第一章3 能力者
唐突だが、質問する。
「能力」と聞いて皆は、何を思い浮かぶだろうか。
火を操る発火能力。
念で物体を宙に動かす念力。
今の場所から違う場所へと移動する瞬間移動能力。
自分の言いたいことを相手の脳に伝える精神感応能力。
みんなが想像した超能力。
それは、人類が現実のものにしようと夢見た力でもあった。
だが、どれも成功へは実らなかった。
――しかし一部の例外を除いて。
△▼△▼△▼△
鶴谷修也は、稲荷と片倉啓介に能力者が誕生した経緯について説明した。
以前に、赤羽達には、「アルマスの宇宙開発実験」という噂を話していたが、それは事実ではない。
理由としては、アルマスが能力を持たない人間を能力者に作り替える――非人道的な実験を行っているのではないか、そう疑わしい噂であったからだ。
いきなり真実を話しても、ましては能力者を仲間にするとかで、信じて貰える保証はない。
「そんな……」
「惨いことを……」
「はい、その中で成功した者がいました」
「それは、いや……まさか……」
稲荷は何となく察し、鶴谷が首を縦に振りうなずくその通り【犬神 健人】その一人が能力者として成功を収めたのだ。
「稲荷さんは、彼と出会ったのはいつくらいで ? 」
「五年前じゃ、まだ健人が二十歳くらいの時じゃった」
「意外と前……」
「知らなかったんですか ? 」
「いや、そうじゃないんだ……」
鶴谷自身も知らなかった。
そんな実験が、こんな前からあったとは思いもよらなかったのだから、しかも、成功例が五年前だったことが、何よりの驚きだった。
そして――鶴谷達は知らない。
世界各国の軍は、敵を倒すのには、通常兵器や人間では火力不足に陥り、打開策を見失った。
そこで軍が思いついたのは――
"能力者"という架空の存在を人工的に作ろうという考えだった。
その過程として選ばれたのは、人間の脳そのものを作り変えるという、常軌を逸した発想だった。
絶望に追い詰められた戦時下で、禁忌の開発が密かに進められていた。
非人道的な開発実験を推し進めたマッドサイエンティストが、確かに存在したという。
――だが、その真実を鶴谷修也を含めるLASの隊員達は知らない。
なら――去年で起きた世界を巻き込む大地震の正体は、一体なんなんだっていう疑問が残った。
だが今は、深追いをする時ではない。
鶴谷はそう判断し、いったん思考を切り替える。
そして、稲荷に視線を向け、静かに問いかける。
「いつから、――彼が能力者だと。分かりましたか ? 」
「畑仕事してた時の話じゃ。確か、秋――さつまいも収穫しようとしてた時にイノシシが現れての――」
△▼△▼△▼△
稲荷の話はこうだった。
秋のさつまいも畑で、大振りのイノシシが畑に侵入していた時。
急な出来事でバランスを崩してしまい、稲荷は、足を挫いてしまった。
その瞬間――犬神健人の体が変貌した。
身長一七五センチの人間が、全長二メートル五〇センチの黒い狼へと腫れ上がる。
筋肉が異様に隆起し、黒曜石のような毛並みが艶めいていた。
しかし、初めて能力を使ったからか、力を上手く制御できてなかった。
黒い狼は、暴走をしてしまい。突進してきたイノシシに、右腕で大きく振り抜いた。
その瞬間、鈍い衝撃音が響いた――。
イノシシの首が、ありえない角度にねじ曲がる。
巨体は支えを失い、土埃を巻き上げながら横転して崩れ落ちた。
