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東方現幻録  作者: カヤ
1章 紅の館と得た力~Fight time after time
20/29

紅影:庭園の死闘

 庭園は戦場だった。

 美しく整然としていた庭園も今はその面影が欠片もない。門は壊れたし、戦いのさなかで花壇は吹き飛んだし、手入れして美しく咲き誇っていた薔薇の花々も全てが見るも無残な姿だ。

 ここは一体どこだ、と自分自身に問いただしてみたかった。


 紅魔館の庭園。それは人妖問わず外部のだれが見ても美しいと唸らせるほどの壮麗さを備えた一種の芸術作品だった。そしてそれは私も例外ではなかった。

 だが、一瞬にして、この庭園は様相を変えてしまった。


 まるで悪夢のようですね―――と私、紅美鈴(ほんめいりん)は感じた。

 全く、度し難い悪夢だ。



「ハッ!」



 右腕に意識を集中させて鋭い拳を放つ。僅かに“気”のこもった拳の速度にヒュン、と空気を切り裂く音がする。

 ゴッ! と激しい拳圧が相手に突き刺さり、その勢いのまま体を貫く。腕を微妙に回転させることで殺傷力を飛躍的に向上させており、破壊力はただ殴るのとは段違いだ。

 貫かれた相手は水がはじけ飛ぶかのように飛散し、そして地面に消えていった。

 一息つく間もなく、私は次の標的を見定める。休憩するには少しばかり敵の数が多すぎた。


 私は敵に完全に囲まれていた。

 少なくとも敵影は一五体以上。見えない敵も合わせるとそれ以上かもしれない。

敵数は未知数。実力は不明。目的も謎。

 何が何やら分からないままこの戦闘が始まってしまい、私も紅魔館を守護するものとして害するものに応戦する羽目になった。



(それにしても…なんですかこいつらは)



 私は敵を捌く片手間に思考する。

 こいつらは奇妙だ。異端すぎる。

 こんな敵、これまで一度も見たことがない。それは姿形もそうだが、こいつの性質というか特性というか能力というか。

 これでも私は長い間生きているし、それなりの数に出会ってきた。友好的な者もいたし好戦的な者もいた。友と呼べるほどの輩にも出会っている。反対に二度と出会いたくないものもいたりした。

 そんな輩を考慮しても、目の前の敵は計り知れない異常性を秘めている。

 どんな生物も体内の血液を循環させて命の輪という円環を廻している。体に傷がつくとその円環が途切れ生命が脅かされる。

 しかし、この目の前の化け物は血を一滴も出さない。それどころか一定数量ダメージを負うと水がはじけるように消えてしまうのだ。死体にさえ残らないのだ、これを異常と呼ばずして何というか。

 いくら幻想郷といえども、生命を持たない生物などいないだろう。



(幽霊は例外かもしれませんけどね……)



 考えている間も敵は休むことを知らない。輝く光に集まる蛾のように敵はわらわらと私に襲いかかる。

 かれこれ二時間近く戦っているが、敵の戦力は衰えるということがない。倒しても倒しても敵はいつの間にかに同じ数に戻っていて、いつ終わるやも知れぬ戦いに私は閉口していた。

 敵自体は全く強くなくて軽くあしらえる程度なのがまだ救いだ。これで敵が強かったりしたらもうどうしようもなかっただろう。


 そう考えごとをしている間にも敵は攻めてくる。

 相手の主要な攻撃方法は爪だ。刃物のように長くて鋭利な爪はそれ自体が武器になっているようだ。あと稀に突進を繰り出してくる程度か。攻撃パターンが少なくて助かる。

 黒い化け物が爪を振りかざして切り裂こうとしてくる。この長丁場でスタミナを温存することが最優先事項だと理解した私は爪攻撃を肩を引いて紙一重で躱し、拳を入れる。顔面と思わしき部分に入れた拳は相手の顔が陥没するほどくい込み、反発する力で後方に遠く吹き飛ばす。その射線上にいたお仲間を巻き込みながら、そいつは憶測で十メートルほど吹き飛んだ。吹き飛んだ化け物は立ち上がることなく、やはり先程の奴と同じように消えた。



(また、ですか……!)



 一息つく間もない。背後から近寄る気配に対して攻撃される前に回し蹴りをお見舞いし、その個体も例に漏れず地面へと消え散った。

 群がる敵に私は七色に輝く虹色の弾幕を撒き散らして敵を殲滅する。突き刺さったり貫通したりまちまちに化け物は被弾し、そして消えていく。



「倒しているっていう感覚が、ありませんね…!」



 捌ききれなかった敵の攻撃をかいくぐりながら私はこの感覚に違和感を覚える。そう、敵を倒しているという感じが全くしないのだ。

 水面に映る魚影を本物と信じてそれを叩いている感覚―――本体ではなく上っ面でしかないものを叩いている感覚、というべきか。狐に化かされている感覚とも言えるか。

 どっちにしろ、このままではジリ貧である。有効な決定打を与えない限りこのいつ終わるやも知れぬ戦いの幕は下りない。



(まあ、その決定打を出しあぐねているわけですけどっ!)



 肘打ちからの掌打、震脚。下がって弾幕、回し蹴り。

 拳法の技を駆使し、時折弾幕を織り交ぜながら敵を処理する。敵も爪と突進しか攻撃のレパートリーがないのか、実に単調な攻撃だ。これなら、私でなくとも修行と研鑽を積んだ達人の域に達した人間でも対処できる。



(早くお嬢様に加勢しないと……)



 既に紅魔館内部には敵が流れ込んでいるらしく、先程の派手な爆発音もおそらくお嬢様か妹様あたりがやらかしたのだろう。



(あの二人に何かあるとは思えませんけど…何となく早く合流した方がいい気がしますね。嫌な感じもしますし……)



 その嫌な感じが、悪い意味で己の身に降りかかる。

 背後に、異形がいることに気づかない。


 その存在に気づいたのは、私が深い一撃を受けてからだった。



「あぐっ…!?」



 背中に熱い痛み。振り返るよりも早く私は本能的に無造作に蹴りを入れた。

 本来ならそこには何もなかった。いなかった。だから私の攻撃は空虚なものになるはずだったのに。


 ドゴッ!


