序章:『最悪の始まり』
西暦:203×年 アメリカ LAS:拠点地
――最悪な日が来やがった。
いや、向かって来たが正しいのだろう。
彼は寮と併設されている基地の窓を覗いた。
「うそ……だろ ? 」
それは……ソナリアンの襲撃であった。
海岸沿いに建設された小綺麗なビジネスホテル風な見た目をしているが中身は、射撃場やトレーニングルーム、訓練場やヘリポートが設けられてるだけの綺麗な軍事基地と変わらない。
その基地が今崩壊へと向かっていた。
空からプロペラ音が響きわたり低空を飛ぶヘリの編隊が、輪を描く。
LASの基地はソナリアンによって包囲されていた。
ヘリコプターに積まれたミサイルが、こちらに向けて容赦なく撃ち混んで来た。
ミサイルは音より先に建物に撃ち込まれ、外壁のコンクリートが、発泡スチロールのようにエグれる。
ガラス張りの窓が、爆風で派手に割れて吹き飛んでいき、雹や霰のように破片が降り注いでいた。
被害はそれだけに留まることなく。
崩されていく外壁や、建物を支えていた柱が倒れていった。
「くそぉ……」
幸いにも爆発の衝撃で全身を伏せていた為、何とか重症は免れた。
しかし、ここから逃げるにも至難の業だった。
爆破の衝撃で耳元がキーンと耳鳴りが響きわたり、一七〇デシベル級の爆音で体が硬直して動けなくなっていた。
上手く、立てない。
さっきの爆音のせいで、足に力が出ない。
思わず、弱音を零す。
「……死にたく……ないよ」
怖い……ここで死ぬのでは ? と嫌な想像が脳裏に焼き付いた。
ここで死にたくない、誰か助けて……お願いします。
――そう願った時。
「死なせはしない ! 」
砂埃が舞う中、
白衣を身に纏った女医が、上手く立てない青年にゆっくりと手を差し出す。
青年は震えながらも伸ばされた手を伸ばす。
女医は、震える手をしっかり握り、青年を立ち上がらさせるために引っ張った。
青年は、子鹿のように足が震えていたため握ってる手を自分の肩にまわすように担いで崩れてきた基地への脱出を図る。
※※※※※※※※
二人は、急いで基地の外に出ようと試みる。
しかし外にはヘリの編隊が囲んでいるため危険でもあるが、それでしか方法がないのだ。
「どうする ? 外にはヘリがいる。下手に出たら……」
「いや、方法はある……あの方向に」
青年は指を指す。
女医は指された方向に視線を移すと、偶然かその方向にはヘリの攻撃から死角になっていた。
「なら、向かうわよ。もう足は大丈夫 ? 」
「ああ、大丈夫だ ! 」
青年は女医の肩に乗せてた腕を下ろして、瓦礫や崩れかかってる壁を盾にしながら。ヘリの死角になっている、方向へ走り込んだ。
間一髪ながら、二人は死角になっていた方向に向かうと、そこは格納庫だった。
格納庫の中には、ガンシップ【AC-130】が駐機しているため、飛んで逃げるにはもってこいだ。
ただ不思議なことにシャッターは開いてる状態だったからか、二人は不安になる。
「……そこにいるの、敵 ? 見方 ?」
「……何かあったら、俺を盾にしてくれ」
青年は女医を守るようにして前に出ながら、格納庫まで入った。
仲間たちが先にガンシップに入っていたのだが、ここに来るまでに腹部を負傷した者がいた。
「頼む !! 助けてくれ !! どんなに、止血を施しても……上手く血が止まってくれねぇんだ !! 」
「わかった ! だけど、今この状態だとまずいわ。今から発進させて !! 」
ここでは不味い、今は何とか死角になっててヘリからの攻撃から対象外になっているけども。
見つかりでもしたら、治してる暇はない !!
