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第14話:リディアを求めて…

ついにボク達ルシフォード家はブライトン領地へと足を踏み入れていた。


そこは綺麗な自然の空気はなく,無機質な金属の匂いと血の香りが漂っている。


かつての世界を恐怖に陥れたセフィロードと同じ冷たい世界。


こんな世界でリディアが生まれたんだ。


「いい,ブライトン家は地獄切っての軍事要塞であり,難攻不落と言われてた重要拠点。私達がこれから攻め落とす場所よ!覚悟はいい?」


レイラの緊張感に満ちた声が静かにルシフォード家全軍に響く。


ボク達は必ずリディアを助け出す。


そして,生きてルシフォード家に帰るんだ。


「エテルナ,俺の側から離れるなよ…」


サーシャがボクの手を握りしめてくれる。





『はははははっ!これはこれはルシフォード家の諸君!我が領地に如何様で御座いましょうか?』





突然,ブライトン領土に高々と声が響き渡ってくる。


リディアに似た美声。


怒りと憎しみを秘めた暗い声。


アディエル・ブライトン博士だ。


「分かっていて聞いているのかしら?それとも本当に分かっていないのかしらね?ブライトン卿…」


アディエルの嘲るような声に冷たく透き通るような声で応えるレイラ。




『分かっているさ。ああ,分かっているとも!はははははっ!貴様等の目的はこれだろ!さあ,何か吐くがいい!貴様の愛しい家族が迎えに来てるのだぞ!リディア!』




『ぐふっ!』




聞き覚えがある呻き声。




『みんな,にげ…て…』




リディアだ。




「リディア!くっ!ブライトン卿!今ならまだ不問にしてあげる。大人しくリディアを返しなさい!」




『不問だと!貴様がそれを言うのか!レイラ,忘れたとは言わせないぞ!貴様の軽率な行動でリディアを,私の唯一の家族を奪ったのだからな!貴様の家族ごっこなど反吐が出るわ!』




「それについては…弁解しようがないわ。けど,私は…貴方の妹,リディアにこの地獄を…託されている。天獄戦争の時のような悲劇を繰り返すわけにはいかないのよ!だから,引くわけには…いかないわ!」




レイラの苦しげだけど,決然とした声でアディエルの怒りを受け止めていく。




『私も引くわけにはいかないな。もはや,これで天国を滅ぼすことだけが私の生き甲斐なのでね。くっくっくっ,歓迎しよう,ルシフォード家の諸君。我等ブライトン家が死力を尽くして貴様等を歓待してやろうぞ!ははははははっ!』




