表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1 心は雨予報

1話の登場人物

主人公→心結(みゆう)/少し茶色がかった髪色/ふわりとしたセミロング/O型/高校2年生

幼馴染→碧羽(あおば)/黒い髪/少し癖のあるショートカット/B型/高校2年生

親友→佐奈(さな)/黒い髪/上の方がハネているショートヘア/AB型/高校2年生

+1名


ここから10話で完結させます。(と言っておくと長々と書くことがなくなると思うので)

2024/3/10

10話ではなく4話で完結します。

 ああ――空は何故こんなにも青く澄んでいるのだろう。私の心情とは、まるっきり反対じゃないか。

 昔国語でやった「情景描写」についての記憶が一斉に蘇る。

 確か辞書で引いたな。「特定の場面の光景、有様等に関する具体的記述」とかだっけ。先生が何度も、「ここは、落ち込んだA君の心情を、空模様によって表現しています。つまり、心情と景色の描写はリンクしているんです」と言っていたのが記憶に残っている。

――そんなのは絶対に嘘だ。だって、こんなに落ち込んでいても、空は、雲一つすら浮かんでいない快晴なんだもの。



「心結、また俯いて!そんな下ばっか見てても楽しくないでしょ?前を向こうよ」


 声をかけてくれたのは、親友の佐奈だ。とても明るくて陽気な女の子で、中学校で仲良くなり、同じ高校に進学したため、今でも付き合いは続いている。今日も、一緒に高校へ通学している。

 佐奈は、晴天に不相応な、俯く私を心配し励ましてくれた。

 はぁー。私がこんな能力を持っていなければ、どんなに幸せだっただろうか。


「佐奈、そこの曲がり角から車」

「わっ」


 予言通りに、ブロック塀の影から、赤い車が制限速度を大幅にオーバーし、通り過ぎていった。

 危ないことに、この道路は柿の木によって視界が塞がっている。しかも、車通りもそこそこに多い。

 今度こそ、柿の木を植えている家の人に講義しに行かなくては。


「ありがとう、心結!」


 佐奈は快晴に負けないくらい、無邪気に微笑んでいる。

 そっか、物語の中心は、私じゃない誰かなんだ。だから、私の感情は何の影響も与えない。


「...当然でしょ。(だって佐奈がいなくなったら、私は一生孤立しちゃうし)」



 私の悩みのタネはこれだ。――未来が視える。じっと見つめると、その見つめたものが、どんな未来を歩むことになるかが手に取るように分かる。道を見つめれば、その後通行する車や人が分かるし、空を見上げれば、いつ雨が降るかが分かる。人を見つめれば、何処で働いて、いつ死ぬのか。結婚はするのか、子供は居るのか。何だって分かってしまう。しかも、未来を視ている間は、私の周りの時間は進んでいないから、怪しがられることも、歩き続けて、電柱にぶつかることもない。

 一見すると、とても便利な能力に見えるだろうけれど、現実は甘くない。普通は分からない不幸でも、分かってしまうが故に、気を病んでしまうことがあるからだ。

 現に、私は今それに悩まされている。

 8年間片思いを続けた相手、幼馴染の碧羽とは、両思いであり、私が告白することで付き合い始める。25で結婚し、子供を2人授かる。ここまでは順調なのだが、ここから悪い方向へと向かい始める。簡潔に言うと、碧羽は死ぬ。私を暴走車両から守るために、自らを犠牲にするから。シングルマザーとなる私に、子供二人を養う力はなく、養子として、他の家庭に引き取ってもらうことになる。結果的に私は一人になり、孤立してしまうのだ。唯一味方になってくれるのは、親友である佐奈だけだ。そんな人生はできることなら、いや絶対に避けたい。



「心結、大丈夫?顔色悪そうだけど」


 いけない、つい癖で考え込んでしまった。親友とはいえ、こちらに気を使わせ過ぎてしまうのも憚られる。


「大丈夫。ちょっと考え事をしていただけ」


 できることならば、恋を、恋のままで終わらせなくても良い人生を生きたい。やっぱり、生まれ変わらないと運命は変わらないのかな。

 こんな具合に、深い絶望の淵に立たされた気分になるのだ。



********************



 気がつくと、もう高校の校舎の前に居た。


「おはよー」

「おはよう」


 挨拶が飛び交う。

 この高校の人たちには、みんな、幸せな未来が待っている。...私一人を除いて。

 人の手によって、未来は変わる。例えば、私と碧羽が付き合わなければ、碧羽が死ぬことはないし、彼は他に結婚相手を見つける。

 なんだか、胸が苦しいよ。


「おはよう、心結」


 この声は、碧羽だ。

 今は、私の前に来ないで。泣いちゃうから...


