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②アクルックス

今日はアルバイトを始める日だった。昨日のこともあったのでましろにも付いてくるように行った。

仕事は主に資料整理だが難しいものではなかったのでわりとすぐに覚えた。その中に見たことない改造アンドロイドを見掛けた。ましろに似ているが別人であることはわかった。


「その子が私の孫ですよ」社長はにこやかに笑った。他にも二人まではblack parade部隊で確認されていますと社長は言った。ましろに仲間がいることは嬉しかった。だが喧嘩とかしないのだろうか。昨夜はアンドロイド女王に切り掛かる勢いだったし。


「あれは大丈夫ですよ。君を守るため女王に挑んだんですが女王はそれを察して退いてくれましたから。あ、それから女王には名前があります。アクルックスと我々は呼んでいます」社長はそう言った。


俺を守るためだったのか。助けたお礼なんだろうか。それにしてもアクルックス、南十字座で一番明るい星で連星でもある。俺が独り言をつぶやいていると社長はよくご存じですねと笑った。連星... アクルックスは二体と言うことですかと社長に尋ねると彼は頷いた。


「もっとも二体同時に我が国で姿を現したことはないのです。我が国に来る前に二体で飛行してるところを米国偵察衛星が捉えていました」社長はそう答えた。関係ないのですがましろの分もお昼ごはん出ますか。それとも自腹ですかと聞くと二人分アルバイト代を出すと言う。ただし一人あたり契約より少し下げますと言われた。ましろは文字が読めず何もできないのでマスコット的な存在だった。


アクルックスにましろ攻撃の意志がないことを確認出来て嬉しかった。戦って負けるところは見たくなかったから。じゃあ何故アクルックスは東京を攻撃しているのか。本当に日本の敵なのか分からなくなった。


アルバイトを終え二人で俺の家がある西葛西に向かった。バイト代が良いのでローンを組んで車も買ったので明日引き取りに行く予定だ。

家の間取りは1DKだが広さはこれで充分だ。二人分の布団は敷ける。と思っていたのだが同じ布団で寝ようとするましろだった。あっちにも布団があると伝えてもダメだった。最初に見た人間を親と思う雛鳥のようなものなのだろうか。ましろは俺にものすごく懐いていた。


翌日は休みだった。車を引き取るとドライブをした。買った車はRX‐8だった。やたらと燃費が悪いが乗って見たかったから。戦闘の無い千葉方面に車を走らせ稲毛海岸あたりで止めた。海浜公園を散歩したのだがましろはプールに異様な関心を示していた。水着ないからダメと言っても聞かないのでレンタル水着で二人で入ることにした。


プール入口で待っているとましろが来た。レンタルの地味な青い水着でも目立ってかわいかった。連れて歩いてることで周りの男どもが俺の顔を見てゆく。優越感に最初感動していたがそもそもましろは俺の彼女ではないので後でがっかりした。それでも一緒に泳いだり椅子に腰かけてジュースを飲んだり充分楽しめた。

帰りの車の中でましろは疲れて寝てしまった。知らない男に連れ去られ生活するのはさぞ大変だったろう。この子をアクルックスの元に帰したほうが幸せだろうかとふと思った。無敵の女王軍に居た方が安全だろう。俺は守られるだけでこの子を守れない。


「何を馬鹿なこと言ってるんですか谷川くん。あなたを守ることがましろくんの使命なんです。それを奪わないであげてください」と社長に説教された。


「じゃあそれまでのましろはどうだったって言うんですか。他に守る人が居たんですか」と聞いてみた。

「彼女は新大橋で怪我を負ってますよね。ましろくんの本来の力ならあり得ないことです。概ねすることがないので退屈して着替えの途中に敵襲にあって傷を負ったんでしょうね」ましろの怪我はしょうもない理由だった。確かにアクルックスと対峙できる彼女が我々雑魚チームの奇襲で怪我を負うのは不自然だった。


「主人を見つけた彼女にとって今は幸せな時です。ましろくんを彼女にしてあげたらもっと喜ぶよ谷川くん」社長が俺に畳みかけてきた。

すごく真剣に考えた末それはないですと社長に言った。

「ましろが俺にやさしいのは使命感からで恋愛感情じゃない。流石にそれは虚しいですよ」本心だった。


仕事を終えたので燃費の悪いスポーツカーで家に戻った。社長のへんな言葉のせいでシャワーを浴びているましろのことを凄く意識してしまう。最初に会った時にアンドロイドだと思って気軽に裸にしたことを思い出そうとしたが流石に覚えていなかった。


今覗けば見れるぞと悪魔が囁くがなんとか黙らせた。

「ましろって好きな人とか居ないの」と食事中さりげなく聞くと笑顔でこっちを指さしてきた。無邪気でかわいいがそれは残酷なんだよましろ。恋愛感情と言うのはもう少し恥じらいとかあるんだよ。

