EXTRA EPISODE 3 蒼き焔
幼いましろが転んで膝を擦りむいて泣いていた。俺は駆け寄り彼女を水道に連れていき怪我した個所を丁寧に洗ってあげベンチに座らせた。痛みが引いてきたましろはゆっくりと眠ってしまったので、起きるまでベンチに横たわる彼女を抱きしめていた。
「存在するはずのない記憶?」
そんなことを思いながら幼いましろとの出来事が夢には思えなかった。
ベッドから起きると身支度を簡単にして、食堂に向かった。
ポルックスと更紗が作った目玉焼きとソーセージ、それとフレンチトーストが丁寧に人数分綺麗に置かれていた。
だがそこにましろの姿はなかった。敵情視察のために早朝に出かけたという。
ましろの帰りを待っているとお昼過ぎに彼女は帰投した。
「おかえりましろ、でも大きな戦闘の後だし無理はしないほうがいいと思う」
そういうと彼女は頷きながら気を付けますとだけ言って自室に籠ってしまった。
ましろが明らかにおかしい。
先日のアークトゥルスに自分を任せるような発言に今日のそっけない態度。以前は俺をめぐってアクルックスを殺しかけた時とはまるで違う。嫌すぎる予感が脳裏をよぎった。
ましろは自身の寿命が近いことを感じ取っているのではないのか?
「ん、わたしたちの寿命のこと?それは人間と同じなんじゃない。遺伝子構成の99%が人類ってことが判明してるんだろ?」
アークトゥルスはそう答えた。
確かにそうだ。彼女たち戦闘アンドロイドは完全に人間で、機械でもアンドロイドとも本当は違うからだ。
ただましろの異常な戦闘時の出力を思い出した。恒星に例えると強く青く輝く星は非常に短命だ。蒼い焔と目の輝きをを放つましろとどうしても重ねてしまう。
「アクルックス、俺だ入っていいか」
彼女の部屋をノックするとすぐに鍵を開けてくれたのでちょっと話をしたいと伝えた。
「出会ってからそれほど経ってないけど随分想い出があるな俺たち」
そういうと彼女は微笑んで頷いた。
戦闘と戦争、信じられないほどの修羅場をくぐり抜けてきた。俺は即死に近い攻撃を受けながら彼女たちに助けられた。
「もうやめよう戦闘を、完全に戦闘意思がないことを全世界に向けて発信して」
彼女は困惑した。無理もない、彼女たちは世界最強の戦闘アンドロイドなのだ。それにこれまで破壊した都市、殺された人々の親族はそれを許すまい。
「理解してくれない人々は仕方がない。専守防衛のスタイルでできるだけ殺さないように撃退する。お前たちの力なら可能だろう?」
アクルックスは少し考えてから小さく頷いた。
ポルックスと更紗、アークトゥルスにも同様の話をして納得してもらった。
ただしましろにはまだこのことは言わないように皆に厳命した。恐らく全力で拒むだろうから。ただ彼女たちは主人には逆らえない。俺が必ず説得するのだ。
「壮太ぁ~、温泉出たからジャグジーに使おうぜ」
アークトゥルスが満面の笑みでそう言った。
彼女たちのパワーなら温泉を掘るなど朝飯前なのだ。それでロシア軍の工事部にそのことを伝え配管工事をお願いした。
「壮太、幸せにするから永遠に一緒に暮らそう」
アークトゥルスは後ろから抱き付いて甘い声でそう囁いた。
「うん、そうだな」
ましろの望みなのだ。断る理由はなかった。
「なんかまた来るみたいだな。撃退してくる」
アークトゥルスがそういうとみな戦闘服に身を包んだ。
「ましろは待機、ここで戦況を見守ろう」
え、という顔をしたましろだったが渋々言うことに従った。
「ましろさんが居ないのは残念ですが皆言われた通り頑張りましょう」
ポルックスは皆にそう言った。
更紗とアクルックスがシールドを張り敵の侵入を食い止め、ポルックスの重力波とアークトゥルスの打撃で応戦した。できるだけ殺さないように出力を抑えながら。
「全力でやれない分大変だな。でもあいつの言ったことは守る」
アークトゥルスは攻撃をボディーブローだけに抑えた。
ポルックスも徒手と重力波微弱を上空から敵アンドロイドたちに放っていた。
「誰も殺してないですね。二人ともお疲れ様」
アクルックスは帰投後二人を労った。
「よし、完成した温泉ジャグジーに入って疲れを取るぞ」
アークトゥルスはそう言って俺をひょいと抱え荷物のように風呂場に連れていった。
脱衣場に着くと以前とは違い恥じらいなくスーツを脱ぐアークトゥルス、あっという間に全裸になって俺の手を引きジャグジーに向かった。
「勘違いするなよ、これでも恥ずかしいんだぞ」
言葉通り彼女の顔は真っ赤だった。
「もう婚約者同士みたいなものだから当たり前だと思ったんだ」
アークトゥルス目は逸らしても裸体はもう隠さなかった。
「嬉しいよアークトゥルス、幸せになろうな」
そう言って抱き合ってキスをした。
「もっと強く揉んでいいぞ。その方が気持ちいい」
小ぶりな乳房を後ろから揉んでいるとアークトゥルスがそう言った。
「うん、痛かったら言えよ」
小さく彼女は頷くと快感に小さく喘ぎ声を出した。
「もう寸止めしなくてもいいんだぞ?それとも...」
ましろの名前を出そうとしたがアークトゥルスはそれ以上何も言わなかった。
蒼い焔を纏ったましろが基地の外で夜空を眺めていた。
その様子を見てアクルックスは戦慄した。
以前自身が対決した時か、それ以上の巨大なオーラをましろは放っていたのだ。
その姿は神々しさもあり、絶望を思わせる恐怖をたたえていた。
「ポルックス、4人で力を合わせればましろを抑え込めるか」
そう質問すると大きく首を横に振った。
アークトゥルスは白い焔を放ちましろを強く睨みつけた。