「やはり,戦うしかないということね。だったら,私達も全力を尽くすのみ!弓兵部隊!撃ち方用意!魔法部隊!詠唱開始!」




レイラのかけ声と共に弦を引く音と呪文の合唱がルシフォード家全軍に響く。




『決着を付けようか,レイラ。貴様等ルシフォード家と我等ブライトン家で存分に殺し合おうぞ!全砲台解放!撃ち方用意!』




アディエルのかけ声と共に鈍く何かが開く音が一斉に響く。




戦場に一瞬の静寂が走る。




「放てっ!」


『撃てっ!』




ブライトン領土に激しい爆発音が響き渡る。


ルシフォード家とブライトン家。


地獄を代表する名家同士の戦争が始まったんだ。


「全軍突撃っ!」


ルシフォード家全軍の足音が大地を震わす。


爆発音と悲鳴が同時に戦場で木霊してくる。


「くっ!爆裂陣よ!みんな,気を付けて!」


爆裂陣。


レイラから聞いた話だと地面に見えない魔法陣を仕込んで置いて,敵がその魔法陣を踏むと爆発する罠らしい。


周囲に次々に爆発音と悲鳴が響いてくる。


みんな,爆裂陣にやられてるんだ。


「エテルナ,俺に付いてこい!」


ボクはサーシャに手を引かれながら戦場を走っていく。







「エテルナ!俺の手を離すなよ!大地よ!我が命に応えて力を顕現せよ!アースシェイク!」


サーシャの呪文と共に大地が激しく揺らいでいく。


そして,周囲にたくさんの爆発音が響き渡ってくる。


サーシャが震わした大地で周囲に設置している爆裂陣が反応して爆発してるんだ。


「今だっ!突撃しろっ!」


サーシャのかけ声と共に背後から怒号の声が響く。




『サーシャ・ルシフォード,なかなかやるではないか。だが,甘いな!ゴーレム共を発動させよ!』




地面が脈動してくる。


この感覚には覚えがあった。


伝承魔法ゴーレム。


人では決して扱うことが不可能とされた伝説の魔法。


だけど。


ここは地獄なんだ。


人以上の魔力を持っていてもおかしくはない。


ボクとサーシャが立つ大地が盛り上がっていくの感じる。


「俺に掴まれ!エテルナ!」


ボクの体が宙に浮いてる。


サーシャと一緒に空を飛んでるんだ。


ボクとサーシャの周囲の空気が遮断されるのを感じる。


サーシャが結界魔法を展開させたんだ。


だったら,ボクは神様の力,分け与える力をサーシャの手を通して使うんだ。


「この力は!エテルナ,お前…」


サーシャは驚いてるようだ。


「すげえぜ!この力だったら,ブライトンの戦線を突破できる!行くぜ!エテルナ!」


壁を連打するような音がボクの耳に響く。


サーシャの展開した結界に魔法攻撃や飛び道具が集中してるんだ。


だけど,ボクの力で強化された結界はそう簡単には破れない。


ボクとサーシャは悲鳴と爆音が響く戦場を駆け抜けていく。


目指すはリディアのいるブライトン家だ。


「ちっ!ゴーレムが行く手を阻みやがるぜ!」


ボクの手を引いて真っ直ぐに駆け抜けていたサーシャが斜めに動くのを感じる。


その瞬間に物凄い風圧がボクとサーシャの結界を軋ませてくる。


ゴーレムがボクとサーシャを弾き飛ばそうと体を振るってきたんだ。


「これじゃあ,先に進めねえぜ!畜生!」


風を突き破るような物体が飛来するの感じる。


ゴーレムが体からちぎった岩を投げつけてるんだ。


サーシャは複雑に小刻みに動いている。


その度に凄まじい風圧がボクとサーシャの結界を撫でつけてくる。


ゴーレムの攻撃を喰らったら,結界は破られないにしても遠くまで弾き飛ばされてしまう。


そうなれば,リディアから遠ざかってしまう。


早くリディアの元に辿り着きたいのに。


「サーシャ,そこから離れなさい!我命ず!立ちふさがる敵を等しく引き裂かん!エビル・ハリケーン!」


サーシャはレイラの呼び声と共に後ろに下がっていく。


その瞬間,空気が凄まじい流れを起こし,前方に物体の動きを止まっていくのを感じた。


「今のうちに早く行きなさい!この戦いはリディアを取り戻すために戦い!敵を倒すことではないわ!第七部隊,サーシャとエテルナに援護を!ブライトン家までの血路を開くのよ!」


