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第5話:最も恐ろしい女

「エテルナ,私とサーシャはこれから出ていくけど,くれぐれも静かに過ごしなさい。あまり大きな音を立てないこと。これだけは必ず守りなさい」









家に出ていく前にレイラはボクに注意をしてきた。


大きな音を立てないこと。


なぜ音を出したらいけないんだろう。


「サーシャ以外にもう一人妹がいるのよ…」


どうしたんだろうか。


いつも偉そうな貴族みたいな命令口調で話すレイラが少し口ごもったかのように言いづらそうだ。


「ああ,リディア姉貴は俺達三姉妹の中で一番弱えけど,一番恐ろしいからな…。条件が揃えばレイラ姉貴よりも馬鹿力を発揮するしな…」


いつもは近所の悪戯小僧みたいな口調のサーシャも少し口ごもっている。


それどころか声がやや震えてる感じがした。


三姉妹で長女がレイラで三女がサーシャ。


そして,最後の一人。


次女がリディア。


そういえば,この家に住んでから三日ぐらい経つけど全然逢ったことがない。


それにしても一番弱いのに一番恐ろしいとはどういうことなんだろう。


確かアスタロトは言っていた。


強さと怖さは同義ではないと。


だったら,リディアという人は強さ以外の何かがあって,それがとっても恐ろしいことなんだ。


けど,あのレイラよりも怖いなんて想像できない。


「黙りなさい,サーシャ。それに馬鹿力は余計よ。良い,エテルナ。必ず静かに過ごしなさい。さもなければ…」


レイラは話すの少し止めて一息ついて。











「死んでしまうことになるわ…」











脅すように言ってきた。


殺される。


ボクがリディアに逢うと殺されるとレイラが言ったんだ。


リディアはそんなにも恐ろしいんだろうか。


レイラの真剣な口調がボクに冗談を言っていないと告げている。


「ええ,リディアは条件次第で私以上の力を発揮し,サーシャ以上の大食らいなのよ。遭遇したら最後,骨も皮も残らないわね…」


「大食らいは余計だぜ,レイラ姉貴。まあ,姉貴の言うとおり大人しくしておくんだぜ。俺はお前のような美酒を失いたくないんだしな…」


レイラもサーシャもボクのことを心配してくれてる。


二人ともボクを屈服させようと強引なことをすることが多いけど,やっぱり良い人達なんだ。


ボクは二人の言葉に頷く。


「行ってくるわ,エテルナ…」


ボクの右頬に柔らかいものが押し当てられる。


レイラの唇だ。


首筋以外に初めて口づけされたんだ。


首筋の冷たくて少し気持ちいい口づけとは違い,頬にされた口づけ何か愛情が感じられて心地良かった。


「帰りを待ってろよ,エテルナ」


今度は左頬に柔らかいものが押しつけられる。


サーシャの唇だ。


ボクの頬を引っ張るかのように強く吸い付いてくる。


サーシャの唇がボクの頬をつねってるような感じだ。


ちょっと痛かった。


けど,レイラの口づけと同じようにサーシャの愛情を感じられて少しくすぐったい気分になった。


こうしてレイラとサーシャは城に向かっていった。











退屈だった。


静かに過ごせとレイラに言われたけど,何もすることが無いからどっちにしても静かに過ごすしかやることが無かった。


いつ帰ってくるんだろうか。


そういえば,アインシュタイン家で初めて一人でお留守番することになったときでもとても退屈だった。


そのときにはリーゼは戦場に行っているとのことで生きて帰るかどうか心配だったけど,今回は戦場に行くわけでないから大丈夫だ。


けど,だからこそ,無事に帰ってくると分かってるから心に余裕が出来て,余計に退屈だと感じてしまうんだ。


こういう退屈な時間を過ごすためには確か。


そうだ。


ハープだ。


ボクは退屈な時にはいつもハープを弾いていたんだ。


ハープを弾けば一日中だって退屈に感じることなく過ごすことが出来る。


ボクは背中に付けていたハープを取り出した。


レイラとサーシャは暇が出来たら聞かせてくれと言っていたことを思い出す。


今はボクがとても暇だ。


だから,ボクのために弾き続けよう。




『あまり大きな音を立てないこと。これだけは必ず守りなさい』