今がチャンスとばかりに、ガンシップを起動させる。プロペラがゆっくり回り始め、格納庫内にある小道具や器具が風圧によって吹き飛ばされる。
格納庫のシャッターから脱出を図り、機体はゆっくりと動き始めた。シャッターの外へ顔を出す。
そこは死角だが――
爆音に塗りつぶされた空気の中で、
機体の低いうなりは、ただの“背景音”に溶けた。
ミサイルの衝撃。
崩れ落ちるコンクリート。
ヘリのローター音。
それらに紛れて、ガンシップは、ゆっくりと前へ滑る。
気づかれてない、今がチャンスだ。
機体は、そのまま勢いに任せて飛び出した。
ソナリアンには、まだ見つかってない。
LASは、何とか生き延びたのだ。
――ただ、一名を除いて。
「あれ、ライアン団長は ? 」
青年の一声により、その場は沈黙に沈んだ。
「……嘘だろ」
こんなにも、呆気なく死んでしまったのか ?
彼は……ライアン団長は、元特殊部隊だぞ。
ライアン・レイノルズ、彼はアメリカ海軍特殊部隊【SEALDs】の元隊員であった。彼の死があまりに早かった。
青年にとって、彼は――生きていなければならない人だった。それなのに、襲撃によって呆気なく死んだ。
だけど、もう一人の方は。
「クラウス……副団長……」
そう、さっきまで腹部に負傷し止血も間に合ってなかった人物が、クラウス・ローレンスである。
彼は、元ドイツ連邦警察対テロ特殊部隊に務めいていた。
今、女医が何とか止血を試みるも出血が酷く、どうにも手の施しようがなかった。
「頼む先生!! クラウスは俺の親友なんだ !!ここで、死なせたくないんだ……どうにかしてくれ !! 」
必死に、医者の助けを乞うしか出来なかった。
彼の名はベルトルト・カリア。
元イタリア陸軍レンジャーを勤めていた。
しかし、クラウスは助からなかった。
既に出血量が、致死域に達していた。
女医は、救えなかった自分の無力さに、下唇を噛んだ。
彼は、仲間たちに囲まれながら息を引き取った。
「ちくしょう……クラウス……そんな、別れ方はねぇだろ ! 」
「ベルトルトさん」
「……悪ぃな、俺は本日付けで辞めさせていただくよ。もう、さっきので懲り懲りだからな……というより、仲間の死は……もう、見たくねぇよ」
それは、そうだ。
仲間の死を何度も目の当たりし、
戦友だけでなく、親友までも失った。
あまりにも無情な現実に、ベルトルトは耐えきれなかった。
だが、青年は切り替えるしかない。
今後、ソナリアン達との戦いで、仲間の誰かが犠牲になるのかもしれない。
青年は襲撃によって亡くなった二人を見て、現状を飲み込んだ。
コクピットから
「んで、どこに向かうんだ ? 」
このまま、放浪する訳にも行かないから聞くことした。
全員が、悩んだ。
それもそのはずだ。
ソナリアンは、世界各地にいるため、どこから来るのか、予想ができない。
なんなら、リーダーや副リーダー等が殉職し、同時に一人は辞職するという大打撃を受けている。
だから、慎重に選ばないといけない。
――その時だ。
「《《日本》》へ向かおう」
その提案を口に出した人物は、
基地でのミサイル着弾によって、
動けなくなっていたーーあの青年だった。
「日本はまだ、そこまでの影響が薄いはずだ。人員探しも、日本からなら十分いるはずなんだ。
第三次世界大戦に、生き残ってきた連中はいるしな」
――そういう算段だ。
仮に、人員集めに時間がかかっても、ソナリアンへの対策が間に合えるからだ。
その説明に、全員が納得した。
そして、その提案を了承する。
特に安堵したのは、ベルトルトだった。
リーダーや副リーダーがいなくても、
こうして前に出て、みんなを引っ張れるような存在が、ここにいるから。
「そうか……。俺は日本に着いたら。辞表を出すが、あとは任せるぜ。鶴谷団長」
そうして――
鶴谷修也が、LASの団長として歩き出した物語。
始まりの火蓋が、すでに落とされたのだ。




