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新たな日常へ  作者: line
6/8

実力

「ん、んぁ…」


小さく呻きながら微かに目を開くとこれでもかというほど澄み切った青い空が俺の目に映った。ついでゆっくりと体を起こしまだ覚醒しきっていない意識であたりを見渡すが特に目立った建造物などは見当たらず、あるのは草原と木々に山に花それにもうすこし遠くまで目をやると小さな小川が流れている。


「…ん、風が…」


撫でるようなそよ風が俺に触れる。それを感じ取りまた眠気が襲ってきたが今はそうでないはずだ。


「ってか、ここ何処だ?」


俺はついさっきまで火に囲まれていたことは覚えている。そこから脱出しようとしたところであの黒ローブに…


「あいつっ!」


奴の姿が脳裏に浮かび俺の意識が覚醒する。立ち上がってみるもその姿はどこにも見つからず落ち着くためにもう一度座り、自分の近くにあった木にもたれかかる。そして、奴の言葉を思い出す。


―――同調

―――次元転送術式

―――詠唱


―――――ようこそ『ユナイティア』へ


“術式”とか”詠唱”とかってのはゲームでよくある魔法に関するものだよな。それに”次元転送”というほどだから恐らく俺は死んだのではなく別の次元にいると考えた方が正しいのだろうが常識で考えればありえない。

しかし、現に俺はあの火事の中からこんな自然であふれた場所に移動していることからきっとそれで正しいのだろう。


と、言うことは。もう俺の身に着けてきた常識は通じないのか?だって明らかに世界そのものの纏う空気が違う。


「~~っ、ここで色々悩んでも仕方ない。とりあえず人に出会えるとこに行くか」


一先ず思考を中断する。俺は今の自分が何を持っているかを確認し、歩こうとしたとき

視線の先で馬車のようなものが横切り山の方へ向かっていくのが見えた。


「…あれについていけば街かどこかに行けるかもな」


俺はその馬車が向かった山へ行くことに決めた。























「ここに何があるんだ?」


歩くこと大体2時間。ついさっきまでの晴天がこの短時間で空は赤く染まり始めていた。山に着くと麓のところに馬車が止まっていることに気付いた。恐らくこの近くで休憩でもとっているのだろうと思いあたりを探すと森に続いている道があった。そこを進んでいくと岩肌が露出し洞窟になっているところを発見したのはもう陽が完全に沈みかけているころだった。俺は中に入り少し奥の方覗くと如何にも悪いことやってますよオーラを纏っている男が焚火を囲んで談笑していた。その周りには大小様々な麻袋があったが一つだけ人一人入るほどのものが膨れて置いてあった。


『いやー兄貴、今日は大収穫ッスね!』


部下その1がリーダーらしき人物に話しかける。


『ああ、しかも貴族専門の宝石商人ときたからな。大儲けだ』


『それだけじゃないでしょうに』


『けけっ!お前たちも人が悪いな』


『あの如何にも貴族っぽい女のことですけどどうしやしょう』


『結構な上玉だったしな、俺達でヤっちまうか』


『けど、処女の方が奴隷商には高く売れますぜ?』


『あー…けど、これだけの金銀財宝を奪ったんだ。遊んで暮らすには十分な金になるだろう?だからあの女は俺がもらう』


『えぇー!?そりゃねぇッスよ兄貴!俺達にも使わせてくださいよ』


『そうだな。でも、俺が最初だ』


――ガハハハハハハハハハハハハハハハ!!


…ふむ。

今の会話から察するに、

・あの男たちは貴族専門の宝石商人を襲い、その荷を奪う

          ↓

・その時偶々居合わせたその女を攫った

          ↓

・この洞窟まで逃げ込み今後についての方針会議と打ち上げ


ってところだな。

…というか冷静に考えてみると明らかに日常生活の中で聞くような単語じゃないよな『商人』とか『奴隷』とか。しかも話を聞く限りあいつら人を殺してやがる。口ぶりからすると1人2人じゃないな…

それにつかまってる女の子も助けてやりたい。こんな奴らに人生を滅茶苦茶にされる何ていうのはあまりにも不合理だ。


俺はもう一度中を覗き込み、男たちを観察した。7人の男の腰にはそれぞれ一本ずつ曲刀とダガーが差してある。しかしリーダーの男の腰元にはそれらより大きな蛮刀が差してある。

それ以外にも武器を持っていないか確認し、俺は近くに転がる石を拾い茂みに向かって投げ込む。


ガサッ


『……』


『どうしたんすか?』


『いや、外から音が聞こえたもんだからな』


『たぶんここら辺に住み着いてる動物ッスよ。よし!俺が確認してきやす。そんでそんまま仕留めてみんなで食らいやしょう!』


『お。いいなそれ。俺も行ってやるよ』


―――かかった。


二人の男がこちらに来る。

俺は素早く別の場所に移動し男たちの死角を取る。洞窟から出てきた二人は辺りを見回し先ほど俺が石を投げいれた方へ進んでいったのを確認し、俺も後をつける。


しかし、こいつらに警戒心はないのか?

