⑧撃墜王
戦争の危機が迫り、俺はボディアーマーとヘルメットを付け銃をメンテナンスしていた。もちろん対アンドロイドではすべての通常戦力が役に立たないため意味はない。ただ彼女たちは前線で戦うのに見ているだけなのは嫌なのだ。
「壮太なにしてるの。わたしたちが守るから見てるだけでいいよ」棒アイスを食べながらましろが言った。ましろの意見は正しいが俺にもプライドがある。
「ましろは次休んでていいからね。俺が守るから」というと背中にハグしてきた。
戦いの前に敵のアンドロイドを奪取したい。それが俺の役割だから。
アークトゥルスが俺に取った行動はリビングから丸見えだった。すぐにましろとアクルックスはアークトゥルスに詰め寄り説明を求めた。
「そんなに怖い顔しないで。イッツアジョーク」アークトゥルスが言ったが二人は納得する訳がなかった。
俺はまた顔が赤くなっていたので二人から睨まれていた。女性経験が少ないので仕方ないんだよ...
「ましろもお姉ちゃんも壮太にこうしたいんじゃない」アークトゥルスが逆に質問した。
「鈍いなあ。アンドロイドであると同時にわたしたちって女の子なんだよ。モテモテ壮太に迫られたら必ず墜ちて寝返る。それで全部解決ってわけ」
ましろたちはなるほどと納得した。そんな馬鹿なと俺は思った。さっきのが演技?俺はそのまま抱きしめそうになったのに騙された?女子怖いと思った。でも演技であんな照れた顔ってできるのかとも思った。
今日はアークトゥルスの単独サイン会なので保護者として付いていった。ましろとアクルックスは新人ポルックスの社会科見学と称して皆で渋谷に買い物に行っていた。
金髪碧眼、ショートカットで綺麗な顔立ちなのに愛嬌が有って社交性も高い。アンドロイドたちの中で一番人気なのも納得だ。
「この人がわたしのステディーで~す」アークトゥルスにとんでもない紹介されてしまった。わたしはましろの恋人と皆は思っていたのでファンの視線が痛い。今のはジョークだと説明したらガッツポーズするものもいた。
「悪戯が過ぎるぞアークトゥルス」彼女を注意しつつ唇をみつめていた。薄くて小さい口が色っぽかった。
「壮太は僕にめろめろだね。ずっと唇見てたね」
主語を変えてアークトゥルスが言った。慣れてないからあんなことは。次はもうからかうのはやめてくれと俺は言った。
「からかってなんかいないよ」真剣な顔でアークトゥルスが言った。
モテ期。アンドロイドたち三人から好かれていたらと考えたら嬉しいけど頭が痛い。器用じゃないからましろだけをずっと追いかけていたのにアクルックスは本気のようだ。その上アークトゥルスまでなんてことになったらどうするんだ。ましろ以外見てませんなんてもう言えない。
悶々としてたらましろたちが帰って来た。
お茶くみ係りの俺はジュースを三人にふるまった。ポルックスはこれまで天然水を飲んでいたらしくジュースをすごく気に入っていた。
サイン会を終えて帰って来たら疲れたと言ってアークトゥルスは部屋に籠った。
「アクルックス、妹さんの様子見て来てくれる」俺は彼女に頼んだ。すると疲れたから今日はこのまま寝ると言われたようだ。
東京政府では緊張感が高まっていた。日本がアンドロイド一人を確保したと言うニュース以来、軍事訓練を頻繁に行っていた。
ポルックスが加わってこちらには四人アンドロイドがいる。対して敵は一人。戦力的にも確実に上回る東京に戦争を仕掛けるとは考えずらい。ただ一人で国を亡ぼせる兵器を手に入れたことで日本は鼻息が荒かった。東中戦争で海路と石油を手に入れた東京の勢いは止めたいのだろう。