もう、動くことはない。
足が痙攣する気配もないのだから。
他の人間にまで、被害が大きくなる。――そう直感し稲荷は、地面を蹴り
高く跳躍し、狼の頭頂部にめがけて力強くカカト落としを叩き込む。
――バン !! と鈍い衝撃音が弾けた。
かなり応えたのか、狼は千鳥足となり、膝から崩れ落ちて気絶する。
その瞬間、能力は霧のように解けていく――腫れ上がった筋肉が縮んでいき、黒曜石のような毛並みもまるで、羽が抜けていくように風に舞っていった。
やがて、巨大な狼の姿は消え、犬神健人の身体へと戻った。
彼の額には、焼いた餅のようにプクりと盛り上がったタンコブができていた。
変身した反動で服が全て破け散り、裸同然の姿になっていた。
♤♤♤♤
犬神健人が能力者という存在と知った事の顛末を、稲荷が説明した。
「なんていうか、まぁ。叩いて解除させてたんすね。能力を」
「そうなんじゃよ〜、よく言うじゃろ?テレビとかそういうのは、叩いて治すって」
「健人は、テレビじゃないんだよ……」
「まず、能力者自体。テレビじゃないよ ? 」
鶴谷修也は、犬神健人の件については「アルマスが関係してる」とだけを伝えることにした。
そして、彼が気になったのは――精霊についてだった。
「えぇ、稲荷さん。さっき、稲荷さんの存在が精霊と仰いましたね。」
「そうじゃよ?」
「もしかして、大精霊、準精霊、微精霊とかいるの?」
「え??ナニソレ?知らない……怖ッ……」
「え?居ないの」
稲荷は鶴谷の顔を見るなり、どうやら誤解をしていると悟った。内心で「どこから、仕入れた情報なんじゃ ? 」と首を傾げる。
――この男、漫画やアニメの見すぎである。
稲荷は、分かりやすいようにテーブルにあったライターを取り出し、親指に着火レバーを押し火をつける。
「そう、いま。火をつけているじゃろ」
「はい」
「これが"精霊"じゃ」
「へ ? 」
要するに精霊とは、ありとあらゆる事象や現象そのものを指す"概念的な存在"、きわめて曖昧な存在である。
稲荷のような存在は本当に稀で、"概念そのものが具現化し形を得た存在"――それが今の稲荷である。
「意外とマジで曖昧なのな」
「仮に、じゃが。火に話しかけても、何にも返されないよ」
「そこまで、馬鹿じゃないやい ! 」
片倉啓介は、本題に話題をすり替える。
鶴谷修也がなぜ、犬神健人と片倉啓介のスカウトに来たのか。
そして、LASの目的についてを聞き出す。
「犬神は、能力者てのもあるが。人数が足りなくてね。火力にも欲しかった。そして、片倉 啓介くん。君、元自衛官だったでしょ。それも、その採用理由さ」
「……思い出したくないな……」
「わかるよ、その気持ち――気分悪いわな」
「あぁ……俺は、自衛官てか。数合わせの徴兵だがな」
「そうか」
片倉啓介は、元々会社員だった。
戦争が激化していくにつれ、兵士の人員が足りなくなってしまい。政府は予備役の徴兵を余儀なくされた。
片倉もそのひとりで、後方支援の建前として予備官を徴兵していた。
最終的に、彼は最前線へと駆り出された。そこで味わった地獄は、血や泥の味がした。
「その結果、俺はストレスで白髪だよ……」
「あぁ、染めてた訳じゃないんだ。」
「染めたで住むならどれほど良かっただろうか。」
戦場を乗り越えた片倉だったが、心は深く疲弊していた。帰る家も、働いていた職場も戦火に巻き込まれ、居場所がなくなってしまった。
