔が怪訝そうに首をかしげる。
「パチュリー様?」
「ふふ。いえ、少し考えごとをね」
理由を聞いてなお小悪魔は怪訝顔を濃くする。
「うう、私は、そんな考えごとできるほど余裕じゃないですよ……」
弱音を吐く小悪魔の表情は、言葉通りに暗い。今の状況で静観できるほどの実力がないのもそうだが、何より性格的な問題もあるのだろう。小悪魔は昔から引っ込み気質だからだ。
悪魔のクセに、と私は思う。
「大丈夫よ。あと少しで、貴方も余裕ができるようになるから」
「……へ?」
私の言葉に目が点になる小悪魔。
しかし、これには予感めいた確信があった。
普段は傲慢で我儘だけど、時折見せる友達想いな一面。見ていて微笑ましくなるような私の友人。
彼女は、絶対に来ると。
そう私が予感していると想像通り大図書館の扉がバーーン! と開かれ、光量が圧倒的に足りない中にまぶしい光が入って来た。
それと同時に三人の影が現れる。逆光でよく見えない……が、一人は確実に分かっていた。
「パチェ!!」
彼女は扉を勢いよく開けたらしく、両腕を広げた状態で姿を現した。
私の一番の友人、レミィが。
「まだ生きているわよね!!」
さも当然のごとく、レミィは一切の迷いもなく自分の言葉に間違いはないとばかりに。
私が生きていて当然とばかりの第一声で。
「レミィ」
だから私も、その答えに相応しい回答を。
言った。
「―――扉が壊れるからもっとゆっくり開けなさい」
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