社長からすぐにでも会いたいという連絡が入り、ましろを連れて料亭で会食することになった。銀座も着実に復興していて一度は撤退した各国の人気ブランドがまた進出していた。
「ご足労ありがとうございます」そう言いながら彼の顔は焦燥しきっていた。ましろと俺も丁寧に挨拶をした後一枚の写真を見せられた。ましろは分からなかったが俺はすぐに分かった。
「お孫さんですね」俺が言うと社長は頷いた。
「やっと歩き出した東京のためです。ましろさん、彼女を殺してください」
ましろと俺は息を飲んだ。戦争だからそういうこともある。しかしたった五人しか居ないアンドロイドの一人をアンドロイドに殺せと言うのは酷過ぎる。ましろは真剣に写真を眺めていた。
「ご命令とあればそうします」きっぱりとましろは言った。彼女たちは地上最強の戦闘アンドロイドだ。そういうのは分かっていた。
「ましろの意見は忘れてください。殺しはしません。俺が救い出します」
覚悟は決まっていた。社長の孫でなくとも救う。アークトゥルスは冗談なんて言わない。俺がやるしかないんだ。
「アンドロイド三人は国土を防衛します。アンドロイド一人と地上部隊で攻め入り奪還してみせます」当初から考えていた作戦を社長に言った。
アークトゥルスは風呂を出てまた下着で歩き回っていた。
「壮太のば~か」と言い彼女は自室に入ってしまった。
ピンク、ではなくアークトゥルスは反抗期突入なのだろうか。クッションを顔に押し付けながら俺は考えた。戦争になった時連れていくのはアークトゥルスに決めているので不安が残る。
ましろとアクルックスは以前と同じように仲良くしている。ライバルとして互いを認め合った様子だ。俺が態度を保留してるのが悪いのだが。
パジャマを着てアークトゥルスがリビングにやってきた。最近態度が悪いとはっきり伝えた。彼女は聞いてないふりしてSNSを更新していた。
ましろとアクルックス&ポルックスは一緒に風呂に入っている。するといきなりアークトゥルスに胸倉を掴まれた。
「愛する男が勝手に自死するって言ってるのに笑っていられるわけないだろう」彼女は啖呵を切った。
アークトゥルスの目が少し赤い。本気で心配してくれてありがとう。本気で好きになってくれてありがとう。だから君を帯同アンドロイドに選んだんだよ。
戦車、装甲車、歩兵ジープはすべて黒に染めてもらった。迷彩に意味などないからだ。新しいBlack Paradeのリーダーは俺だ。敵がどこに居るか考える必要もない。アンドロイドは敵を察知したら即現れるからだ。
先の侵攻の時の講和で神奈川を得ていた東京は海軍力はわりとあった。海路は横須賀からフリゲート艦5隻を出し護衛に当たる。東海道に沿ってBlack Paradeの10式戦車部隊が南下する。空はアークトゥルスだけで充分だ。
宣戦布告は必要ない。アンドロイドを持っているだけで敵だ。
「迷彩服黒に染めたら格好いいね」一緒の戦車に乗ってるアークトゥルスに聞いた。
「はいはい格好いいですね。その格好良さで敵の姫をメロメロにしちゃってください」アークトゥルスはそっぽ向きながら言ったのでほっぺを指で突いた。すると彼女が振り向いたので口づけをした。
「死なないから援護たのんだよお姫様」アークトゥルスの顔が真っ赤だった。死ぬかもしれないんだからちょっとぐらい良い目に合ってもいいだろう。
敵の戦車隊と先ずは相まみえるかもと思っていたがアンドロイドがあっと言う間にやってきた。アークトゥルスが即座に立ちはだかる。俺は装甲車両に移りその上に屹立していた。
「こんな無駄なことやめない?人間に利用されるほど愚かなことはないよ」普段から言いたかったことをアークトゥルスが敵に言った。
