ユヤッケ荘の密室殺人
本作はとあるYouTube企画に応募した作品をそのまま投稿したものです。
そのため、やや内輪ノリの表現が含まれています。
*ユヤッケ荘の密室殺人*
ある日の深夜、ユヤッケ荘に悲痛な叫び声が響いた。
ユヤッケ夫妻の一粒種、ジョン・ユヤッケの叫び声でユヤッケ荘の一室にその住人たちが集まった。ユヤッケ夫妻、そして2人の使用人。彼らがそこで見たものは、まさしく惨劇であった。
破られた扉の向こう、無機質な部屋の中央に大きな血だまりが広がっていた。その中心で、男が仰向けに倒れている。その男の頭部には顔を両断するように巨大な鱗のようなものが深く突き刺さっていた。その惨状を前にジョン・ユヤッケは愕然と立ち尽くしている。
「なんということだ!」
「あらあら」
ユヤッケ夫妻は放心状態の息子を男の死体から引き離し、居間に連れ戻った。
ユヤッケ荘に重々しい空気が漂う中、唐突に玄関の呼び鈴が鳴った。ユヤッケ荘の主であるパパイヤ・ユヤッケがドアを開く。
そこに立っていたのは灰色の瞳の若い女だった。女は月明かりに溶け込んでしまいそうな淡い美しさを纏っていた。
「おや、ミス・アウスじゃないか」
「こんばんは。寝付けなくて散歩をしていたら、ユヤッケさんのお宅からものすごい叫び声が聞こえまして、何かあったんですか?」
アウス・グレイ。彼女はこう見えて、国中を飛び回り、数々の難事件を解決している名探偵であった。
今は、探偵業は休止しているらしく、数か月前からこの辺りに家を借りて生活していた。
「あー……いや、そうだ。実に良いところに来てくれたよ。実はうちで殺人事件が起こってね」
「殺人事件……」
「こんな時間で悪いが、君の力を借りたいんだ。大丈夫かい?」
「……なるほど、わかりました。ユヤッケさんたちには日頃お世話になってますからね!」
探偵はまず死体とその部屋を調べた。
大きな鱗のようなものが頭部に刺さった死体。その死体が置かれている窓のない無機質な部屋。
この異様な様子を見てもアウスの表情は変わらなかった。
彼女は、まずこの部屋の唯一の出入り口を見て尋ねた。
「ここの扉はなぜ破れているのですか?」
「息子が部屋に入る際に壊したんだ。外れた扉はあそこに置いてある。今日は偶然私が鍵を持っていたんだが、それを知らなかったようでね」
「偶然、ですか」
扉の横には、のぞき窓の付いた壊れた扉が置いてある。アウスは元々扉の付いていた箇所を見ながらしばらく何かを考えている様子だったが、続いて死体の調査に移った。
頭部に刺さる紫の大きな鱗のようなものを見る。
「これは、やっぱり鱗ですね」
「はい」
「死体の彼は、普段この部屋で生活していたんですか?」
「ええ。ペロって言うんだけど、普段は鍵を掛けて、鍵を開けるのは食事をさせるときだけですな」
アウスは、床に広がった血だまりの縁をしゃがみ込んで指でなぞるように観察した。乾き具合、飛び散り方。
やがて立ち上がり、部屋をぐるりと見回す。
家具は寝床など必要最低限。窓もない。通気口すら見当たらない。唯一の出口は鍵のかかっていた扉だけ。
「密室だった、というわけですね」
「ええ……そうなりますな」
パパイヤ・ユヤッケは少し芝居じみた不自然な態度で答えた。
「こんなものでいいですかね。では、次は皆さんから順番にお話を聞かせていただけますか?」
最初は、ジョン・ユヤッケ。首元に白いスカーフを巻いている。
まだ顔色が悪いまま、居間の椅子に座らされている。
「叫び声をあげたのは君ですね?」
「……はい。夜中に目が覚めて、水を飲みに行こうとしたら、あの部屋の前を通って……そうしたら、扉ののぞき窓から……」
そのときの情景を思い出したのかより一層顔色を悪くさせたジョンを見て、アウスは次の話題に移った。
「そうですか。それで扉は?」
「鍵を持ってなくて開かなくて……だから、体当たりして壊しました」
「すぐ壊れた?」
「はい。力には自信があるので……。あの……ペロは僕の親友で……家族、だったんだ……」
「そうだったんだね。ジョンくん、君のために私が必ず犯人を見つけるよ」
