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Vol.1

 受験以来初めてくぐった校門をゆっくり歩いていくと、クラス編成の張り紙が昇降口の前に張り出されていた。

 風で桜が舞い散る中、おそらく1番乗りで張り紙の前に立ったこの学校の新入生らしき男子高生がのんびりとその張り紙を見渡した。

「ふーん5組か……あれ、俺1人じゃん……同じ中学のヤツ、誰もいないのか……」

 別に誰に話しかけるわけでもなく彼はおっとりと呟いた。

 彼の名前は小田佳佑おだけいすけ

 今日からこの高校の生徒になる。

 どうやら佳佑がお世話になる組は5組で、同じ中学からきたメンバーは全員クラスが違うらしい。

 だが特にがっかりする様子はなかった。

 佳佑はすぐそばにあった昇降口のドアを開けると、手にしていた上履きを床にそっと置いて靴から履き替えた。

 下駄箱に靴を入れて悠々と教室へ向かった。

 ガラガラと音を立てながらドアを開け、真ん中の窓側の席に荷物を置いた。

 そして「せっかくいい天気なんだから」と窓を開けた。

 からからと窓を開ける音を聞きながら佳佑は大きく伸びをした。

「おーいい天気だ……」

 そうまたつぶやいて陽の眩しさに手をかざした。


 佳佑が教室の窓を開けている頃。

 昇降口の前で1人の男が立っていた。

「俺の名前はどこだ……俺の名前俺の名前……」

 まるで呪文のようにぶつぶつ言いながら、彼はポケットに手を突っ込み左から右へ上から下へと目を流した。

「お、5組ね。……なんだよ、誰もいねーのかよ……」

 ちっ、と舌打ちをして恨めしそうにもう一度自分の名前と組を見上げた。

 彼の名は福原理ふくはらおさむ

 どうやら彼も同じ中学から来た人とはクラスが離れてしまったらしい。

「……さてと、一番乗りで教室に行きましょうかね」

 機嫌を直してそう言うと理は昇降口のドアを勢いよく開け、歩きながらバッグをがさがさ動かして上履きを1つずつぽいぽいと床に落とした。

 しかしどうも落とし方が悪かったようで上履きの片方は横に向いてしまった。

 靴を下駄箱に入れた後上履きを見て、

「ったくよー、おまえまで俺の不運を喜ぶな」

 理は上履きにそう文句をつけて足で元に戻すと、無事に履き替えて教室に歩き出した。

 廊下はシーンと静まり返り、人の気配は全く感じられない。

――ふふふふ、いいなぁ誰もいないのって。

 1人で微笑んでしまいながら廊下を歩き続けた。

 そして……ほどなくして教室に着いた。

――よーし。

 理は手を掛け勢いよく右から左へドアを開け放った。

「よーしいっち……」

 よーし1番乗りぃ!と言うはずだったのに――言葉が出なかった。

 というのも先客がいたからだ。

 いや、それだけじゃない。

 開いた窓に少しだけ身を乗り出して太陽の光に向かって顔を上げ、かすかに笑みを浮かべて目を閉じて静かに立っている男に目を奪われたからだった。

 別に変な趣味はないのだが、なんというか目が離せない。

 柔らかくて優しくて――でも、女が持つものとは全く違う綺麗さがあって。

「……悪いね、1番乗りは俺だった」

 理の騒々しい物音に気がついた彼は理に振り向くとそう笑いかけた。

「名前は?」

「……え?」

 いきなり名乗れと言われた佳佑は驚きが大きくてつい聞き返した。

「だから、おまえの名前……あ、そうか、俺が言ってないのにおまえに言えっていうのは失礼だよな」

 そうだそうだと1人で自己解決しながら、理はドアを閉めると教室の中へと入っていった。

 そして佳佑が荷物を置いた隣の席に自分の荷物を置いた。

「初めまして福原理と申します、以後お見知りおきを」

 福原理と名乗ったその彼は佳佑の後ろに立つと、右手をすっと差し出した。

「小田佳佑と申します。同じ中学出身者がこのクラスにいなくてちょうど困ってました。よかったら仲良くしてやってください。よろしく」

 いったい何の挨拶だと思いながらも、佳佑は振り返って理の手を取るとブンッ、と上下に振った。

「え、マジで?!いやぁ俺もさぁ、このクラスに同じ中学から来てるの誰もいなくてどうすっかなーって思ってたんだよね」

 いやー助かったかも、と理はニコニコ笑って佳佑の手をぶんぶんぶん、と上下に振った。

――なんだろうなぁこの感じ、すごい引き寄せられる。

 まだ会って3分も経っていないのに、理がもう何年も前から知っているような感覚に佳佑は襲われていた。

 評価していいなら理のルックスはイイか悪いかで言ったらイイ――それも人によっては「かなり」をつけるだろう。

 だけどこの人懐っこさとなんとなく感じる求心力というか人を惹きつける力は、決して外見のよさだけで備わっているわけではないと思った。

 正直クラス編成の紙を見たときは、顔には出なかったが「知っている人が誰もいない」とかなり不安を感じていた。

 けれど理のおかげでそれは払拭できた気がしていた。

――『早起きは3文の得』っていうけど、ホントだ。

 今は佳佑から手をはなして窓から手を伸ばし「桜の花びらすげぇな」と楽しそうな理の隣に佳佑も立って「花びら拾えるかな」と一緒になって手を伸ばした。


 佳佑と理の物語はここから始まろうとしていた――。

 前作品からお越しの方はお久しぶりです。

 今作品からお越しの方はようこそ、愛梨です。


 さて、2nd Season、始めさせていただきました。


 これは前作「こんな恋の話」のスピンオフ第1弾です。

 今回は佳佑と理の2人のダブル主演でお送りします。

 とはいっても、どっちかというと佳佑の方が主人公です。

 というのも……それだけなかなか佳佑は「めでたしめでたし」にならないからです(汗)。


 今回は前作も読んでくださった方にとっては『佳佑の過去』と優太に佳佑が漏らした『理の壮絶な過去』がかなり具体的に解明されていく話にしています。

 一方、今作品から読んでくださる方には基本前作「こんな恋の話」を知らなくても話がわかるようにはしてますが、多分「ちょっと、じゃあ前はどうだったのよ?」って気になる内容にしてます(笑)。


 また、今回は書き方のスタンスを変えてチャレンジしようと思います。

 前はどっちかというとラブコメに近かったですけど今回はそういうのナシでいきます。

 それから今回はたまにですが残酷な描写や官能的描写も入ります。

 そのときは前書きでお知らせしますが……まぁ、たまーになのと、普段はそういうのは避けている人でも読めるようななるべくキレイというかそんな描写を心がけようと思ってますので警告タグはしませんでした。

 普通にテレビで放映できる範囲の内容にします……ということです(笑)。


 さてと。

 今回は佳佑と理の出会いでお送りしました。

 よく考えたら前作って友情の始まりをちゃんと書いたのって優太と聖だけなんだよなぁ……って思ったら書きたくなっちゃって書いちゃいました(苦笑)。

 それでは次回はさっそく佳佑と理、それぞれの姫様を大公開しちゃいます!

 楽しみにしててください。


 ということで、またです。

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