日常の始まり
「「いたただきます」」
今は午前7:00
俺と和姉のいつも通りの朝食の時間だ。
朝の鍛練でかなり腹が減っている俺は作ってくれた和姉に感謝しつつ卵焼きを頬張る。
「うん、美味いよ」
ふわっとした食感に続いて甘い香りが口の中に優しく広がっていき、自然と頬が緩んでしまう。そんな俺を見て和姉はちょっと顔を赤くして箸が止まる。
「どうした?」
「う、ううん!ありがとう!」
そういうと和姉は再度箸を動かすが、その動きはいつもと違ってかなりぎこちない。
「(ま、いっか)」
俺も料理が冷めてしまう前に全部食べ切ってしまおう。やっぱり暖かい飯が一番美味いし
食ってて気分がいい。
15分程かけて朝食を済ませた俺と和姉は制服に着替えて家の戸締りをしている。
ガチャ、と最後に玄関のカギをしめた和姉は俺の横に並んで歩きだす。
AM7:42
今歩いているのは通学路として利用している商店街だ。まだ店を開くには早い時間なので
ほとんどの店が販売の下準備をしているか未だシャッターが下りたままだ。
そんな中俺たちと同じように学校の通学路として利用する生徒はたくさんいるわけでちらほらと同じ制服を纏っている少年少女が目に入る。
ちなみに俺たちの通う学校は自転車通学は許可されているが大半の生徒が歩きかバス通で
学校までそんなに遠くない俺たちは歩いて登校している。
「――でね、悠君。それで」
「おーーっす、悠!和葉さんっ!」
「うわっ!?」
たった今まで和姉の声をすぐ真横で聞いていたのだが突然の大声と遅れてやってきた後ろからの衝撃に思わず前によろける。
…朝からこんなことをする奴は俺の知り合いには一人しかいない。
俺は溜息をついてそいつに言ってやった。
「…舞。うるさいし、痛いからやめてくれ…」
「おまえがその呼び方を改めてくれるならな!」
そう言って金髪のイケメン――白木 舞斗は平然と俺の真横に立った。
俺がもう一度溜息をつくと後ろから誰かが駆けてくる音が聞こえてきた。
振り向くと赤みがかった茶色いくせ毛を二つに結い上げた少女――白木 沙苗が俺たちの前にやってきた。
「ちょっと、兄さん!いきなり走らないでよ…って、悠里兄ぃ!?」
「…おはよう、サナ。ねぇその呼び方やめてっていつも言ってる気がするんだけど…」
「い、いえ!これは、そのぉ、すいません…つい以前の癖で」
「はぁ、とりあえず学校に行くか」
俺がそういって歩き出すと三人とも真横についてくる。
これもいつものことだ。んで、いつも通りここから和姉とサナの…
「悠君、今日は姉さんと一緒にお昼ご飯食べるわよね?」
「悠里兄ぃ!あたしとご飯食べよ!!」
二人がまったくと言っていいほど完璧に似たようなことを言ってくる。
同時に俺の腕に自分の腕を絡めてくる。…正直歩きにくいことこの上ないんだが。
「「…むぅ」」
急に俺を挟んだ状態で目線だけで火花を散らし始めた二人。
毎日同じようなことが続くとホント慣れてきてしまった自分が怖くなるな。
本日3回目の溜息をつき、縋るような目を舞に向けてやった。
舞も意味が伝わったのか苦笑いをしつつも二人を説得して俺から剥がしてくれた。
「さんきゅ。舞」
「いやいや、俺も慣れてきちまったよ」
「…何で二人はあそこまで意地になるんだ?みんなで食えばいいだけだろ?」
「…こいつの鈍感に慣れだした自分が怖くなってきた」
鈍感?何で俺が鈍感扱いされるんだ?
って、和姉とサナも同感と言わんばかりに首肯すんな!
「ったく、ほら行こうぜ」
今度こそ学校に向かって歩を進め始めた俺たち。
これが、俺の日常の始まりだ。