⑥ましろvsアクルックス
渤海奪取と南シナ海領有権、莫大な賠償金を得て東中戦争は終わった。三人で北京を叩けばたぶん中国の政権転覆させられたのだが漢民族対その他という大昔の紛争が起こるのは見えていたので威嚇で済ませた。
東京は輸出出来るほどの原油と海路を得て国としての形が見えて来た。
俺の関心はBlack Paradeの中に潜んでいたと思われるもう二人か三人のアンドロイドの行方を追うことだった。激しい戦闘でも不死身と言っていい彼女らは死ぬことはない。餓死はあり得るが。
しかし目撃報告も拉致報告も一切ない。となると既に誰かパートナーを見つけてひっそり暮らしているのかも知れなかった。それならそれでいい。自身の戦闘兵器としての能力をしらないまま生きていてくれるならそれが一番いいからだ。
アクルックスは最近一人で風呂に入るようになった。アークトゥルスは寂しがったのでましろと入っている。最近いろいろと彼女たちにも変化があるので俺は見守っていた。だがましろと風呂に入れなくなったことは血の涙を流しそうなくらい悲しかった。
「最近一人で風呂に入っているがその方がいいのか」俺は直撃取材してみた。う~んといいながら考えているがどうやら自分でもよく分かってない様子だった。
ましろたちはまだ風呂に入っているのでジュースをアクルックスにあげてリビングで話していた。
「最近ましろと壮太が一緒にお風呂に入ってるのを見て悲しい気持ちになったりした」
アクルックスはそう答えた。え、と思った。以前は仲の良い妹と居るのが一番幸せそうに見えたからだ。
彼女たちとは会った時からわりと良好な関係にあった。ましろが居てくれたから敵視されることがなかったし好意も少し感じていた。奴隷種のような性質を持つ彼女たちは命令されることに喜びを感じていて、あれこれ頼み事しても嫌な顔するどころか幸せそうだった。
しかし時が経ち変化もあった。ましろは明確な恋心を俺に見せるようになったし、アクルックス姉妹は東京を守る姿勢を明確に示し始めた。なんて分析しててもしょうがない。アクルックスは俺に好意を抱いてしまったというのが真相なんだろう。俺はというとましろ命で彼女に振られない限りは一緒に居たいと切に願っている。
俺はアクルックスと一緒にベランダに出た。相互信頼という間柄で過ごしていけたら三人とはこれまで通りで居られると思ったから。夜景を見ながら最近覚えた煙草をふかしていた。なにか喋らないといけないと思いアクルックスの方に向いた時暖かい感触を唇に感じた。彼女にキスをされてしまった。
何も言わずにアクルックスはリビングに戻って行った。しばらくして風呂から上がったましろとアークトゥルスがベランダに俺を探しに来た。顔が赤くなっているのを見逃さなかったましろが訝しげに俺を見た。これは浮気じゃないを心の中で十回唱えた。
横になるとましろが背中を何度も引っ掻いてくる。早く白状しなくてはと思いながら呆れられて振られるのが心の底から怖い自分がいて何も言えなかった。
基本的に家の四人はニートである。政府予算からお金が出てるので厳密には違うかも知れないが。
だから外に出掛けない日は一日中一緒にいる。
今まで仲良し家族ごっこをしてただけに険悪な空気とかそういうのは経験したことが無かった。だが今日はましろが一言も口を聞いてくれなかった。
その代わりアクルックスが飲み物はどうとかやたらと話しかけてくれる。モテ期かとかどうでもいいことを考えて気を紛らわせようとした。が、それはいけないのでましろの手を取って家を飛び出し公園に連れて行った。
「アクルックスとキスしました。ごめんなさい」土下座で謝った。彼女からされたと言わなかったのは二人を喧嘩させたくなかったから。
しかし、どっちからしたのと質問された。当たり前だった。黙っていたら蒼い焔にましろが包まれていた。
「ましろやめなさい!」と言っても聞かず彼女は今来た道を駆けて行った。
だいぶ遅れて家に付くと二人のアンドロイドが対峙していた。Black Paradeのアクルックスが顕現していた。ましろも紫のスーツに薄紫のウィングで蒼い焔が髪と目に宿っていた。
「
お願いだやめてくれ。俺が全部悪かったんだ」と叫んでも聞く耳を持たない。彼女たちはやはり地上最強の戦闘アンドロイドだったのだ。引くことはしない。
「アークトゥルス止めてくれ一生のお願いだ」落ち着いて座って見ていた彼女に懇願をした。
「お姉ちゃん、ましろ東京が無くなっちゃうよ」ジュースを飲みながらアークトゥルスが言った。構わず二人はベランダを突き破り出て行った。
「アークトゥルス連れて行ってくれ」というと一瞬のうちに俺を抱えて遥か上空に飛び立った。
剣を構えるましろとアクルックス。以前、霞が関で見た構図と一緒だが今度は明らかに本気だった。ましろ、可愛いましろやめてくれ。アクルックスはこの街を守りたいと言っていた。
