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新たな日常へ  作者: line
3/8

学校

PM8:24


「そんじゃまた昼にな」


「はい」「後でね悠君」


一つ上の和姉と一つ下のサナとは靴箱でお別れだ。

俺たちの学校は靴箱を分岐点に左が一年、正面が二年、右が三年の教室がある校舎へと道が分かれているため同じ学年である舞だけが同じ方向なのだ。


「なぁ悠~、一限ってなんだっけ?」


「数学だろ?忘れてんなよ」


「げぇ、俺今やってるとこダメなんだよ…」


「今やってるとこだけじゃないだろ」


正直に言うと俺はそこそこ勉強できる方だ。テストでもいい時には学年で20番に入ることがしょっちゅうだ。それに比べて舞の成績はヤバイ。どのくらいヤバイかっていうと

仏の顔が一瞬にして形相に変わるくらいヤバイ。


…わかってるさ、この例えがわかりにくいってことくらい…


そんな舞が赤点を取らずに地獄のような補修を逃れているのはひとえに俺のおかげだ。

テストの度に俺につきっきりで勉強させてるから最低限の点は取れるようにさせた。


教室についた俺たちは他の級友と幾つか挨拶を交わし、席に着いて待つこと2分。

SHRショートホームルームの開始を告げるチャイムにやや遅れて担任が入ってくる。


「起立!礼!」


『おはようございまーす』


委員長の号令に続いて挨拶をするクラス一同。着席して幾つかの連絡事項を話し終えた担任はいつもこう言う。


「――では、今日も一日張り切っていきましょう」


…このやっすい言葉は聞き飽きたな。




PM12:45


4限終了を告げるチャイムが学校に響き渡る。それと同時に古典を担当している中年の男性教師は教科書を閉じて授業を終了させて教室を出ていく。


それを見送った生徒の大半は先ほどまでの授業時の謎の重苦しい空気を一気に弛緩させていく。俺と舞も当然その一人だ。

俺は何とも言えない緊張感から解放された感覚を噛みしめるべく机に突っ伏していると

舞が俺のところにやってきた。


「ほら、学食行こうぜ。沙苗と和葉さんが待ってるぞ」


「ん」


と、適当に返事をして大きく体を反らす。あ、固まってた筋肉が伸びて気持ちいい…

このまま寝たいなぁ…


「って、おい!寝ようとするな!」


再び突っ伏しそうになった体を舞に強制的に起こされる。


「ほら、さっさといくぞ!」


「はいはい…」


立ち上がった俺は弁当を取り出して舞と一緒に教室を出て一階にある学食へ向かった。




「うわぁ…」


「相変わらず人気者だな、あの二人」


学食には既に席を確保しているサナと和姉が弁当を広げて待っていた。

それは至って問題ない。いつも通りだ。

そしてその周りにたくさんの男子生徒が群がっているのもいつもの光景だ。


「学年問わずに大人気だな、和姉とサナ」


「二人とも学校で一位二位を争うほどの美貌の持ち主だからなぁ」


…舞、和姉ならまだしも妹にもそんな感想を抱いていたのか。

ま、否定はしないけど。


二人はどれだけ話しかけられても一言二言返しては俺たちの方を見るということを何度か繰り返す。…早く助けろってか?


俺は小さく手を振って遅れた謝罪をしつつ席に着き、舞はいつの間にか買ってきた学食

定番の日替わりランチを持ってきた。


周りにいた男どもは俺たちが来ると自然と散らばっていくから楽勝だな。


「遅かったですね、悠里兄ぃ」


「そりゃ遅くもなるさ。こいつ授業終了と同時に寝ようとしてたから」


…舞、そんなこと言ったらちょっとも悪びれた雰囲気を出さずに来た俺の演技が台無しじゃんか。ほらみろ、お前がそんなこと言うから二人ともちょっと不機嫌になったじゃないか。


「悠君、後でお仕置きね♪」


「げ、何させるきだ?」


「ん?それはもちろん私と二人で―――」


「ちょ!姐さん、それはズルいです!」


バンッ!と勢いよくテーブルに掌を叩き付け顔を真っ赤にして立ち上がるサナ。

それを見た和姉が小さく口の端を釣り上げたのを俺は見逃さなかった。

俺は先ほど買ったパックのコーヒーを飲みつつ思った。


…またしょうもないことを思いついたな―


「うん?何がズルいの、沙苗ちゃん?」


「ゆ、悠里兄ぃと二人でって…あたしにもその権利をください!」


「ぶっ!!――げほっ、げほっ…」


いきなり何を言い出すんだこいつは!?危うく飲んでたコーヒーを正面に座っている舞の

日替わりランチにぶちまけるとこだったじゃねぇか!

互いの視線に火花を散らしている二人を他所に舞は何でそんなに面白がってんだ!


俺が舞を睨んでいると何を思ったのかめちゃくちゃいい笑顔に加え、口パクで意図を伝えてきた。


「(ま、か、せ、ろ?何か考えがあるのか?)」


…とりあえずこの場はおとなしくこいつの考えに従った方がよさそうだな。


ひとまず舞に任せることにした俺は首を縦に振る。それをみた舞は加えてサムズアップしやがった。ホントに大丈夫か?


「まぁまぁ二人ともとりあえず落ち着いて。ここは平等かつ平和的な解決をしようじゃ

 ないか」


「「?」」


突然の舞の提案に頭の上に『?』マークが見えそうなほど不思議そうな顔をする二人。

その反応を満足そうにみた舞は優しく例の解決法を告げる。


「…悠がどっちの罰を受けるか選べばいいんだよ」


「…は?」


思わず俺の口から出たのはたったの一文字。

いや、確かに二人がいつまでも言い争うよりは平和的解決だが何で罰受ける前提なのさ?

流石にこれは違うだろ。


「おい、舞。これは――」


「悠君!」「悠里兄ぃ!」


「は、はい?」


「「どっちを選ぶの!?」」


………

いやいやいやいや、だからね、何で俺は罰受けるの?

しかも選択の余地がある罰なんてどんな嫌がらせだよ!


「ねぇ!」「どっち!?」


気づけばテーブルから身を乗り出して俺に詰め寄って…って!顔近っ!!

しかもよく見ると二人とも顔が赤くなってるし!そんなに俺をおもちゃにして楽しみたいのかっ!?


数秒考えた俺は腹を括って言葉を紡ぐ。


「お、俺は…」


「「………」」


「俺は…ごちそうさまでしたぁーーー!」


叫ぶと同時に一瞬で弁当をまとめてダッシュで学食を後にして人気の少ない体育館の裏へと向かった。


「「ええぇーーーーーーーーーーーーーー!!!」」


という二人の悲鳴にも近い声をBGMに…



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