ふとレイラの言葉をボクは思い出す。


確か大きな音を立てたら駄目だと言っていた。


けど,ハープは大きな音ではないし,綺麗な音色だ。


だから,大丈夫のはず。


ボクはハープを奏でていく。


ハープを奏でる度にリーゼとの思い出が昨日にように思い出してくる。


当然だ。


ボクが作ったほとんどの曲はリーゼに聴かせるためだったんだから。


ボクは時間を忘れてハープを弾き続ける。


一人でハープを弾くときはボクだけの世界が生まれてくるんだ。


だから,ボクは孤独を忘れることが出来る。









「綺麗な曲…」








ボクの耳に声が響く。


レイラの声でもない。


サーシャの声でもない。


だったら。








「もっと聴かせて…,君の曲を…」








足音が響く。


しかも水たまりか沼に足をつけたかのような湿った感じの足音。


どこかで水が零れてたんだろうか。


ボクのいる部屋に足音が入ってきている。


ボクの部屋は水に濡れてないはずだ。


だったら足音を立てる人が濡れていることになるんだろう。


風呂上がりなんだろうか。








「もう,弾かないの?」







間違えない。


この声の人。


この足音の人。


三姉妹最後の一人。









リディアだ。








「早く僕に聴かせて…,君の曲を…」









僕。


一人称がボクと同じだ。


少しややこしい感じだ。


それにしてもどうしよう。




『死んでしまうことになるわ…』





『遭遇したら最後,骨も皮も残らないわね…』





レイラの言葉を思い出す。


ボクは死なない体だから大丈夫だけど,それでも怖いものは怖い。




「お願い,聴かせて…」




リディアの悲しげな声が響く。




「君の曲を聴いていると寂しくない…」




ボクの近くまで足音が近づいてきた。


何だか不思議な匂いがする。


それにリディアの周囲の空気だけ僅かに別の空気が混じっているような感じだ。


風呂上がりだから体から湯気が出ているのだろうか。


けど,熱くない空気だ。


風呂上がりじゃない。


リディアの体はどんな感じになってるんだ。


リディアがどんなに恐ろしいのか分からないけど声を聞いて悲しんでいるのは分かった。


お父さんが言っていた。


悲しんでいる女性を慰めるのが男の務めだと。


だったら,ボクは男だから悲しんでいる女性を慰めないといけない。


ボクはリディアに促されるままにハープを弾き始める。


多分,レイラとサーシャがいないから一人で寂しいんだ。


ボクのハープで少しでも孤独を忘れれたら良いと思う。


ボクはリディアのためにハープを弾き続けていった。











ボクはハープを一旦弾き終えた。



「ありがとう…,僕はリディア…。君は?」



ボクはエテルナ。



「エテルナ,君は…綺麗…」



どこか辿々しい感じの声。


けど,透き通りような滑らかな美声。


なぜかボクの体が熱くなってきた。


こんなに綺麗な声を聞いたの初めてだった。


まるで喉に何も引っかかる物が無く,純粋に声だけが響いてくるような感じ。


けど,何か嘘みたいに綺麗過ぎる声。


人でない感じがするような夢みたいな声だ。



「僕,エテルナのこと…気に入った…」



何だか嬉しい感じがした。


レイラとサーシャに無い癒される感じだ。


あの二人はボクを屈服させることばっかりだったし。



「だからね…」



多分,レイラとサーシャはボクに意地悪をするために嘘を言ったんだ。



「君のことを…」



リディアとは良い友達になれそうだ。

















「食べてもいい…かな?」
















ボクを食べる。






リディアが。





ボクを。






食べる。






『死んでしまうことになるわ…』







『遭遇したら最後,骨も皮も残らないわね…』








再びレイラの言葉を思い出す。











どうしよう。


リーゼ。


このままだと。


ボクは。


リディアに食べられてしまう。

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