タイムストップ。
大変遅れて申し訳ありません。
またいつ更新が止まるかわかりませんけどね……
更新できる時に更新しときましょう
「―――という訳なんだ」
五分程の講義を終え、俺は一息ついた。
チルノと大ちゃんには少し話していたものの、話の全容を知って驚きを隠せないようだ。ルーミアは少しばかり驚いていたが、けれどそれだけで、リアクションは少なかった。
それは感情を表に出していないだけなのか、単に驚いていないだけなのか。
もし後者ならなかなか図太い性格である。
「……幻想郷が崩壊、ね。確かにそれは“異変”だね」
ルーミアは今までにないほどの真面目な顔で思案している。俺が言ったことを整理しているのだろう、一人でぶつぶつと独り言をつぶやいていた。
普段のほほんとしているルーミアだが、いざ大事が起こるとこんな風に真面目な顔になるらしい。
ふよふよと浮かんでいるだけの放浪者と思っていたが、どうやら認識を改めなくてはならないようだ。
「それも特大…これまでとは比較にならないほどの大異変。今現在はスキマ妖怪の結界の下危うい均衡を保っている訳だね」
「ああ。その通りだよ」
「あの白い壁はその異変を防がんとして作られたものであって、そのものには害はないと」
「一応近づかない方がいいかもしれないけどな。何があるかわからないし」
下手に結界に触れて次元の狭間とか外の世界に飛ばされたりしたら洒落にならない。俺はそこら辺のさじ加減はよく解らないが、触らぬ神に祟りなし、だ。
触れなくてもいいのにわざわざ触れる必要もないだろう。
「で。“宝珠”っていう幻想郷を元に戻すアイテムがあるからそれを圭吾は探してるのね?」
「理解が早くて助かるよ」
……ホント、こいつは頭の回転が速いな。
チルノは言わずもがな、大ちゃんも未だに頭をうんうん唸らせて考えているというのに、ルーミアの理解の早いことったら。
紫が俺に話してくれたことを俺なりに理解して噛み砕いて説明しているとはいえ、ルーミアも一妖怪に過ぎないのだ。紫のような大妖怪とは訳が違う。
感覚で生きる妖怪は、本来思慮とは無縁のものである筈なのだ。
いや……それとも、俺が単にそう思っていただけで、実のところルーミアは賢かったとか?
こいつも妖怪だし、俺よりは遥かに長生きしているのは間違いない。
年の功というべきなのか?
……なんとなく失礼な物言いのような気がしないでもない。
ここはオブラートに長年の経験というべきだろう。
「……何のことかさっぱりよ!」
「う~ん…もう少しで理解できるような気がするんですが……」
ギャーギャー喚くチルノと両手で頭を抱えている大ちゃん。
チルノ、お前はもう少し思慮深さという言葉を知ろうか。
大ちゃん、頑張れ。あと一歩を捻りだせ。
三者三様の表情に苦笑しつつ、俺は別の事を考えていた。
それはつまり、この結界の有効範囲である。
現在の幻想郷はジグソーパズルの1ピースのように、別々になっている。その1ピースの外側の縁がこの結界なのである。
ということは、この結界も縁を囲っている筈である。
その内側には“宝珠”を託された妖怪がいる。紫が“宝珠”を預けるに値する、大妖怪が。
この結界の有効範囲、つまりはどこまで結界が続いているのか。それを俺は知る必要があった。
「チルノ、大ちゃん、ルーミア。この白い結界がどこまで続いているか知ってるか? 知っていたら教えてくれ」
三人は言わずもがな、空を飛ぶことができる。妖精と妖怪、その他の人外の一部は無意識のうちに飛行する能力を有している。
だから壁がどこまで続いているのかを、彼女らは知っているに違いない。
万が一知らなくとも、ちょいと飛んでもらえばわかる。
「覚えてない!」
「私も……気づいたらあの白い壁があったので、どこまで続いているかは……」
「右に同じく。いつの間にかあれがあったから。というか、あれが現れたのついさっきだし」
「……え?」
ついさっき?
いやいや、まてまて。
それはおかしいだろ。
「ついさっきって……そんなわけないだろ。紫があの結界を張ったのはもう二週間も前のことだぞ?」
「「「え!?」」」
今度は彼女たちが驚く番だった。彼女たちは俺を、何言っているんだこの人、みたいな目で見ている。
やめてくれ。
俺が何をしたっていうんだ。
それよりも。
この意見の食い違いは何だ?
俺はつい先程出現したということに疑問を抱いて、結界は二週間前に張られたものだから今出現したということはおかしいと異議を唱えた。
しかし三人は俺がそのことを言うと驚きの声を上げた。
俺は現代で間違いなく二週間過ごした。そのことは何よりも俺自身の体験が物語っている。
だが目の前の少女たちは嘘を言うような子たちではない。それは俺が幻想郷で過ごしてきたからよくわかっている。
ならば何故意見が食い違う?
仮に彼女たちが嘘を吐いていたとして、彼女らに何の利益がある?
俺のこの幻想郷を救おうとする行為は、助力こそ受けられないこそすれ妨害される覚えはない。
誰もが幻想郷の復活を望んでいるだろう。わざわざ崩壊を懇願する酔狂なやつなど幻想郷にいまい。
ならば、これは何なんだ……?
しばらく俺は思案した。絡まった糸を解きほぐすように、思考の糸を手繰り寄せていった。
そして、ある結論に至る。
「……本当に、あの結界はさっき出現したばかりなんだよな?」
「うん。少なくとも私が知る限りでは。何か私たちの知らない力が働いているのかもしれないけど」
勘のいいルーミアは、若干だが答えに近寄った。
いや、俺の答えが正解かどうか分からないけれども。あくまで俺の出した答えに近づいたという訳で。
だが、それではまだ三十点くらいだ。
俺は再び空を見上げる。
そこには先程までと何ら変わらない、濁った青色の空と白い雲が浮かんでいた。
だが、それがおかしい。
空が変わらない、雲が動かず変わらないなんて、おかしいのだから。
「……やっぱりか」
「何がやっぱりなんですか?」
大ちゃんが俺のつぶやきにいち早く反応する。俺の頭一つ分小さい体のせいで丁度上目遣いとなっている。
キョトンとしたその顔は年相応の里の子供と同じで可愛らしい。
「お前たちとの意見の食い違いの理由が、何となくだが分かった気がしたんだ」
「それは、何?」
「それは―――」
幻想郷は崩壊した。
一旦崩れてしまったものは秩序を失い、その理さえも無に帰してしまう。
そう、この食い違いは、そんな理の崩壊から生じたものだったのだ。
「―――時間が止まってるんだよ、この幻想郷は」




