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転生したら余命宣告された令嬢でした  作者: 櫻木サヱ
理解者という仮面

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15/17

理解の形だけが残る

 人は、見たいものだけを見る。


 それは優しさでも、悪意でもない。

 ただの癖だ。


 リリアーナ・エヴァレットは、その癖を何度も見てきた。

 そしてそのたびに、訂正しないことを選んできた。


 訂正は、関係を生む。

 関係は、期待を生む。

 期待は、いずれ誰かを傷つける。


 だから彼女は、沈黙を選ぶ。


 その日、会話の相手は変わっていた。


 相手は、彼女の余命についての話をすでに知っている人物だった。

 そして、その“知っている”という事実を、丁寧に扱おうとしている。


「あなたは、ちゃんと自分の状況を受け入れているのですね」


 穏やかな声。

 評価でも、否定でもない。


 リリアーナは少しだけ視線を上げた。


「受け入れている、という表現は正確ではないわ」


「では?」


「最初から、特別なものとして扱っていないだけ」


 彼女の言葉に、相手はわずかに目を瞬かせる。


 その反応は、いつものものだ。


 理解できないのではない。

 理解した形に当てはめる余白が足りないだけ。


「普通は、怖がるものです」


「そうかもしれないわね」


「あなたは違う」


 断定だった。


 リリアーナは、その言葉を否定しなかった。


 否定すれば、また別の“説明”が生まれる。

 それはもう十分だった。


「強いのですね」


 また出てくる、その言葉。


 強い。

 便利で、都合のいい分類。


 それを言うことで、人は安心する。

 目の前の存在を、自分の理解の範囲に収められたと錯覚できるから。


「強い、というのは便利な言葉ね」


 リリアーナは静かに言った。


「え?」


「説明できないものを、まとめてしまえるから」


 相手の表情がわずかに揺れた。


 それでも、すぐに微笑みを取り戻す。


「それでも、事実ですわ」


 ――事実。


 その言葉が出た瞬間、リリアーナは理解する。


 この人もまた、“理解したつもりの側”だ。


 優しくあろうとしている。

 正しくあろうとしている。

 そして同時に、自分の見方が正しいと信じている。


 だからこそ、そこから動かない。


 リリアーナは視線を逸らした。


 訂正しない。

 否定しない。

 説明もしない。


 それらはすべて、関係を生む行為だからだ。


 少し離れた場所に、アーシュの姿があった。


 彼はこの会話に入らない。

 助言もしない。

 同意もしない。


 ただ、見ている。


 そして彼は気づいている。


 目の前の相手が、リリアーナを“理解できる範囲の存在”に収めようとしていることを。

 それが優しさという形をしていることも。


 だが、そこにリリアーナはいない。


 あるのは、他人が作った説明だけだ。


 会話が終わり、相手が去っていく。


 残ったのは、整えられた空気だけだった。


 リリアーナは何も言わず、その場に立っている。


 理解されないことに、もう驚きはない。

 理解された“ふり”をされることにも、慣れている。


 ただ一つだけ確かなのは、


 ――誰かの理解は、必ずしも自分の存在を含まない、ということ。


 彼女はそれを、静かに受け入れた。

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