春蘭ちゃんはお弁当を作れない(改)
春蘭は、里山に咲く蘭の一種。種子が地面に落ちてからは、菌類に助けられつつ、ちょっとめんどくさい育ち方をします。それを擬人化してみたのがこれ。私のエッセイ「あてどない植物記」のエピソードから独立させて改稿したものです。
あたしは、しゅんらんのたね。
きのう、かぜにのってたびにでて、
けさ、じめんにおちた。
おなかすいた。
そうだ。おかあさんのおべんとうたべようっと。
おべんとうばこをあけた。
あれ、からっぽだよ。
めもがはいってる。
ごめんね、きょうだいがおおすぎて、おべんとうつくれませんでした。
じめんについたら、このひとをよびなさい。ごはんたべさせてくれるから。
Rhizoctonia さん
じゃ、がんばってね。
ははより
え?
おべんとうは?
おなかすいたよ。
わーん。
「ああ、今年も来たか。」
春蘭の共生菌であるRhizoctoniaさん、略してゾクさんが起き上がる。この人の役目は、春蘭の種が落ちてきたら、泣き止ませてご飯をあげること。
「行ってくるか。」
「わーん。」
「ああお嬢ちゃんもう泣かなくていいよ。おじさんがご飯をあげる。」
「ありがとうおじちゃん。」
鮭のおにぎりを口一杯頬張りながら春蘭ちゃんが尋ねる。
「おいはんわはれ?」
「おじちゃんは共生菌のゾクさんだ。」
「きょうせいきん?」
「いや名前はそこじゃなくて。」
「きんちゃんでいい?」
「…いいよ。」
春蘭ちゃんは、ゾクさん改めきんちゃんからご飯をもらって育ち、地下でプロトコームという小さな細胞の塊になった。
「うっせーなババア。」
春蘭ちゃん、更に生長してリゾームになった。リゾームって、まあ芋みたいなものです。
今はきんちゃんから世話を引き継いだPeniophraさん、略してペニーさんの家で暮らす自宅警備員である。
「あんたいつまで地面の下にいるつもり?発芽からもう5年よ5年。」
「うっせーなまだ本気出してないだけだよ!」
「いい加減将来のこと考えなさい。」
そんなことわかってる。私だって、いつかひと花咲かせたいよ。
そして、ついに春蘭ちゃんは葉を出した。そこから3年かけて、花を咲かせ実を結んだ。
母となった春蘭ちゃん、今、種子を送り出す準備に追われている。
「お弁当作ろうと思ったけど、無理だわー。」
種子の数は数千。お弁当箱全員分用意したところで予算が尽きた。
そこで、春蘭ちゃんは伝言メモを書いて、一枚ずつお弁当箱に入れた。
ごめんね、きょうだいがおおすぎて、おべんとうつくれませんでした。
じめんについたら、このひとをよびなさい。ごはんたべさせてくれるから。
Rhizoctonia さん
じゃ、がんばってね。
ははより
あたしは、しゅんらんのたね。
(中略)
え?
おべんとうは?
おなかすいたよ。
わーん。