目的がないまま徘徊を繰り返す日々。
やがて偶然たどり着いた神社を見かけ、彼は神に縋ろうとした。
なけなしの金を賽銭に投げようとするも、手元を滑らせ――
全財産を賽銭箱に投げてしまった。
――もう、ここまでか。
せっかく生き残ったのに、この有様だった、彼はその現実に耐えれなくなり、神社の木で首を吊ろうとした。
その時、彼を止めてくれたのは――稲荷だった。
戦争で働く場所や住む場所も失った片倉は、稲荷のもとで住み込みとして働かさせて貰った。
「んで、俺がいるってわけです。働いてた会社は、読み通り全焼で倒産ですよ」
「そりゃ、やるせないわな」
「そういや、あんたは元軍人だろ ? 海外で活躍したとか ? 」
「いんや、元陸上自衛隊でレンジャーやってたよ」
「へ〜、LASっていう傭兵に入るより、このまま国防軍にいた方が ? 」
「……入隊できねぇよ」
入隊できるわけが無い。
いや、入隊したくないが本音なのだろう。
片倉啓介も鶴谷修也も戦争で負った傷があまりにも大きすぎた。
戦争は、人を狂わせてしまう。
二人が――いや、LASの仲間たちが後にも先にも壊れ切れなかったのが、ある意味救いとも言えるだろう。
片倉は一呼吸おき、まっすぐ鶴谷を見る
「これだけ、質問したい」
「どうぞ」
「――あんたにとって、"仲間"はとはなんだ ? 」
短い沈黙が落ちた。
鶴谷は視線を少しだけ伏せ、やがて顔を上げ、苦笑しながら答える。
「……そうだな、小っ恥ずかしいことをいうなら。【もうひとつの居場所】かな ? 」
片倉は、その回答に苦笑する。
「……はぁ……そりゃ、仲間の目の前では恥ずかしいわな」
「まあ、とりあえず。言うなら……おれは、仲間を見捨てることはねぇから」
片倉啓介は、稲荷さんに視線を向けると。稲荷は、優しく笑顔で返す。片倉はその言葉を胸に刻み、ひとまず信じることにする。
「ただし、条件があるぜ」
「なんだ ? 」
「俺を雇うからには、高えぜ ? 使い走りはごめんだぜ」
鶴谷は、興味が出て気になり尋ねる。
「へぇ、おいくら ? 」
片倉はニヒルな笑みで返す。
「月に一億円ちょーだい」
「でるか、バカ」
片倉は冗談半分だったが、もらえないと知って軽く舌打ちした。稲荷は、この様子にくすりと笑って見守る。
「なら、わしもついてくよ。健人を連れていくなら、の話じゃが ? 」
「あぁ、来てくれ ! ストッパー役がいると助かる」
「なら、安心じゃのぉ」
「もし断ったらどうなったの ? 」
「その場合、わしの本当の姿を見たから。記憶を無理やり消させて頂こうかのぉ〜フフフフ……」
稲荷は、ジト目で不気味な笑みをしだし、鶴谷修也は冷や汗かいて誘ってよかったと思った。
△▼△▼△▼△
目を開けると、見慣れた木造の天井があった。
犬神健人は稲荷に修正されたんだと思い額に手を添えて撫でる。
「はぁ…またやられたか……」
上体を起こし、廊下へ出る。
鼻の奥に残る鉄の匂い。
そして、胸の奥を締め付けられるような空虚な気配。
片倉の匂いだ。
戦場で染み付いた血の匂いと、
失った仲間の影が重なる"空虚"。
その匂いを思い出すたび、犬神健人は言葉を失う。
「――あの男は違う……」
犬神健人は、鼻に残る血の匂いに顔をしかめた。鼻が曲がりそうになるほどの濃い匂いだった。
――一体何人殺めたんだ ?