俺はシャワーを浴びるとすぐに布団に潜り込んだ。ましろも入ってきたが俺が喋らないので少し悲しそうだった。


この日の戦闘はいつもと違った。アクルックスが暴れて都庁を破壊してしまった。殆どの職員は事前避難勧告で居なかったが民間人に犠牲が出たのだ。その後も多くの部隊を攻撃し軍に大きな被害が出た。このまま行くと新宿ビル群が全滅しそうなので政府は大規模な攻勢に出るという。


通常部隊やミサイルが効かないということで核の使用も考えられた。ましろはおろおろしながら戦況をTVで見ていたがアクルックスに挑んでみるという。馬鹿な考えはやめなさいと言いたかったが止められるのはましろしか現状居ないのも確かだった。


「説得だけだ。もしアクルックスの怒りが止まらなかったら撤退できるか。出来ないなら絶交だ」俺は無慈悲なことを言った。


首都高が寸断されているので凸凹な一般道で新宿に向かった。ましろだけなら飛んですぐだが認めなかった。やがて新宿西口タワー群が目に入ってきた。ましろにさっき言ったことを守るよう伝え行かせた。

目と髪が蒼くなり覚醒ましろのお出ましだ。ウィングを広げ一気にアクルックスに迫った。しかしこの間のようにはやはり行かなかった。アクルックスの怒りはかなり大きいようだった。


「ましろ戻って来い。策があるから俺を連れて行ってくれ」ましろは悩んだあと急降下してきた。そして俺を乗せアクルックスの前に再び立った。受け入れられなかったら今度こそ帰還するとましろに念を押した


「初めまして。俺は谷川壮太といいます。この間目が合いましたね」まず大事な挨拶をした。

「あなたの怒りは姉か妹の所在のことなのでしょう。この東京に攻め入ったのもそのことと関係があるはず。一月以内にあなたの元にお返ししますからこの場は収めていただけないだろうか」しばらく考えましろの顔を見てから彼女は撤退した。私の姿はアクルックスとましろの蒼いオーラに包まれ見えない。


ましろとアクルックスの対峙は二度目だがこの間は場所のせいもあり一部でニュースになっただけだった。だが今度はBlack Paradeを引き連れて新宿で起こったことなので大きくマスコミにも取り上げられた。ましろの姿は覚醒時と普段着とではまるで違うのでわからないのが救いだった。


交渉後ましろはえらくご満悦だった。壮太スゴイを連発していた。だが問題はこれからだ。無敵のアクルックスの姉妹をどうやって捉えて何処に隠したか、難問すぎた。姉妹問題ということはバイト先の資料でわかっていた。最後に姉妹飛行が確認された後すぐにアクルックスは都内侵攻を始めたのだ。今も姉妹が居ないと言うことで証明になる。


「社長、東京都はどこに隠したんですかねアクルックスの姉か妹を」直接社長にぶつけてみた。なんだそんなことかという表情で社長は淡々と答えた。


「大深度地下より遥か深いところがあるんです東京には。謎の公共投資を追ったら大手ゼネコンが白状したんですよ。そこに捉われてると考えられます」それだけ聞けたらいいですと会話を打ち切った。


「谷川くん、人には分不相応と言うものがあります。アクルックスを一時的にでも止めたという功績で満足することはできないかね」上から社長が言った。

「謎の公共投資ですか。都合のいい言い回しで公務員ばればれですよ社長。死者数は少ないとはいえ戦争を引き起こした東京都を許すわけにはいかない。独立国家構想のためにアクルックスの片割れを使うのはやめなさい」今度は社長は上からではなく対等に対話をしてきた。

「この国は衰退し過ぎました。立て直しのためには東京以外を切り離すしかない。それはいけないことかね」


「それについては国際戦略家みたいな方とお話しをしてください。ただ言えるのはアクルックスを巻き込むのはやめなさい。あれは順従な存在ですよ」もう核心は突いてしまったので本音を言った。


「君を巻き込めばましろくんも手に入ると思ったので本当に残念です」

あのバイトのチラシは俺の家だけに入っていたと思われる。ましろと暮らしはじめた直後でタイミングが良過ぎた。


「もし今すぐ解放してくれたらましろの社長への協力は考えます。良い落としどころだと思うのですが。ただしましろの仲間少なくとも二人には協力してもらうことが条件ですが」俺は言った。

「流石のIQ150だね。しかも学習障害はない。その案で進めてみよう」お茶を出しながら社長は言った。

ましろを私有物にし過ぎかも知れない。ただ温厚なアンドロイドたちなら世界すら変えられそうな気がした。これは自分だけで決めていいことではない。ましろの意志が一番大事だ。


「ソウタのイウことにシタガウヨ」ましろの同意を得た。それでも言っておかなくては

ましろが幸せになる計画になることが絶対条件です。東京や日本がどうなるかなんて知らない。そうでないなら必ずBlack Paradeが全ての計画をぶち壊します。






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