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東方現幻録  作者: カヤ
1章 紅の館と得た力~Fight time after time
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紅影:異常な異形

 面倒なことになった。

 圭吾にはここに残るとか言っちゃったけど、はっきり言ってこんなところに長居したくない。あんな黒いのを引き付けるんなんて勘弁願いたい。

 私は別に大妖怪じゃない、木っ端妖怪に過ぎない。あんな見たこともないような敵と戦うなんて、圭吾が紅魔館に行くなんて言わなかったら私だってやらなかった。

 紅魔館に義理立てする理由もなし。そもそもできるかどうかさえ怪しい。

 なのに、まあ。



「加勢、するよ」



 こうやって、なんやかんや言って戦場に巻き込まれに行ってるんだけど。

 刀剣類や弾幕を射出していた闇を薄め、紅魔館の庭で戦っていた武人に声をかける。名前は忘れたけど、確か紅魔館の門番をしていた女性(ひと)だったと思う。

 燃えるような長い赤毛に星のマークがついた帽子。中華風の服には赤い血がべったりだ。それほど疲弊しているわけではなそうだけど、怪我を負っているみたい。

 まあ、体力が余ってるなら自然回復力も早いでしょ。そこまで気にかける必要なし。


 私は魔力を集めて十字型の剣を作る。三秒とかからず身の丈ほどの大剣が生み出される。私の能力を象徴するかのような闇色で、血のような赤いラインが十字に交差するように浮かび上がっている。

 私のお気に入り。近接戦にはもってこい。


 片手で振り回すにはあまりに重く長大な大剣を片手で握り、紅魔館の門番に近づく。手負いの門番は私が近づくと疑いの眼差しを向けた。

 ま、当然と言えば当然だよね。いきなり加勢とか言われても普通疑うよね。



「……あなたは?」

「ルーミア。宵闇の妖怪。そっちは、紅魔館の門番だよね」

「…ええ」



 門番は私に対する警戒を解かず、素早く構えをとる。構えたところから出てくる殺気は前後ろ、つまり私に対しても放たれていた。

 私はそんな門番からの殺気を気づきながらも無視し、大剣を肩に担いでからの一薙ぎ。私の前に現れた一体の黒いのをスパッと上下に分断する。真っ赤な血飛沫をあげて倒れる―――ことはなく、そいつは音もなく弾け飛んだ。



(…うーん、何で消えるのかなあ)



 この世に存在するものは全て形を持っている。生き物は死ぬと何であれ形を残すはず。

 けど、この黒いのは湖でもそうだったけど、死んでも死体が残らない。消えてしまう。自然が生み出した存在である妖精でも、一定時間は体を現世にとどまらせる。

 だから不思議なのだ。一体何故?



(ま……考えても分からない、か。頭脳派プレイはニガテだし)



 刹那に生きる私には難しい問題だ。

 だって、今の方が大事だよね。数年先の未来を考えるよりも今日の晩御飯を考える方が大事だよ。

 そんなことを考えながら敵を捌いていく。敵は思った通り強くない。けれどいかんせん数が多くてたまらない。

 まさか敵の数が多くてやられてる、なんてことはないよね。



「……何故?」

「?」

「何故、私を助けたのですか?」



 紅魔館の門番が背中越しにそう聞く。背後でも彼女が戦っている気配がする。とりあえずは、私を危険人物から外してくれてのかな?

 何故、か。そりゃ、理由は一つだね。



「連れの手伝い、かな。本当は私、こんなとこに来るつもり、なかったし」

「連れ、ですか?」

「そ、連れ」



 私は圭吾が紅魔館に行くと言ったからここまでやって来た。圭吾が紅魔館の中に入るからここで敵の注意を引きつけている。



「私はこの黒いのとは無関係。紅魔館に何かする気なんてないよ」

「……本当ですか?」

「私だってこの黒いのの何なのか知りたいくらいだよ」

「……分かりました。今は、信じておきます」



 今は、って疑り深いなあ。まあ、永続的に信頼を獲得するつもりもないし、いいけどね。



「じゃ、さっさとこいつら潰そうよ。パパッとやろう」



 不気味な見た目に反してこいつらの戦闘力はそこいらの下級妖怪と変わりない。私たちのような人型の妖怪に比べたらとるに足らない輩だ。さっさと倒してしまうに限る。

 大剣を構える。標的を見定めて突撃を―――



「危ないっ!」



―――ドンッ!!



「…!?」



 駆け出そうとした後方から、門番の声と轟音が届いた。

 一体何事だ、と後ろを振り返った私は驚きを隠せない。



「な……」



 振り向いた目の前には、あの黒いのがいた。そいつは私の目の前で弾け消え、その先に門番が拳を振り抜いていた姿がある。

黒いのは腕を振りかざしてあと少しで攻撃が届いたという距離だ。門番が倒してくれていなければ私は攻撃を食らっていただろう。

 けど、何で? 気配なんて無かった、感じることさえできなかったのに。



「……同じだ。湖のときと」



 湖でこいつと対峙したとき、気配がまるで感じられなかった。圭吾に言われて初めて気づいたくらいだ。

 私は警戒レベルを最高値まで引き上げ、どこからでも対処できるように大剣を構えなおす。図らずも、自然と門番と背中合わせの格好になった。

 背中から門番の気配が漂ってくる。流石紅魔館の門番というだけある、私よりも遥かに凌駕する魔力が伝わってくる。



「…さっきも、私はこれでやられました。音も気配もなく奴らは背後を奪って攻撃してきます」

「………」



 なるほど、と私は納得した。これが紅魔館の門番に手傷を負わせた一撃なのか、と。



「これは……思ったよりもヤバいかも」



 私が手におえるレベルじゃないかも。まあ…それは紅魔館のこの状況を見れば一目瞭然なんだけど、少し侮ってたみたい。どうにかなるでしょ、そんな感覚でいたのは失敗だったようだ。



「圭吾……」



 私は紅魔館の中に入っていった一人の友人を思い浮かべた。

 彼は大丈夫だろうか。無茶ばっかりする、私の友人。自分が何の力も持っていないことを誰よりも自覚しているはずなのに、他人のためとなると自分を顧みず助けに行こうとする。

 ホント、お人よし過ぎるんだよね。

 彼の安否を心配しつつも、私は目の前の敵に集中せざるを得ない。手を抜くと、こちらがやられてしまうから。


 一体ずつ、殺していくしかないか……!


 そうやって私は、大剣を再び担ぐ。


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