激しく剣を振るうましろ。力で劣るアクルックスは防御しながら後退している。大きな蒼い焔が小さいそれを飲み込もうとしていた。仲の良い妹のはずのアークトゥルスはただ眺めている。
アクルックスの焔が消え閃光が見えた。自爆技だよとアークトゥルスは冷静に言った。しかしそれすらもましろの焔が呑み込んでいく。このままではアクルックスが死ぬとはっきりわかった。
「ましろこっちを見ろ。俺はこめかみにいつかましろから貰った銃を突き付けた」今すぐやめないとこの引き金を引くと。本気だった。どっちが死んでも俺も死ぬ。
ましろから焔のオーラが消えた。その瞬間アクルックスがましろに切り掛かろうとしたがアークトゥルスが素手で剣を受け止めた。
「わたしとやるの、お姉ちゃん」真っ赤な炎を纏ったアークトゥルスが言った。ブラックのスーツが平時のホワイトに変わった。戦闘は悲惨な最後を見る前に終わった。戦意を失った二人と俺を抱えてアークトゥルスは降下し家に向かった。
少しの間気絶していた俺だったが目の前でアークトゥルスがましろとアクルックスに説教をしていた。
「喧嘩なら口でしなさい。大抵の人間はそうしてるんだよ」どっちが姉だか分からなかった。
「お風呂に入ってるうちに壮太を盗もうとした泥棒猫!」ましろがアクルックスを責める。
「二人は付き合ってるわけじゃないのにわたしの勝手でしょ!」とましろに言い返すアクルックス。
そうか付き合ってなかったのか... 落ち込む俺。
二人は丸二時間喧嘩して疲れたようだったのでそれぞれベッドに連れて行って寝かし付けた。
アンドロイドが喧嘩するとこうなっちゃうのとアークトゥルスに聞くと初めて見たから分からないと言った。
かなり怖い思いしたけれど皆無事で良かった。ただし解決はしていなかった。ほんとはアクルックスを俺が振らないといけないんだが、あれほど弱い彼女を見たらすぐに振るのは酷に感じた。それとましろには愛してると告白したが返事はもらってない。欧米人じゃないから返事は必要かとも思った。
今夜はましろと一緒に風呂に入った。夜景を眺めながら右隣に座るのがましろだ。でもそっちはほぼ見ない。性欲と理性がいつも戦っていた。最近はバスタオルを掛けてるのでほんの少しなら見ても問題ない。なのでちらっと横を見たら肌色しか見えなかった。見え、じゃなくて慌てて目を逸らして泡ぶろスイッチを入れジェットも出した。誘っているのかもと思っただけで信じられないくらいナニが荒ぶった。
たぶんこれがダメなんだ。ましろにキスしようと提案したら頷いたように見えたので顔をましろに向け口づけした。初めて(二回目)ましろの裸を見た。
大きくナニが膨らんでいたのでましろには先に出てもらい一時間後に俺も出た。
リビングには三人のアンドロイドが居たがまだギクシャクしている様子だった。ココアを三人分淹れ俺も一緒に座った。アクルックスが俺をちらっと見ていたけどそっちを向きづらかった。浮気じゃないのにそれに近いような気持になっていた。
「ましろって壮太さんともう全部やった?」アクルックスが爆弾を投げて来た。
ましろの顔は真っ赤になっていた。全部はまだだよ?と突っ込みたかったがここはそういう関係と思ってもらった方がいいかなと黙った。
アクルックスがふくれっ面になった。すると腕を掴まれ風呂場に連れて行かれて鍵を掛けられた。彼女があっという間に全裸になったので横を向いた。
「絶対見ないからね。今日初めてましろのだって見たばかりだもの」口が滑った。
「あんなに一緒にお風呂入ってて今日初めて?壮太さん可哀想」アクルックスはそう言った。ドアをものすごく強くドンドン叩く音がした。ましろだきっと。
もう目にタオルを巻いたので見えないけど全裸のアクルックスが目の前にと思うとナニがもたない。とうとうましろがドアを叩き割って入って来た。
けれどアクルックスはそのまま風呂場に入って行った。タオルを巻いていたので推定無罪判断されましろには許されたようだった。そしてリビングに戻った。
「お姉ちゃんもましろもめんどくさいね。もうわたしにしちゃう?」アークトゥルスが平然と言った。
怖い顔のましろと不敵な顔のアークトゥルスに挟まれ第二次我が家戦争の匂いがした。
奥多摩で轟音と共に5kmにも及ぶ円形の穴が出来たというニュースが速報で入った。ましろたちは直前に察知して気付いていた。
「なにかなこれ」お茶を飲みながら皆に聞いた。
「アンドロイドでもこれできるよ」アークトゥルスがココアを啜りながら言った。
間もなくして社長からも問い合わせの連絡が入ったが調査中ですと言って話を切った。
「アンドロイドだとしても味方か敵かそれが大事だね」ましろは実感込めて言った。
まだ居るかも知れないので行った方がいいと判断したので出撃命令を出した。我が家戦争もあるので敢えてアークトゥルスを残してましろ&アクルックスを現場に急行させた。




