第8話:サーシャとレイラ
ボクを吸い殺すって何を言ってるんだろう。
「冗談ではないわ。言葉通りよ。貴方は神の力の所有者。だったら,何をされても死ぬことはない,いいえ,死んでも生き返ってしまう体の持ち主。だから,私は貴方の血を吸い尽くしたいわけ。理解した?」
ボクはリディアに続いてレイラにまで食べられないといけないわけ。
それだけは勘弁して欲しい。
「大丈夫よ,一切の苦痛も無く,有るのは快楽のみよ。こう考えなさい。死ぬのではなく。気持ちよく寝られるのだと。どうせ貴方は生き返るのでしょう」
それでも死ぬのは怖い。
「拒否は認めないわ。これはお仕置きなのよ。今晩は必ず私の部屋に来ること。逃げたら本当のお仕置きをすることになるから,肝に命じときなさい…」
ボクはレイラの迫力のある声に頷くことしかできなかった。
憂鬱だった。
今晩ボクは死なないといけないんだ。
死なないけど,死んでしまう感触を味わうのは怖い。
「何しけた顔してんだ?何かあったのか?」
サーシャの声だ。
ボクの右側の空気の流れが僅かに少ない。
右側にいるんだ。
「お姉さんで良かったら相談に乗ってやるぜ。なにせ俺は母性溢れる女性なんだからよ」
母性溢れる女性。
どっちかというと近所の気のいいお兄さんみたいな感じだ。
けど,サーシャはせっかくボクの相談を受けようとしてくれている。
ボクはサーシャの好意を受けてレイラのお仕置きについて話してみるのだった。
ボクの話を聞いたサーシャはまるで信じられないって感じに驚き,そして,笑い出したのだ。
「おいおい,エテルナ。お前は物凄く幸せものなんだぜ!今までレイラ姉貴のご褒美を受けた男は人っ子一人いなかったんだからよ!」
違うだろう。
ボクは物凄く不幸だ。
だって,殺されて眠ることになってしまうんだし。
「分かってないな,エテルナ。いいか,お前はレイラ姉貴に愛されてるんだぜ…。好きでもない男にご褒美なんて天地がひっくり返っても有り得ないほどの事象って言ってもいい感じなんだしな…」
レイラがボクを愛している。
ボクの耳がおかしくなったんだろうか。
「いいや,お前の耳はこれでもかって言うぐらい正常だ。もし,レイラ姉貴が本気で嫌っていたら徹底的に空気扱いされちまうしな。お前が来てからというものレイラ姉貴は滅茶苦茶楽しそうにしてたしな…」
レイラが楽しかった。
ボクにはいつも不機嫌で怒ってるばっかりだったのに。
あれが楽しかったというんだろうか。
「ああ,楽しそうな様子だったぜ。レイラ姉貴はガーランド帝国の宰相で,実質的な地獄の支配者だ。だから,普段は氷のように冷徹で鉄面皮なぐらいの固い感じだぜ。けど,お前の前では怒ったり,不機嫌になったりって,とにかくどこにでもいるような普通の女になっちまうんだ。それだけお前に心を開いてるという証拠だぜ…」
レイラはボクに心を開いている。
何だか実感が出来なかった。
けど,ボクはまだレイラのことはほとんど知らない。
サーシャはレイラの妹なんだからつき合いも長いはず。
だから,サーシャの言うことは正しいのかもしれない。
「言っとくけど,俺とレイラ姉貴,リディア姉貴は血が繋がってねえ。三姉妹になったのは天獄戦争終結後だぜ…」
血の繋がらない姉妹。
どういうことなんだろうか。
「俺とレイラ姉貴が初めて逢ったのは天獄戦争の真っ直中だったな。当時俺は天使兵に殺されかけていたんだ。そんとき俺は自分の力に過信して粋がってたからな。今思えば顔が燃えるぐらい恥ずかしいぜ。死にかけてた俺を当時地獄軍の指揮官だったレイラ姉貴が助けてくれてな,そんでもって俺にこう言ったんだ…」
『貴方,私の妹になりなさい。拒否は認めないわ』
凄くレイラらしい。
話を聞くだけでも想像出来るほどに。
「そんとき俺とレイラ姉貴は初対面だったんだぜ。それなのにいきなり,妹になれ!拒否は認めん!なんて普通はありえんだろ。けど,後で聞いた話ではレイラ姉貴は戦争で家族を亡くした者に援助したりとか,戦争被害者を助け回ってたらしい。俺の惨めな姿もレイラ姉貴にはほっとけなかったんだろうな…」
