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第4話:従う者の喜び

「起きなさい」





誰かの声がする。





「起きなさい」





リーゼだろうか。





「起きなさい」





いいや違う。


この声は。





「起きなさい,エテルナ」




レイラの声だ。


そういえば昨日はレイラのベットで寝たんだった。


「まったく,私に起こさせるなんて,相変わらず良い度胸しているわね…」


レイラも相変わらず怖い感じだ。


怖くないレイラなんて想像できないけど。


「男の誰もが私に跪き,私に従うことで無上の喜びを覚えてくれるというのに…貴方ぐらいよ。私に好き放題言う男はね…」


何でレイラに従うことで無上の喜びを覚えるのだろうか。


「貴方に他の男と同じ感性を求める私が愚かなのかしら…。まあいいわ。それよりも私とサーシャはこれからガーランド帝国の軍事会議に出席するから貴方は家で留守番していなさい」


今日はレイラとサーシャはガーランド帝国の本城に行って何か色々とお話をするらしい。


何でも天国と地獄の均衡が崩れるからだとレイラは言っていた。


難しい話だけど,とにかく一大事だということだ。


とりあえず,ボクはレイラ達の家に居させてもらってる。


世話になっていることだし素直に従わないといけない。


そうしないとボクは悪い子になってしまう。


ボクはレイラの言葉に頷いた。


「ふふっ,素直ね。少しは私に従う喜びに目覚めたのかしら。さあ,朝の口づけを受けなさい…」


レイラの吐息がボクの首筋に近づく。


多分,レイラはボクの首筋に唇を当てようとしてるんだ。


レイラが何だか機嫌が止さそうだったから機嫌を損ねないようにしようと思い,ボクは素直にレイラの唇を首筋に受けた。


レイラの唇は柔らかくて冷たい。


何だかぞくっとしてくる。


レイラの唇からまた何かが吸われてくる。


わずかに血の匂いがしてくる。


そうか,レイラはボクの血を吸ってるんだ。


だから,体の熱が吸われていくような感覚がしたんだ。


血は人間の体を維持していくために重要な物だと昔アスタロトに教えてもらったことがあった。


ボクは朽ちない不滅の体を持ってるからいくら血が無くなっても体は維持できるし,死ぬことも無い。


無くなった血も元通りになる感じだったし全然平気だ。


改めてボクの体は凄いんだと思った。


昨日,レイラに吸われたときは全てを委ねたいような委ねたくないような,よく分からない感覚がしたけど。




今度は素直に気持ちいいと思ってしまった。




熱くなった体が気持ちよく冷えていくような感覚。




ボクの全てがレイラの唇に吸われているような感じ。




レイラの唇の冷たさがボクの体全体に染み渡っていくような何とも言えない感覚。




ボクの体とレイラの唇が解け合って一つになった感じがした。




ボクの首筋からレイラの唇が離れる。


ボクの首はボクの血とレイラの涎でべとべとになっていた。


冷たかった体が暖かくなる。


ボクの体の血が元通りの量になったんだ。


「ふふっ,続きは帰ってからにしましょうか。貴方はいずれ私に全てを委ねる喜びに目覚めていくのよ。貴方は私の者なのだから…」


レイラは上機嫌に笑っていた。


レイラの笑いが何だか勝ち誇ったような感じがしてボクは少し悔しいと思った。










ボクは血と涎でべとべとになってしまった首を洗い流そうと台所に向かっていった。


ボクは昨日でサーシャとレイラに一回ずつ,今日の朝も一回レイラに吸われている。


この家はどうやらボクのように朽ちることの無い不滅の肉体でないと耐えられない環境かもしれない。


多分,普通の人だったら体が持たないと思う。


レイラはボクの体について何か気づいた感じだし。


ボクは台所で首についた血と涎を洗い流す。