「ぐす...うう」

「どうした、心結!大丈夫か!?」


 分かってる。ここで泣いても、困らせてしまうだけだって。でも、ダムが決壊したかのように溢れ出す涙は、もう制御することはできなかった。

 空はやっぱり青く、曇りだしたり、雨が降る気配はない。

 私の思い通りになることなんてない。そんなことを宣告されているようで、無性に悲しかった。


「おーい碧羽。幼馴染ちゃん、泣かせてやんの」

「僕が泣かせたわけじゃない...と思うんだけど」


 碧羽の所為じゃないけど、碧羽が原因だ。

 アニメキャラのキーホルダーが揺れるスクールバッグを開き、ハンカチを取り出す。

 溢れ出す涙で大好きな、碧羽の顔は滲んでしまい、良く見えなかった。


「何か、ごめん」

「ううん、私が悪いの。こっちこそ、ごめんね...」


 碧羽は、そっと私に近づくと、耳元で囁く。


「...この後、なにか悪いことでも起こるのか?」


 私は、未来が視える。だけれど、その能力は周りに秘密にしている。だって、悪用されるかも知れないし、何より、偶然が積み重なっているだけかも知れないのだから。

 例外は碧羽だけだ。いつも親身になってくれて、頼りになる。そんな彼だから、私も勇気を出せたんだ。


「...うん。とっても悪いこと」

「そうか、じゃあ、僕から離れるな。そうしたら――」


 柔らかい微笑み。普段なら、「可愛い」と思えるその表情も、今だけは、勇ましく見える。


「いつだって、守ってやる」


 ああ、嬉しい。けれど、私が一番望んでいるのは、「碧羽が生きていること」なんだ。

 だから、もう、関わらないほうが良いんだ。


「ありがとう、でもごめん。もう、一緒にはいられない...!」


 涙を拭うと、その場から駆け出す。

 サヨナラ、私の初恋。



 私が居なくなった後の校門前での会話


「佐奈、もしかして僕、嫌われた?」

「どうだろ?でも声をかけるだけで泣かれるって相当...」

「...結構傷つくな、それ。昔から、ずっと一緒に居たのに」


 碧羽は、寂しそうに、心結の走り去っていった校舎を眺めていた。



********************



 やっちゃった...もう引き返せない。

 窓側の最後列の席で、突っ伏してしまう。心は冷たく沈んでいるのに、此処には、暖かい、陽気な日光が照りつけている。

 何も、あそこまで拒否らなくても、距離を縮めない方法はあったのに。

 傷つけちゃったかな。私って、最低な女。この空に溶けてなくなってしまいたい。


「居た、心結!」


 碧羽...私、あんなにひどいことしたのに。どうして?


「僕のこと嫌いになっちゃったなら、無理にとは言わないけど、一度ゆっくり話さない?」


 私はいつも、この優しさに甘えてしまうのだ。やっぱり、碧羽なしじゃ生きてけない。


「うん...」

「よかった」


 碧羽はほっと胸を撫で下ろしたのだった。



「この先、どんな事が起こるのか、教えてほしい。そうすれば、何か解決策を思いつくかも知れないから」


 先程の流れで、屋上までやってきた。通常、生徒の立ち入りは禁止なのだが、碧羽が生徒会長の権限を使って開放したようだ。職権濫用はやめてほしいのだが。


「残念だけど、碧羽にはどうすることもできないの」


 これは本当だ。だって、未来の碧羽が死ぬ間際に言い残した言葉を聞けば、よく分かる。



『無事か...良かった。僕はもう駄目だ。子どもたちをよろしく頼む』

『碧羽!お願い、私を置いてかないで!』


 そして、碧羽は最も美しい顔で笑う。


『僕は、心結、君が生きているだけで幸せなんだ。たとえ、()()()()()()()()()()()()()()


 その瞳は、強い決意の火を灯していた。



 私が何と言っても、身代わりになるのを辞めることはないだろう。 

 だから、()()()()()どうにかすることはできないんだ。


――つーっと一筋、流れ星が落ちた。

暗めな内容ですが、絶対にハッピーエンドで終わらせます!そっちの方が好きなので!


tx!:)

ありがとうございます(╹◡╹)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