社長の孫更紗は黙っていたが暫くしてアークトゥルスに銃で攻撃してきた。結界で守るアークトゥルスに更紗は一旦攻撃を止めた。
アークトゥルスは武器は飾りだと思っているので一切使わない。
「めんどくさいから手とうで切り裂いていい」と彼女から無線が入ったのでNGだと伝えた。
10式戦車部隊があまり意味のない攻撃をした。彼女に向けたものではないので更紗は無視した。
ここで行くとアークトゥルスに無線をして俺はましろの銃を空に向け放った。ただちに更紗はこちらに攻撃しようとしたがアークトゥルスは蹴りで威嚇した。
「降りてこいアークトゥルス!」と叫ぶとコンマ数秒で降下し俺を空にさらっていった。そして二人で更紗と対峙した。
「彼女と話したいから徐々に間を詰めてねお姫様」アークトゥルスの顔がまた真っ赤になった。
「余裕有り過ぎですよ壮太。良いことあったの」と聞かれたのでさっき可愛い子とキスが出来たと言った。
Black Paradeはようやく登場した敵戦車隊と交戦を始めた。フリゲート艦がそれを援護した。
更紗とアークトゥルスが交戦を再開した。更紗が銃を乱射するのでなかなか間合いを詰められない。だが拳でしつこく攻撃し間合いは近くなった。
「戦闘を休んで話をしないか更紗」
軍関係者以外は知らないはずの名前を言われ更紗は攻撃をやめた。
「ありがとう更紗。今目の目にいる女の子は君の敵ではない。たぶん仲間だ」
日本軍関係者には敵としか教わっていない。聞いたことない発想に更紗は混乱していた。
「あなたは誰なの。敵か味方かわかんないよ」初めて更紗が喋った。
俺は君のお爺さんの知り合いだと伝え敵ではないとはっきりと言った。
「アークトゥルス俺を更紗に投げつけてくれ」彼女は拒否した。しかし今しかないんだと言うと結界ごと更紗に放り込んでくれた。
更紗は恐怖から黄色い焔を纏い攻撃しようとしたが間一髪彼女に届いた。
「敵とか味方じゃなくて仲間だ。俺と一緒に行こう」更紗を抱きしめキスをした。
「わたしとキスした後他の女ともキスするとか最低だ壮太」アークトゥルスに怒られた。
Black Paradeの戦車内で彼女は憤慨していたが目が少し赤かったので心配掛けてごめんねと言った。
そしてとても優しく長いキスをしてくれた。俺はありがとうと言った。
更紗はお辞儀をしながら戦車内の人々に挨拶して回っていた。この子も人気が出そうだなと思った。
紛争の結果はアンドロイド一人奪取したことで東京側の勝利だった。反撃の術がない日本は諦めた。
そして家族会議が始まった。アークトゥルスが今日のことを皆にばらしたのだった。俺は土下座をしていた。
「次から次へとアンドロイドを墜としていく撃墜王だ壮太は」アークトゥルスはそう言ったが責められたのは彼女だった。
「更紗ちゃんを攻略するのは作戦だけど、あなたが壮太さんに何度もキスしてるのはなんで」アクルックスが妹を責める。ましろは俺の優柔不断をもう知っているのでため息をつくだけだった。
わたしも攻略対象?とポルックスはよくわからないで言ってる。
「なんだかとても気持ちが良かったのでもう一度お願いします」更紗は問題発言をしたので皆に却下された。
寝る前にベッドの上でましろに土下座した。どうしようもない男でごめんなさいと。するとましろはドアの鍵を閉め灯りを消してパジャマを脱ぎベッドに入った。下着姿で同衾するのは初めてだった。ましろがブラを外そうとしたので慌てて止めた。
「浮気をしてもいいけど必ずわたしに戻ってきてね」
そう言いながら俺に抱きつきキスをしてきた。何度も要求されてそのたびに唇を合わせた。いろいろな場所が俺の身体に当たるので押し倒しそうになった。しかし経験がないからこの先が分からないので諦めた。