ボクとサーシャを寄せ付けないように周囲からの感じる金属音や悲鳴が遠ざかってくるのを感じた。


「恩に着るぜ!レイラ姉貴!エテルナ!リディア姉貴の元まで突っ切って行くぜ!」


レイラの思いに応えて,ボクとサーシャはリディアがいるブライトン家に向かって突っ切っていく。




『何をしている!目障りな羽虫を叩き落とすのだ!』




アディエルのかけ声と共にボクとサーシャの結界に次々と連打音が響いてくる。


「利かねえな!この結界は俺とエテルナの愛の力で鉄壁になってるんだぜ!」


ボクとサーシャは弾幕の嵐をものともせずに駆け抜けていき,ブライトン家に突っ込んでいく。


「一番乗りだぜ!」


激しい激突音と共にボクとサーシャはついにブライトン家に突入することに成功した。




『招かれざる客,いや,来賓の方も来られてるようだな。では丁重に持てなしてやろうか…』




周囲に一斉に足音が響いてくる。


ボクとサーシャが敵兵に囲まれたんだ。


「ふん!嘗めるなよ!地獄軍の切り込み隊長とはこのサーシャ様だと言うことを思い知らせてやるぜ!」


サーシャがボクを腋に抱えてくる。


「死にたく無ければ,どきな!」


風を切る音と肉が切れる音。


そして,悲鳴が聞こえる。


ボクの体に熱いものが降り掛かる。


敵兵の返り血だ。


サーシャが剣を振るって敵兵を薙払ったんだ。


「邪魔だ!」


サーシャが風を切る音を出す度に敵の悲鳴が響いてくる。


サーシャが言葉通り血路を開いてるんだ。


この調子でリディアの所に行くんだ。












「俺とエテルナの行く道に立ちはだかるんじゃねえ!」


サーシャの怖い声が立ちはだかってくる敵兵を威圧してる感じだ。


突き進んで行くうちに空気の流れが透き通るように感じてくる。


立ちふさがってくる敵がいなくなってきてるんだ。


「よし!このままリディア姉貴の所まで辿り着いてやるぜ!」


リディアの元にもうすぐ辿り着くことができる。


そう思ってた矢先だった。


「うぐっ!」


サーシャの体が何かに当たったかのように弾き飛ばされる。。


何があったんだろうか。


「急所を狙ったつもりですが,僅かな殺気に気づき,回避なされましたか…。さすが切り込み隊長サーシャ様でありますな…」


「不意打ちとは…やるじゃねえか…。ぐっ!」


サーシャの声が苦しそうだ。


ボクはサーシャの体から熱いものがどくどくと流れているのを感じる。


これは。


サーシャの血だ。


ボクは急いでサーシャの体に触れて治癒の力を使おうとした。


けど,サーシャに突き飛ばされてしまった。


「ぐっ!」


サーシャの呻く声と金属音が響く。


「ふっふっふっ,これは申し遅れました。私,ブライトン博士の助手を務めておりますバルシアと申す者です…」 


サーシャがバルシアの攻撃にボクを巻き込まないように突き飛ばしたんだ。


「博士からは貴方様方を誠心誠意に歓待することを命じられました…」


金属同士がこすれ合う音が聞こえてくる。


「畜生!お前なんかに…」


「ふふっ,貴方を倒せば,私が地獄軍の切り込み隊長になれると博士は仰った。その称号を貴方様の命と共に貰い受けます!」


激しい激突音が何度も響いてくる。


バルシアの笑い声とサーシャの呻き声が交差して響いている。


サーシャがバルシアに押されてるんだ。


「あぅ!」


サーシャの呻き声と共に地面に投げ出される音が聞こえてきた。


このままだとバルシアにサーシャが殺されてしまう。


「私は貴方様の後任を立派に果たしてみせましょう…」


「…よ…我が…」


サーシャは何かを呟いていた。


バルシアの足音がゆっくり響いてくる。


まるで獲物を嬲り殺すかのようにじっくりと。


サーシャの匂いがする方向に向かって。


サーシャの足音が聞こえない。


サーシャは動けれないほどの傷を受けてるんだ。


「だから,安心して永遠の眠りについてください…」


「…て力を……せよ」


サーシャが呟いてる言葉はひょっとすると。


「おや,神にでも祈っているのですか?」


「へへっ,違うね。お前に死を送る呪文を唱えてたのさ!アースシェイク!」


「何っ!」


床が震えてくる。


ブライトン家が揺れているんだ。