何十人、何百人の人を殺めたんだろうか ? と犬神は、喉の奥で引っかかった。
「俺は……守りたいだけだ……」
犬神健人はあの男に恐怖していた、だからこそ先手にライフルを構えた。
だが、片倉と稲荷の説得で銃を収めざる追えなかった。そもそも弾が入ってなかったため、結果的に何も起きなかった。
それでも――犬神健人にとっても、あの男が恐怖の対象だったからだ。
「とりあえず、啓介と稲荷のとこ行こ……腹減った」
客室から声が聞こえたので、そこへ足を運び。
襖に手を添えるもまた嫌な匂いがした、しかも昼間に嗅いだものと同じだった、犬神は不安感で開けるのが怖かった。
だが、稲荷と片倉啓介の声が聞こえた。
――そして、あの男の声も。
少なくとも殺されてはいない。
そう判断し、犬神は、客室に入る。
「……稲荷…啓介…」
「お ? 起きたのか ! 健人。すまんのぉ、強めに小突いて」
「いいんだ……で、てめぇはまだいんのかよ ? 」
犬神は自分の思い違いだと知りたいが、濃い血の匂いのせいで、嫌悪感が勝り。
鶴谷修也に対して殺意が、おもわず顔に出てしまう。
「うわ !こっわ !! 殺気ダダ漏れしてるが?」
「うるせぇ !! 人殺しが !! 」
「間違えてないけど ! お前が思ってるやつじゃねぇよ ? まず、服装が怪しく感じさせたのは謝る。けど、スカウトだからどうしても正装で来ちゃうのは仕方ないやろ ? 」
鶴谷修也のうんざりした言い方に苛立ったのか、犬神健人は部屋中を響くような怒号を発する。
「とぼけんじゃねぇ !!! 」
鶴谷修也や片倉啓介や稲荷もいきなりの怒号でビクッと反応する。
鶴谷は何をとぼけているのかが分からず、「は ? 」と間の抜けた表情になる。
片倉啓介は「そんなに怒鳴ることなのか ? 」 と疑問な表情に。
――稲荷は"そんなに鶴谷修也って男が引っかかるの ? "と心配な表情になる。
「んじゃあ、なんだよ ? その不快な鉄クセェ血の匂い ! んでもって生きてる癖に死人みたいな目をしやがって ! そして……なんでそんなに、やるせない匂いをしてんだよ……」
「……」
犬神健人は、気づいていた。不快な血の匂いとあまりにも心の影があとから来るように鼻につく。
「やるせなさか……乗り越えたはずなんだがな」
「そうかよ……んじゃ、乗り越えれてねぇんじゃねぇのか ? 」
「ーーかもな。あと、俺は……君の敵じゃない」
「あっそうかよぉ……」
「そして、君のーー」
「言わなくてもわかってるよ、あんたは、知ってんだろ ? 俺の能力をよ……」
――きっと、犬神健人が鶴谷修也を嫌悪をしてるのは、匂いだけじゃないのかもしれない。
もしかしたら、自分が何者なのかを知ろうとする勇気がなかったから。
△▼△▼△▼△
犬神健人は、二五年間の人生のうち――その、大半にあたる二〇年間の記憶が、蜃気楼のように霧んでいた。
なにより、思い出としても、霧のように白く包まれて思い出せないから。
自分は二〇年間、一体何をして生きてきたのか。
もし稲荷や片倉啓介に出会わなければ――
果たして今みたいな温かな日常があったのだろうか。
その疑問が、胸の奥をじんわりと不安で満たしていた。
それでも、いつか知る時がくる。
逃げる訳には、いかない。
だから、犬神健人は静かに勇気を振り絞った。
「そういや俺を勧誘するやつは、あんた以外にも居たよ」
「ほぉ、どんなやつだった ? 」
「そういや、同じ黒スーツだったな」
同じ黒スーツ ? 会社の勧誘か ? いや、だとしてもなんで猟師なんかに?まさか……。
「最近で俺以外に能力発揮したのは ? 」
「あぁ、一ヶ月半前くらいかな?あんまり、詳しい日付は覚えてないけども」
「使った理由は ? 」
「あぁ、鹿を狩りにいってたときだった。そん時に、横からクマが俺のところに向かって走ってきたんだ。多分、近くに小熊が居たんだろう。そん時に、やむを得ず」
