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第2話:美酒にも勝る味

サーシャの家は様々の人の吐息が微かに聞こえている。


目が見えないけど,僅かな空気の変化や匂いに敏感になんだ。


これも何十年も過ごしてきて身に付いた能力なんだと思う。


レイラは地獄でもかなりの権力を持っていて誰もが跪く偉い人らしい。


権力を持ってるから怖いんだろうか。


サーシャは少し不機嫌そうだ。


「レイラ姉貴,最近,妙に天国の動きが活発化してねえか?何が起こってんだ?」


「死人が多く来てしまったから,処理に困ってるんでしょうね。人間界で起こった戦争,神の大審判と呼ばれている事件で大量の死者を出してしまったから…」


ボクは二人の話から神の大審判の言葉を聞き取った。


あの悲しい双子が起こした世界規模の戦争。


戦乱の世に終焉を告げるきっかけになった戦い。


ボクとリーゼが駆け抜けてきた戦いの数々。


悲しくも懐かしい物語のような出来事だった。


「私達には関係無いことよ。それよりもエテルナを個室に案内しなさい」


「へいへい,エテルナ,ついて来いよ」


ボクはサーシャに手を引かれてついていった。









「ここがお前の部屋だぜ」


ここはボクを見るような気配はしてない。


良かった。


ここだったらゆっくり過ごせそうだ。


「同時に俺の部屋でもあるんだぜ…」


やっぱりゆっくり過ごせそうに無い。


サーシャはどうしてボクと一緒の部屋にしたんだろう。


「さてと…味わうか…」


サーシャはボクの両肩を鷲づかみする。


何をするつもりなんだ。


「言っただろ。味わうんだよ…」


ボクの唇に柔らかいものが押しつけられる。


これはサーシャの唇だ。


体が熱くなってくる。


それに何か体から吸い取られていく感じがする。


かつてアスタロトにやられた噛みちぎられるかのような激しい口づけに似ていた。


それにしてもいつまで唇を押しつけてくるんだろう。


そろそろ息苦しくなった。


ボクが死なない体を持ってなければ窒息してたかもしれないぐらいの長い口づけ。


苦しいけど,気持ちいい感じもする何か複雑な口づけだった。









しばらく経ってやっと唇を離してくれたサーシャ。


ボクの口の周りはサーシャの唾でべとべとだった。


「くぅぅぅっ!何て味なんだよ!おい!今までのどんな美酒よりも上回る極上の気だぜ!俺の心臓が鷲づかみされて潰されたって感じだ!」


サーシャはもの凄く喜んでいた。


まるで欲しかった玩具を手に入れて喜ぶ子供だ。


それにしてもいつ酒を飲んだんだろうか。


「おい,エテルナ。お前何者なんだ。こんな美味い気,人間が持ってるはずがねえぜ。天使でも小腹を膨らませる程度の味しかねえのによ…」


美味い気。


何のことなんだろう。


それにさっきの力が抜けそうな感じで気持ちいいような変な口づけ。


ひょっとしたら口づけすることでボクの何かを食べたということなんだろうか。


「それにしてもやけに元気だな。普通の人間だったら一週間,下手すると一ヶ月ぐらい足腰立たないってのに,まるで問題無いぜ!文句有るか!って感じだぜ…」


やっぱりボクの何かを食べたんだ。


でも,ボクはそれこそ問題無く元気だ。


だって,不滅の肉体なんだから。


サーシャはボクを怪しんでる感じだ。


ボクの体の秘密を言うべきなんだろうか。


「まあいいぜ!確かなのはエテルナの気はとんでもなく美味いってことだぜ!付け加えて顔に似合わず強靱的な気の量の持ち主ってこともいいもんだ!」


何だか勝手に納得してくれたみたいだ。


とりあえず口周りがべとべとだから後で顔を拭かないと。


「次もたっぷりと味合わせてくれよ!もうお前以外の気は食べることができなくなったんだから責任取れよ!」


相手にすると危ない感じがしたから聞こえない振りして部屋から出ようと思った。


「またな,エテルナ!」


ボクはサーシャの挨拶から逃げるように部屋を出ていった。








ボクは廊下を歩いていく。


しばらくはこの家の空気の流れを覚えないといけない。


目が見えないボクにはそれが必要なんだ。


誰かの足音がする。


ボクに近づいている感じだ。


「あら,エテルナ。どうしたの?」


この声はレイラ。


とりあえず挨拶してから去ろう。


だって,もの凄く怖そうな感じがするから。


それに今だけは絶対関わってはいけない気がした。


ボクの勘が告げてるんだ。


ボクはレイラに軽く挨拶して通り過ぎようとした。







「ちょっと,待ちなさい,エテルナ…」






ボクの足が床にくっついたように動かなくなった。


何だか悪戯が見つかってこれから怒られてしまう子供のような。


そんな気持ち。


なんだか周囲の空気が冷えた感じだ。


怒ったら空気が熱くなるんだと今まで思ってたけど。


初めて知った。


空気が冷える様な感じの怒りもあったんだ。


動かないボクに向かってくる足音が突き刺さるように耳に響く。


足音はボクの前で止まる。


ボクの顔に吐息がかかる。


鼻息がボクの口元で感じ,少しくすぐったかった。


唇に生暖かいものが擦り付けられる。


この感触は覚えてる。


レイラの舌だ。












「サーシャの味がするわ,エテルナ…」














レイラはとんでもなく怖かった。


助けて。


リーゼ。

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