④初デート
国連がアンドロイドの軍事利用を禁止するという方向で動いているらしい。と言っても残り二人のアンドロイドが行方不明なので現存する三人に指令できるのは俺だけなのだが。
余りにも強過ぎるのでこの案は正しい。国連は菓子折り持って我が家に来るべきだと思った。
ただ強い国が弱い国を一方的に叩いたり占領するのはいかがかと思う。目に余ればアンドロイドを出動させ戦力均衡させられないかとも思う。しかしこのことはあまり考えたくはなかった。ましろを道具みたいに使うのはもうやめたいんだ。
ふと思った。もし残りの二人を俺のように同じ人物が掌握していた場合のことを。彼女たちを殺し合いさせたくはなかった。平和的な人間だったらと思った。
「ましろ、今度デートしないか。ましろが行きたい場所でいい」ましろはしばらくデートの意味を考えていた。そして壮太の行きたい場所がいいと答えた。
「わかった。行く場所は考えておくけどこれはデートだからね」俺は念を押した。
デートと言っても一緒に住んでいるから自宅から一緒である。待ち合わせでのわくわく感は味わえない。
それでも前にプールに行った時とは違い最初からデートと伝えてあるので初デートだ。嬉しさが違った。
東京に行こう。最近行ってない懐かしの都市へ。今は日本ではなく東京国なので検問がある。渋滞するとせっかくのデートが台無しなので通過予定時刻を伝え、検問所を開けといてもらえるように社長に伝えた。
『歓迎 英雄凱旋 ましろ&谷川壮太』の大きな垂れ幕が掛かっていた。
言わなきゃ良かったと激しく後悔したが後の祭りだった。都内のどこに行ってもこの垂れ幕があり落ち着かなかった。
ましろはよく分かってないようで沿道の観衆に手を振っていた。どこに行ってもサインを求められた。正直言って意外だった。東京独立を都民全員が支持していたとは思えないからだ。むしろ反対のが多かったと思う。
恐らく日本が新しく出来た東京国に攻めてきた時ましろとアークトゥルスが撃退したからだろう。するとどういう訳か首都の新宿にある首相官邸に行くことになった。
首相に挨拶し握手を求められた。なんかのスポーツのスターになった気分だ。
続いて副首相の社長に挨拶した。
「全然来てくださらないから見捨てられたと思っていましたよ」冗談交じりに言う社長は嬉しそうだ。
前にいがみ合ってた時とは雰囲気がまるで違った。
「そう言えば日本に住んでちゃまずいかな俺とましろは。東京と日本を切り離しちゃったんだし」
「こちらに来られるなら最高の物件をご用意いたします。それよりもあなた方が約束をきちんと守り日本から守ってくださったから今の東京がある。どれほど感謝しても足りません」社長は目頭を押さえた。信念を持っていたからこその対立だったのかなと当時を思い出していた。
「ところでお二人はそろそろゴールされる頃ですかね。絆は深いようですし」と言われ顔が赤くなった。
「実は今日が初デートなんです!」俺は大声で叫んだ。
社長は貸し切りにできるデートに合う施設を思い浮かべたが復興中で難しいと言う。貸し切りとかそういうのいいので普通にデートをと言いかけたところで温泉ならどうでしょうと社長が提案してきた。
「日本と切り離されたため出国しないと温泉の旅が出来なくなりました。そこで戦争被害が酷かった天王洲アイルに宿泊施設完備の温泉街を大急ぎで作らせました」社長はそう言うと返事を待たず予約を入れてくれた。
ここに来ても例の垂れ幕が掛かっていた。そして部屋に案内されて少し昼寝をした。当然ましろは俺にくっついている。
食事前に温泉に行こうということになった。そしたら大きな風呂が専用貸し切りになっていた。東京湾を眺める露天風呂だった。ここまではいいのだが問題は混浴だけだったことだ。
「混浴しかないから帰ろうかましろ」と言ったらましろはもう脱衣場に入って行った。ここで逃げたらデートが台無しとばかりの勢いで俺も付いて行った。景色はよい。素晴らしい温泉で社長の発想は凄いな。とか思ったがそれどころではない。
裸のましろが横に居るのだ。
毎日一緒に暮らしてるのに我慢して見てない。会った初日に見た気がするけど全く記憶にないましろの裸が横を向けば見える。ちょっとぐらいならと思い横を見たらましろは洗い場に行ってしまった後だった。
一緒に温泉入ることになんの躊躇もないしやっぱりましろにとって俺は完全に安全な男扱いなんだなと思ったら涙が本当に出て来た。
温泉を出て食事処に行く通路にましろのポスターがあった。ましろはほんとうに可愛くて不釣り合いな恋だったなと過去形にした。
そう思うと屋上の展望広場に行くのも気が楽になった。復興中の東京湾の灯りが見える。あっちは新大橋、あそこでましろと出会った。
このデートを最後の想い出にしようと思った。ましろ係を社長に探してもらって同居解消。それが一番いいんだ。そんなことを考えていたら口を暖かいものが塞いだ。考えるまでもなくましろの唇だった。ましろが何度も求めてくるので幾度も唇を重ねた。