そうか。
レイラは戦争で傷ついたサーシャに元気になってもらおうとしたんだ。
けど,照れくさかったから命令口調で妹になるように言ったんだと思った。
ひょっとしたらレイラは不器用なのかもしれない。
ボクはまだレイラとつき合いが長くから,はっきりしないけど,サーシャの言葉からはそう感じられた。
「というわけだ。お前は遠慮無くレイラ姉貴の地獄よりも深い愛を受け止めていってこい!全部レイラ姉貴に任せておけば,万事問題無しだぜ!」
何がというわけなんだろうか。
レイラが怒りっぽいだけでないことはサーシャに教えてもらった。
けど,やっぱり殺されるんだから怖い。
いくらレイラが優しいといっても怖いのだから仕方ない。
サーシャのため息をつく音がボクの耳に響く。
「あのな,レイラ姉貴は意味もなく殺したり,相手の本当に嫌がることはしないんだぜ。それにほら,お前はリディア姉貴に喰われても死ななかったしな。レイラ姉貴に考えがあるはずだ。きっとな…」
だけど,やっぱり怖いものは怖い。
だって,死ぬんだし。
「まあ,仕方ねえか。だったら,論より証拠だな…」
ボクの体が引き寄せられる。
サーシャがボクを抱き寄せてるんだ。
「じゃあ,いただくぜ…」
ボクの唇に柔らかいものが押しつけられる。
サーシャの唇だ。
相変わらずサーシャの唇は熱かった。
熱くてボクの体を溶かしてしまうぐらいに。
「あむぅ…ぴちゃぷちゅ…うむ…ちゅぱちゅぱ…」
いつもの乱暴な口づけじゃない。
ボクの唇を優しく舐め溶かすような包み込むような口づけ。
体の力が気持ちいい感じに抜けてくる。
体が軽くなってきている。
「ちゅばちゅばちゅばちゅうちゅうちゅうちゅう」
ボクの悩みも何もかもがサーシャの唇に吸われていく。
このままサーシャに委ねたい感じになってくる。
「ちゅぱっ!ふぅ……良い夢を見れたか?」
ボクの唇からサーシャの唇が離れる。
もう少しサーシャと口づけをしていたかった。
そんな風に思っていたボクがいた。
「これが証拠だぜ。レイラ姉貴を信じろよ…」
ボクの口の周りはサーシャの唾でまみれていた。
けど,別に不快に感じることは無かった。
むしろ嬉しいように感じてしまう。
「言い忘れてたけど,リディア姉貴についてはありがとな。俺はあんなに無邪気に喜ぶ姉貴を今まで見たこと無かったからな。感謝してるぜ…ちゅ」
サーシャはもう一度ボクの唇に自分のそれを押しつけてくる。
けど,今度は軽く触れるだけのささやかだけど,感謝の気持ちが込められた口づけ。
「レイラ姉貴の次は俺もご褒美をあげるぜ。楽しみにしときな…れろっ」
サーシャはボクの唇から離すと同時にボクの顔を舐め回して離れていく。
「またな,エテルナ…」
サーシャの足音がボクから遠ざかっていった。
ボクの顔はサーシャの唾でべとべとだった。
けど,全然気持ち悪くなく台所に行って顔を洗おうとするのが勿体ない感じもしてしまった。
ボクはこのまま顔を洗わずに過ごしていった。
そして,夜の時間がやってくる。
ボクはレイラの部屋の扉手前に立っていた。
『レイラ姉貴を信じろよ…』
ボクはサーシャの言葉を信じることにした。
サーシャの口づけには愛情が感じられた。
それが証拠というのならボクは信じてみる。
レイラはいつも怒ってばかりだけど,お世話になってるんだ。
それにリディアのことも本気で心配していた。
レイラは家族を誰よりも愛してるんだということも感じられた。
ボクは向き合わないといけない。
だから,ボクはレイラから逃げることはしない。
ボクは部屋の扉を開けた。
「いらっしゃい,エテルナ…」
少しはハーレムらしい感じになってきているでしょうか。とりあえずはレイラ,サーシャ,リディアの三人をメインでハーレムを形成するように物語を進めたいと思っています。
作者の力量不足で拙い文章ですが,どうか宜しくお願いします。
御感想お待ちしています。
では。