 いた。

 無造作な蹴りだったためか、大したダメージにはならずに敵との間合いを若干広げただけだった。


それでもその好機を見逃さず、痛む背中を無視して私は間合いを一気に詰めて肘打ちの技を決める。



開門肘(かいもんちゅう)!!」



 一瞬で敵の懐に入って鳩尾と思わしき部位に肘を当てる。速度と急所を重視することで相手の気絶を狙う技だ。

 はたして相手が気絶したかは謎だが、敵はやはり地面へと消えていった。しかしそれを見届ける暇はなく、私は攻撃を受けた背中に意識を傾けた。



(く…油断、しました……)



 自分の背がどういう状況になっているか分からないが、おそらく酷い有様になっているだろうことだけは推測できる。切り裂かれた部分が熱く感じる。

 思ったよりも鋭い爪だ。薄くしか張ってなかったとはいえ、気で防御していたにもかかわらず相手の攻撃はそれをやすやすと切り裂いた。

 完璧に張っていたらどうなったか分からないが、相手の力量を見誤った私のミスだ。下手をしたら致命傷を負っていたかもしれない、そう考えるとうすら寒い思いがした。


 しかし、やつは何故背後にいた?

 油断していたと言えばそれまでだが、少なくとも周りの警戒を怠っていたつもりは毛頭ない。それが背後ならなおさらだ。

 後ろを簡単に取られるほど、私の腕はなまっていない。先程まで後ろを取られたことなどなかった。

 だが、その結果を嘲笑うかのように奴は一瞬で私の背中をとった。



「……?」



 ふと、私は目の前の化け物と目があった気がした。奴には顔などないが―――そう感じ取れた。

 感情を現わさない真っ黒の鏡のような顔には、目などない。

 ……ない、のに。



 ―――ニタァ



「……っ!?」



 笑った、気がした。

 張り付くような不気味な笑顔が、垣間見えたような―――



「…あ」



 気づいたときにはもう遅かった。

 目の前の奴に気を取られ過ぎていたのだ。

 背後にいた敵に気づけなかった。またもや気配を感じ取れず、後ろを許してしまった。

 しかし、もうどうにもならない。防御するのも、迎え撃つのにも遅すぎた。

 奴の攻撃はまたもや爪だ。しかし、その鋭利さは自分の体で実証済みだし、何より頭に向かって攻撃を仕掛けていた。

 いくら妖怪でも頭をやられれば戦力はぐっと下がるし、当たり所が悪ければそのまま死ぬこともある。ましてやあの鋭さだ、良くて致命傷、悪くて即死だろう。


 ゆったりと進む時間の中で、私のこれまでの思い出が次々と流れていく。いわゆる走馬灯というやつだ。

 流れるのは紅魔館での出来事。

 お嬢様に雇われてから今までの記憶が怒涛のように流れていく。

 初めて出会った日のこと。外敵を排除して褒められたこと。紅茶を淹れて美味しいと褒められたときのこと。暇つぶしに付き合わされたこと。幻想郷にやって来たときのこと。咲夜さんを拾った日のこと。異変を起こしたときのこと。楽しそうに宴会に参加したときのこと。

 楽しかったことも、つらかったことも、全部。流れていく。


 ―――ああ、私は、ここで失ってしまうのか。

 思い出を、記憶を。

 ―――ああ、私は、会えなくなってしまうのか。

 お嬢様に。紅魔館の皆に。


 つらいけど。胸が張り裂けそうになるほど悲しいけど。

 もう―――終わりか。



 申し訳ございません、お嬢様―――



 そう、つぶやいた。

 今生の別れを。

 …死を、覚悟した。

 はたして私は。



 ゾンッッッ!!



「!?」



 ……どうやら、存外しぶといようだ。


 突如一陣の風が巻き起こる。ゴッ、ともの凄い音がしたと思うと次の瞬間には私の目の前の黒の異端者に黒い槍が突き刺さっていた。脳天を串刺しにされて致命傷となったのだろう、ソイツは消えていった。



(何が……)



 わけが分からない。突然の攻撃で死を覚悟され、次の瞬間にはそれが払拭された。いや、まだ死の危険が完全に消えたわけではないが、想定していた未来が崩れて拍子抜けしてしまったのだ。

 黒いソイツが消えた後、黒い槍がカランと無機質な音を立てて地面に落ちる。私はその槍を放った真正面を警戒して見た。


 そこには闇があった。

 深い深い、黒よりも暗い闇がポツンと浮かんでいた。



「何……?」



 どんな色にも染まらない、黒より暗い闇色の球体。その闇から生成される漆黒の剣や槍や弾幕が黒の化け物を貫いていく。弾幕の隙間を埋めるように発射される武器類はさながら雨のようだ。

 思わぬ闖入者に化け物どもも戸惑っているのか、あの闇に成す術もなくやられていく。私の格闘術のように単騎専用とは違って全方位に射出されるそれは化け物どもと相性がいいらしく、あっという間に数を減らした。

 ある程度数が減ったと見るや否や、突然目の前に浮かぶ闇が薄くなり出す。私は警戒を解かずに成り行きを見守る。

 闇を解いて現れたのは―――



「加勢、するよ」



 金色の髪の少女だった。

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