湯疲れしたのか布団に入るとましろはすぐに寝てしまった。けど手は俺の浴衣を握っていた。
デートの数日後俺とましろは東京国に移住した。住居は社長が言っていた通り新宿に出来た新築タワーマンションの三十階だった。もともと荷物が少ない二人だったので引っ越しは簡単だった。
「ましろ、せっかく社長が用意してくれた部屋なんだしベランダに行こう」、俺はそう言ってましろの手を引いてベランダに出た。
復興中の東京の街灯りが見えた。ここより高い場所はいくらでもあるがましろと見れる幸せの高度はここが一番だった。
「初めて言うけどましろを愛してる」ましろは頷いた。二人は黙って何度もキスをした。
翌日一人で社長の家を訪ねた。「仕事ないですかね」、開口一番俺は言った。
「谷川くんに合う職というのはちょっと思いつかないですね。政治と言うのはお嫌いでしょうし、大学進学はお辞めになったんですよね」、俺は頷いた。
「治安維持とかどうでしょうか。戦争の混乱の中で中華系マフィアが闊歩しています。もともとここ新宿は治安が悪かったのですがさらに手が付けられなくなりました」
警察の仕事じゃないですかと尋ねると新政府ではまだいろいろな省庁がちゃんと機能していないんですとのことだった。
マフィアくらいましろが居れば秒で殲滅出来るがもうそう言うのはやらせたくない。なら俺が代わりにやってもいいんじゃないかと思えたので詳しく話を聞くことにした。
「ましろ、喧嘩のコツってあるかな」唐突の質問に?な顔をしたましろだった。
「いや、ましろは強いから強くなる方法知ってるかなって、でも聞く人間違えた。他を当たるよ」
そもそもましろに聞くことでは絶対に無かった。するとましろは自分の部屋から短銃を持ってきた。
「これがあれば敵に攻撃できるし防御力も戦車の砲弾くらいならびくともしないよ」と物騒なアイテムを手渡された。やはり最強のアンドロイドなんだなと再認識させられた。
「今度から治安維持作戦部隊の仕事やろうかと思っててね。こういうのあると助かる。ありがとう」
と言いましろの頭を撫でた。
「どこに集まるのか楽しみだなあ」ましろはやる気満々だった。
寂しがりの屋ましろをこの家で一人にできるはずがない。なら同じ職場がいいと思った。
ましろが東京に移住した頃、アークトゥルスとアクルックスも東京に移住した。偶然の一致ではなくましろに呼ばれたのだった。
このことが世界に知れ渡ると各国は一斉に東京を警戒した。
「軍事力バランスブレーカーに我が国はなりましてね。ありがたいですが反東京運動も起こってるのです」と苦い表情で社長は言った。
「それは知ってましたが万が一あの姉妹が俺の手を離れた時のことを考えたらこうなりました」
兵器として暴れてしまったことで彼女たちは人間ではなくなった。誰も人間としてのましろを知ろうとはしない。一部では人気あるが。
「あの子たちは少女です。人間です。今更それをアピールさせる気は毛頭ないですが社長はそれを知っといてくださいね。あの時の目付きの悪い男はアークトゥルスに裏切られました。兵器が裏切ったりする訳はないのですから」
三人の身元引受人のような立場で俺は語ってみた。
こうなったのは主にアクルックスのせいだ。妹を奪われた怒りで暴れまわり人々を殺した。だが拉致を計画したのは人間だった。どっちが悪いかの判断は誰にも出来ないはずだ。
唐突にまだ見ぬアンドロイドのことを想った。余りにも純粋で順従で寂しがりな彼女たちの仲間だ。こうしてる間にも人知れず泣いているかもしれないのだから。
「世界が受け入れてくれないなら世界を滅ぼしてもいいんじゃないかって俺は思います」小声で俺は言った。
真夜中に社長からtelがあった。
『SLBM』が我が国に迫っている。当軍では迎撃不可なり!迎撃を求む。
ただならぬ緊張感だった。ましろは既に気付いておりベランダから手を振りながら出撃、アクルックス姉妹も続いた。
飛翔するミサイルを三人のシールドで捕獲、後の処理に悩んでいたので出来る限り高いところまで打ち上げ爆破するよう指示した。
「社長、迎撃爆破はしました。ただこのSLBMはましろたちに放ったも同然です。放った国には厳罰を求めます」
「放った国は既に分かっています。ですが残念ながら今は言えません。どうかお怒りを収められてください」社長は焦燥していた。
TVや新聞には国を救った英雄として三人がミサイルを迎撃する様を報じた。同時に彼らが居る限りまた同じ目に遭うという論調も少なくなかった。
「社長、彼女たちに存在して欲しくない国民が大勢いるようですね。自衛手段が私たちにはあります」と吐き捨てて社長宅を後にした。
ましろたち三人も同席したのだが俺の余りに激しい怒りに皆動揺していた。何が良くて何が悪いかははっきりと区別はできない。だが一生懸命にこの国のために頑張った彼女たちを堂々と非難する人々だけははっきりと悪と認定だ。俺の中では。