けど,レイラの匂いまでは首から洗い流すことは出来なかった。


レイラの匂いはまるで動物が獲物に匂いや唾を付けて自分の物だと言わんばかりの頑固な匂いだ。




『貴方はいずれ私に全てを委ねる喜びに目覚めていくのよ。貴方は私の者なのだから…』




あのとき,レイラに血を吸われていて一瞬全てを委ねたい気持ちになったボクがいた。


もし,レイラに全てを委ねてしまったら何だか終わってしまいそうな予感がした。


リーゼの全てを包み込んでくる胸の暖かさとは違った気持ちを良さを持つレイラの口づけ。


ひょっとしたら,これがレイラに従うことの喜びなのかもしれない。


けど,そうなったらレイラに負けた感じがするから絶対ボクはレイラに全てを委ねない。


ボクが全てを委ねるのはリーゼだけでいい。


ボクはリーゼの想いを永遠に抱くと決めたのだから。









ボクは首を洗って台所から出たときだった。


ふと気づく。


何かが凄い速さでボクの所にやってきている。


空気の流れを切り裂くような鋭い何か。


ボクの体を切り裂くかのような風の刃みたいに速いもの。


「おーい!エテルナ!」


サーシャの声が聞こえる。


聞こえてくるのはボクに向かってくる風の刃だ。


サーシャが風の刃の様に速くボクの所に駆けつけたんだ。


「丁度良かったぜ!俺,これからレイラ姉貴と一緒に城に行って来るんだ。その前にお前の極上の美酒を飲みたかったんだぜ!さあ,呑ませろ!」


ボクの背中にサーシャの両腕が回され,引き寄せられる。


「へえ,レイラ姉貴の匂いがする。やっぱり姉貴も唾をつけてきたんだな。けど,姉貴の者は俺の者でもあるんだ!エテルナ,お前の美酒で俺をたっぷりと酔わせてくれよ…うむぅ!」


ボクの唇にサーシャの唇が押し当てられる。




レイラの唇は冷たかったけど,サーシャの唇は熱かった。




ボクの体が何だか火照ってくる。




ボクの唇を自分の物だと言わんばかりに引っこ抜くかのように吸い付いてくる。




荒々しいけど,時にサーシャの唇がボクの顔にぬるぬると這わせて唾を擦り付けるような口づけにもなったりもする。




サーシャの唇がボクの顔を舐め溶かすかのような感覚。




サーシャの唇でとろけてしまうような感じだった。




レイラとは別の意味で委ねてしまいたいと思うボクがいた。




「美味すぎるぜ!お前の美酒はよ!帰ったらたっぷりと飲み干してやるぜ…。ふふっ,だから,俺が帰ってくるまで,いい子で待っていろよ…。お前は俺の者なんだからよ…」


ボクの顔全体に生暖かいものが下から上へと擦り付けられる。


サーシャが舌でボクの顔を舐め回したんだ。


ボクは気づいた。


サーシャもレイラと同じく,ボクに従う者の喜びを教えるつもりなんだ。


「じゃあ,行ってくるぜ,エテルナ…」


サーシャは笑った。


サーシャの笑いはまるで子供が悪戯に成功したかのような意地悪な感じがしてボクは少し悔しいと思った。


サーシャにも絶対屈しないようにしなければいけない。


リーゼ。


ボクは絶対に負けないから。


それにしても,せっかく首を洗ったのに今度は顔がべとべとだ。


それに暖かかった唾が冷えてしまい,少し顔が冷たく感じてきた。


また台所に行かないといけない。


今度は顔を洗わないと。


多分,レイラの匂いと同じようにサーシャの匂いまでは落とせないだろう。


それに落としたとしてもまた新しい匂いをつけてくると思うし。


とりあえず台所に行こう。


ボクは朝から二回も台所のお世話になってしまった。


だから,今度台所を掃除することにしよう。


これからもお世話になるのかもしれないから。









リーゼ。


ボクはこの家でがんばっていくよ。

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