「そん時、人気を感じたか ? 」
「いや、覚えてない。クマを対処するのに必死だったから」
鶴谷修也は青ざめたきっと、誘ったやつはーー。
「胸ポケットにバッジとか着いてなかったか ? 」
「そういや、若葉みたいな形したバッジつけてたな」
予想が当たってしまった。
若葉のバッジ――そのモチーフに気づいた瞬間、鶴谷は唇かむ。
間違いない。
――戦争屋だ。
最悪な事態が頭によぎる。
奴らの事だ、この場所を襲撃するに違いない。
稲荷や片倉啓介を人質とり、無理やり言うことを聞かせる――そんなやり方を平然に選ぶ連中だ。
「冗談じゃねぇ……」
自分の詰めの甘さに、嫌気がさしていく。
元を辿れば奴らは商人じゃねぇか、保守的な考えなんか持つことはない、なんなら柔軟で狡猾な発送を思いつく。
むしろ、こうした手段を真っ先に思いつく連中だった。
だからこそ――鶴谷修也は決断する。
犬神健人に全てを告げる、と。
「犬神くん、勧誘してきたヤツらは俺の敵だ ! そして、もしかしたらここに襲撃してくるかもしれない ! 」
犬神は、言葉を失う。
「片倉くん、白兎を召喚して。周りを警戒して欲しい。1匹で出来るかは分からないけど」
「あぁ、わかった!あと、白兎は分身できる」
「そうなんだ ! 」
白兎は、分身が可能な汎用性の高い式神であり限界の数は試したことは無いが、せいぜい6匹までは出来る。
片倉啓介は、白兎を呼び出し、複数体に分裂させて家中の周囲を巡回する。
視覚の共有も可能なため、片倉は屋内にいながら周囲の様子を把握することができた。
片倉曰く、これを出来ると知ったのは体調が悪い時に気づいただとか。
「どうだ ? 」
「怪しい人物は居ないみたいだ」
「よし ! 稲荷さん。準備してな」
「うむ ! あと、そうじゃ ! お仲間さんおるんじゃろ?その人たちに、わしの作った野菜食べさせたいんじゃが持ってきても良いか ? 」
「準備の時間に余ったら、お願いします」
「うむ ! 」
稲荷は寝室に向かった、
タンスから三人分の着替えや歯ブラシを取り出し、
ボストンバッグに詰める。
更に貴重品もまとめに詰めるだけ詰めた。
鶴谷修也は、二人が準備に取り掛かる中、犬神に選択を与える。LASにつくか?ソナリアンに着くか ? の二択を迫らせる。
「君に、選択だ ! 俺らに着くか?それとも奴らに着くか ? の二択だ」
「……稲荷は俺のも準備してるんだろ ? なら、あんたらに着く。ただし ! 二つ条件がある !! 」
犬神健人は、鶴谷修也を信用していなかった。
だからこそ、二つの条件を突きつけた。
「一つ目は、稲荷や啓介に無闇やたらに危険な目に合わせないという事だ!啓介は、戦争で嫌な目にあったのと稲荷を、傷つけたくない ! 」
「……善処する」
「嘘でも「わかった」とは言わねぇのな」
「もしかしたら、この先危険な目に合うかもしれない。けど、無闇やたらに合わせる気は無い」
「そうかよ……そして二つ目は俺が能力者だからって特別待遇や特別扱いは要らねぇことだ ! 」
「わかった。あと、二つ提示しなくても。そのつもりだよ」
「契約成立、だが ! 俺は、あんたを信用してないからな ! 」
「好きにしな」
稲荷が、ボストンバッグをたくさん持ってきて「準備できたぞ ! 」と知らせにくる。
「よし、片倉くん。敵は ? 」
「まだ、居ない。行くなら今 ! 」
「全員 !! 俺のハチロクに乗り込め !! 」
鶴谷修也はトランクに荷物を押し込んだ。
稲荷と犬神は後部座席へ滑り込み、片倉が助手席に乗る。
GR86のエンジンが唸り、タイヤは砂利を弾いて発進した。
後日――
鶴谷修也の予想通り、ソナリアンの連中は稲荷たちの住居へ侵入した。
しかし家の中は、もぬけの殻だった。
拉致は、失敗に終わった。