空は微かに赤みが残っているがもう十分に夜といっても過言じゃない。

なのに見ず知らずの森の中をよくもまぁスイスイと進むもんだ。


ある程度洞窟から引き離したことを再度確認したところで奇襲に出る。さっきと同様小石を俺がいるところとは反対の茂みに向かって投げ込む。


「「!!」」


それに反応し、そちらに気を取られた瞬間俺は片方の男にとびかかる。が、ここで信じられないことが起きた。俺と男の間は確実に10mほどあったのだがその距離を一瞬で詰めてしまった。だが今はそんなことはどうでもいい。まず目の前の男の頭をつかみ地面に叩き付ける。隣ではもう一人の男が顔を驚愕の色で染めていたが正直、その顔を見るのも不快だったためその体勢のままそいつの顎を蹴り上げる。


「がぅ…」


大きく仰け反った瞬間そいつの腰から曲刀を抜き取り横一文字に頭を体と分断した。目の前で大量の血しぶきが舞うが俺はその一滴も被ることなく後退し頭が地面に陥没している男の命も刈り取った。


「…これであと5人か」


洞窟にいる残りの人数を数えなおし、目の前に転がる二つの死体から剣とダガーをはぎ取る。一本は抜身のまま手に持っておくことにして腰にもう一本の曲刀とダガーを装備して、たった今切り裂いた男の頭部を持って洞窟に戻る。




『おいおい、あいつら遅くないか?』


『たかが肉を確保するためにどんだけ時間食ってんだよ』


『どうせ奥まで行き過ぎて迷子にでもなってんだろ』



俺が洞窟まで戻ると男たちはさっきの二人のことなどまるで心配おらず、寧ろこの場にいないことからからかい始めていた。

正直手に持ったこいつを早いとこ処分したかったからこれ以上中の様子を窺うことをやめて、『これ』を放り込む。


ドサッ


『ん、何だありゃ』


『ちょっとデカい木の実みたいな形だな』


『どれどれ―――!!!』


『おいおい何固まって『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!』どうした!?』


『あ、あいつが、あいつが…ぁぁぁあああああ!!』


『ちょ、何なんだいったい…ってこれは!!』


『いったいなんだってンだ?』


『あ、あ、あ、兄貴、こここここれ』


『!!』


『あいつ一人で外に行ったのはまずいかもな』






「ぁぁぁぁぁああああああああ!!!」


仲間の一人が剣を抜いて出てきた。まさかこんな簡単に取り乱すとは思わなかったから素直に驚いているが、すぐに行動に出る。最初と同じように石を茂みに投げ込み、そちらに注意が向き、少しだけ引き付ける。ここで敢えてさっきみたいに洞窟から離れずにある程度近いところで”悲鳴をあげさせて”殺す。


「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁ、あぁ、ぁ…ぁぅ」


背後から心臓に剣を突き立てる。曲刀だった分差し込みにくいため相手からしたら痛みを感じる時間がやや長くなるためきついだろうがそれが目的だ。


突き立てた剣は抜き取らずにそのままにしてそいつの腰から別の剣を奪い、再び首を狩る。


また頭を持って洞窟へ行くと中からは男たちのおびえる声が聞こえてきた。けど、それを聞くことすら億劫だったため今度は手に持った頭部を思いっきり中に投げ込む。またもや混乱し始めた。しかも俺に見つかることを恐れたのか火を消したが俺にとっては好都合。さっきから暗い所で活動していた俺と火の下の明るい状況に身を置いていた奴らとでは瞳孔の開き具合がまるで違い断然俺の方が有利だ。


すぐさま洞窟の中に駆け込み、一番近くにいた男の背中を斬りつけ、絶命させる。


「があぁぁ!」


短い悲鳴を最後まで聞かずにその近くにいたもう一人も返す刃で命を刈る。

これで残りは2人だ。


「畜生!」


リーダーは腰の蛮刀を抜き放つ。僅かに差し込む月明かりを反射して鈍色に輝くそれはまさに凶器だ。しかし、俺には何の恐れもない。


「――はっ」


奴の剣を持つ手に向けて一閃。俺の剣はまさしく雷光のごとき速さで閃き、その腕を切り離す。


「お、俺の腕が…」


「…くたばれ」


切り離した腕から落ちた蛮刀を逆の手でつかみ取りそのまま振り下ろす。

俺の蛮刀はリーダーを文字通り一刀両断に切り伏せ、残った一人の喉元に剣を突きつける。


「ひぃ!」


「お前にはいくつか質問に答えてもらおう」


男が両手を挙げて激しく首を縦に振るのを確認して俺は言葉をかける。


「まず、ここは何処だ」


「へ」


む、この野郎何言ってんだみたいな顔してやがる。

軽く剣先を喉に押し当てると態度を改め素直に話し始めた。


「ア、アステン山脈の麓の森だ!南に行くとグランザムっていう街がある」


「…次だ。今は西暦何年だ」


聞きなれない地名に一瞬だけ動揺してしまったがばれていない。

それにこの質問は賭けだ。ここでまったく知らないような態度を取られると俺の考えである『別次元に来た』ことを決定づけられる。


「セイ、レキ?き、聞かない言葉だな」


「(やはりか)…そうか」


俺が剣を下しかけた瞬間男の足元に不思議な紋様が浮かび上がった。色は赤。一見複雑そうに見えたが実際はただの六芒星だった。そして俺に向けて右手を突き出して、


「焼き焦がせ!」


手の中心から拳大の炎の塊が俺に飛んでくるが間一髪横にとびんだことで避けることが出来た。男はほぼゼロ距離の状態から避けられたことに驚いており、目を丸くしているがもうこいつに用はない。


「――散れ」


左手の蛮刀と右手の曲刀で十字に切り裂き、声もなく命を絶つ。


「しかし、今のは…魔法?」


男の手から射出された火の玉。明らかに自然現象ではないし、科学でも証明できそうになさそうだ。だが、男の足元で光った紋様。あれと関係していることは間違えない。


「…この世界は、俺達の世界と違う理の上で存在しているんだな」


…今日は疲れた。知らないとこに放り出されてたくさん人を殺めたし。

俺は岩の壁に背を預けながらずるずるとその場に座り込み、目を閉じる。


――ちょっとだけ休もう…


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