「……う、うん」
ジョンは視線を落としながら、震える声で答えた。
「ところで、ジョン君。いいスカーフをしてるね。よく着けてるの?」
その言及にジョンは肩をびくりと跳ねさせた。
「……ううん。今日は偶然、つけてたんだ」
アウスはその言葉に、繰り返すように小さく頷いた。
――面倒臭いので省略。
聞き取りが終わると、アウスは居間に全員を集めた。
「皆さんお待たせいたしました」
「犯人がわかったのかね。流石、名探偵だ」
アウスはそれには答えず微笑みで返した。
「さて、これから、このユヤッケ荘にて不可解で残虐な殺人事件を引き起こした犯人、そしてそのカラクリを私アウス・グレイがご説明いたしましょう」
誰かが息を呑む音が聞こえた。
✳︎✴︎⭐︎幽焼け推理タ〜イム⭐︎✴︎✳︎
ここから先、名探偵アウス・グレイによる華麗なる推理タイムが始まります。その前に幽焼け様にはこの怪事件の真相をズバリ予想していただこうと思います。
言わば私から幽焼け様への挑戦状ですな。
それではお願いします。どうぞ。
アウスはゆっくりと集められた面々の顔を見渡していく。
灰色の瞳がめいめいを射抜いた。
「この残虐卑劣な殺人事件の犯人は――」
「僕です、僕がやりました」
アウスの発言を遮るように声が上がった。
その声の主、ジョン・ユヤッケは顔を真っ赤にし俯き震えながら手を挙げていた。
「……僕がペロを殺したんです」
「ジョン……」
パパイヤが心配の声をあげる。ジョンは首元の白いスカーフを静かに解く。
首元の一部、スカーフに隠されていた部分の鱗が不自然に剥がれていた。その形と大きさは死体に突き刺さっていた、あの巨大な紫の鱗と、ぴたりと一致した。
ジョンは真相を語り出した。
「僕、実は水を取りに行ったんじゃなくて、こっそりペロの部屋に入って一緒に遊んでたんだ」
「どうやって開けたんだ」
「鍵は元々掛かってなかったよ。こっそり遊びに行くために開けておいたんだ」
「そうか」
「それで、遊んでたら……たまたま首の鱗が落ちてペロの頭に刺さっちゃった……ペロが死んで、僕が夜更かししてたことがバレちゃうと思ったから偽装工作をして誤魔化そうとしたんだ!!パパ〜、ママ〜ごべんなざい〜!!」
泣きながら告白するジョンを、パパイヤが抱きしめた。
「ジョン……わかっていたさ。僕たちはペロが死んだことに悲しんでたわけじゃない。君が嘘をついて誤魔化そうとしたことに悲しんでいたんだ。正直に言ってくれてありがとう」
「そうよ、ジョン。人間ならまた買えばいいわ。いっそ今日これから買いに行くのはどうかしら。ほら、日も昇り始めたわ」
見れば、窓から柔らかな白い光が差し込み始めていた。
ジョンも顔を上げ、日差しを見るとようやく2匹に笑顔を浮かべた。
「うん!今度は丸くて可愛い人間がいいな!!」
「この!現金なやつめ!」
ジョンはパパイヤに頭を噛まれ、きゃっきゃっと叫ぶ。
「ほら、2人とも、じゃれあってないで人間ショップに行くんだから早く準備しなさいよ。ジョンも早くペロ片付けなさい」
「わかったよ、ママ」
「は〜い」
そう言うとジョンはペロの死体を口で咥え、宙に投げ上げた。死体は血を撒き散らしながら短い放物線を描き、ジョンの口の中へスポリと収まった。
「はは!ペロをペロリだな!」
「もうパパ寒いよ〜」
「は〜……あなたももうオヤジドラゴンなのね」
そう言いながら家族は仲睦まじく笑い合った。
いつの間に少し離れたところで静観していたアウスは、そんな微笑ましい光景をもう少し眺めていたい気もしたが、自身にようやく眠気が訪れていることに気づいた。
「皆さん、私は眠たくなってきたようなので、そろそろお暇させていただきます。お出掛け、楽しんできてください」
「ああ、ミス・アウス。今日は私たちのために一肌脱いでくれてありがとう。良い眠りを」
1匹1匹に挨拶を受けて、ユヤッケ荘を後にする。
穏やかな日差しを浴びながら帰り道を歩いた。
寝床に帰り着いたアウス・グレイは微睡む意識の中で小さく呟いた。
――ドラゴンめでたし、ドラゴンめでたし……。