そうか。


サーシャはアースシェイクを使うために呪文を呟いていたんだ。


床に軋む音が聞こえてくる。


「くっ!正気か!こんな建物の中でアースシェイクを使用するとは!」


バルシアの足音がばたつくように聞こえてる。


激しく揺れるう床でバルシアがふらついているんだ。


「ああ,正気だぜ。これでもかって言うぐらいにな!バルシアぁああああ!」


「ぐはああああっ!」


バルシアの悲鳴と共にサーシャとは別の血の匂いがしてきた。


バルシアの血の匂いだ。


「生憎と俺はまだ切り込み隊長の座を譲るつもりは無いぜ。残念だったな,バルシア…」


「ごほっ!は…博士…申し訳…ありま…がふっ…」


バルシアの血を吐く声と共に地面に倒れる音が重く響く。


サーシャがバルシアに勝ったんだ。


ボクは急いでサーシャの元へと駆けつける。


そして,サーシャの体に触れて治れと念じる。


サーシャの体から流れる血が止まるのを感じた。


「お前の力,すげえな…」


そういえば,治癒の力を使ったのは久しぶりだった。


ふとボク達が通った道から多数の足音が近づくのを感じる。


敵の増援が来てるんだ。


「エテルナ,お前は先に行け!ここは俺が食い止めてやる!」


サーシャは敵を引きつけてボクをリディアの元に辿り着かせようとしてるんだ。


サーシャは心配だけど,強いから一人でも大丈夫かもしれない。


けど,ボク一人でリディアの元に辿り着けるのだろうか。


「安心しろ!この先にはもう殺気は感じないぜ!さっき倒したバルシアという奴がどうやら最後の門番だったみたいだ!後はお前がリディアの元まで走ればいいんだぜ!」


ボクはサーシャの言葉を信じた。


こういうときのサーシャは嘘を言ったりはしない。


ボクは頷き,走り出そうとした。


けれ,突然腕を引っ張られてサーシャに抱き寄せられる。




「忘れ物だぜ…。ちゅう」




ボクの唇にサーシャの熱い唇が押しつけられる。




「ぢゅうぅぅぅぅぅぅ」




ボクに気合いを入れるかのように強い吸い付きだ。




「ぢゅぱっ!ふぅ……勝利の女神の口づけだ。御利益はお墨付きだぜ…」




サーシャの熱い吐息がボクの顔にかかっていく。




「さあ,行って来い!リディア姉貴を,俺達の家族を取り戻してきな!エテルナ!」




ボクはサーシャに背中を押され,走っていく。




リディア。




『ボクは…君を…女として…愛してる…』




ボクは。




『分かってる。でも…今だけは…』




リディアに。




『今だけは…僕だけの…エテルナに…なって…』




想いを伝える。











ボクは突っ走っていく。



空気の流れが途切れる。



途切れた前方に僅かな空気の漏れが感じる。



おそらく扉だ。



扉の先に。



リディアがいる。



ボクを壁に突き当たり,両手で力の限り押していく。



扉は重々しく開き,生臭いの匂いが漂ってくる。







「よくここまで辿り着けたな,神の力を持つ少年よ。歓迎してやろう…」







アディエル・ブライトン。








「来てはダメ!」








リディア。









「良かったな,リディア。お前の大切な友達が来てくれたぞ!これで貴様の廃棄処分は取り消しになるのだ!喜ぶがいい!はははははっ!」




「お願い…逃げて…エテルナ…」




アディエルの笑い声とリディアの悲しげな声が部屋に響き渡る。




ボクは逃げない。




アディエル。




リディアを返して貰う。




「エテルナ…」




「威勢のいいことだ!良かろう!貴様の心意気がどこまで持つか,存分に試させて貰おうか!」




ボクはお前なんかに絶対負けない。




「エテルナ!博士の話を聞いてはダメ!」




「黙れっ!」




「あぐっ!」




リディアに手を出すな。




ボクはお前の挑戦を受けて立つ。




「ははははははっ!良く言った!ならば…」








































「遊戯を始めようか…」

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