1 心は雨予報
1話の登場人物
主人公→心結/少し茶色がかった髪色/ふわりとしたセミロング/O型/高校2年生
幼馴染→碧羽/黒い髪/少し癖のあるショートカット/B型/高校2年生
親友→佐奈/黒い髪/上の方がハネているショートヘア/AB型/高校2年生
+1名
ここから10話で完結させます。(と言っておくと長々と書くことがなくなると思うので)
2024/3/10
10話ではなく4話で完結します。
ああ――空は何故こんなにも青く澄んでいるのだろう。私の心情とは、まるっきり反対じゃないか。
昔国語でやった「情景描写」についての記憶が一斉に蘇る。
確か辞書で引いたな。「特定の場面の光景、有様等に関する具体的記述」とかだっけ。先生が何度も、「ここは、落ち込んだA君の心情を、空模様によって表現しています。つまり、心情と景色の描写はリンクしているんです」と言っていたのが記憶に残っている。
――そんなのは絶対に嘘だ。だって、こんなに落ち込んでいても、空は、雲一つすら浮かんでいない快晴なんだもの。
「心結、また俯いて!そんな下ばっか見てても楽しくないでしょ?前を向こうよ」
声をかけてくれたのは、親友の佐奈だ。とても明るくて陽気な女の子で、中学校で仲良くなり、同じ高校に進学したため、今でも付き合いは続いている。今日も、一緒に高校へ通学している。
佐奈は、晴天に不相応な、俯く私を心配し励ましてくれた。
はぁー。私がこんな能力を持っていなければ、どんなに幸せだっただろうか。
「佐奈、そこの曲がり角から車」
「わっ」
予言通りに、ブロック塀の影から、赤い車が制限速度を大幅にオーバーし、通り過ぎていった。
危ないことに、この道路は柿の木によって視界が塞がっている。しかも、車通りもそこそこに多い。
今度こそ、柿の木を植えている家の人に講義しに行かなくては。
「ありがとう、心結!」
佐奈は快晴に負けないくらい、無邪気に微笑んでいる。
そっか、物語の中心は、私じゃない誰かなんだ。だから、私の感情は何の影響も与えない。
「...当然でしょ。(だって佐奈がいなくなったら、私は一生孤立しちゃうし)」
私の悩みのタネはこれだ。――未来が視える。じっと見つめると、その見つめたものが、どんな未来を歩むことになるかが手に取るように分かる。道を見つめれば、その後通行する車や人が分かるし、空を見上げれば、いつ雨が降るかが分かる。人を見つめれば、何処で働いて、いつ死ぬのか。結婚はするのか、子供は居るのか。何だって分かってしまう。しかも、未来を視ている間は、私の周りの時間は進んでいないから、怪しがられることも、歩き続けて、電柱にぶつかることもない。
一見すると、とても便利な能力に見えるだろうけれど、現実は甘くない。普通は分からない不幸でも、分かってしまうが故に、気を病んでしまうことがあるからだ。
現に、私は今それに悩まされている。
8年間片思いを続けた相手、幼馴染の碧羽とは、両思いであり、私が告白することで付き合い始める。25で結婚し、子供を2人授かる。ここまでは順調なのだが、ここから悪い方向へと向かい始める。簡潔に言うと、碧羽は死ぬ。私を暴走車両から守るために、自らを犠牲にするから。シングルマザーとなる私に、子供二人を養う力はなく、養子として、他の家庭に引き取ってもらうことになる。結果的に私は一人になり、孤立してしまうのだ。唯一味方になってくれるのは、親友である佐奈だけだ。そんな人生はできることなら、いや絶対に避けたい。
「心結、大丈夫?顔色悪そうだけど」
いけない、つい癖で考え込んでしまった。親友とはいえ、こちらに気を使わせ過ぎてしまうのも憚られる。
「大丈夫。ちょっと考え事をしていただけ」
できることならば、恋を、恋のままで終わらせなくても良い人生を生きたい。やっぱり、生まれ変わらないと運命は変わらないのかな。
こんな具合に、深い絶望の淵に立たされた気分になるのだ。
********************
気がつくと、もう高校の校舎の前に居た。
「おはよー」
「おはよう」
挨拶が飛び交う。
この高校の人たちには、みんな、幸せな未来が待っている。...私一人を除いて。
人の手によって、未来は変わる。例えば、私と碧羽が付き合わなければ、碧羽が死ぬことはないし、彼は他に結婚相手を見つける。
なんだか、胸が苦しいよ。
「おはよう、心結」
この声は、碧羽だ。
今は、私の前に来ないで。泣いちゃうから...
「ぐす...うう」
「どうした、心結!大丈夫か!?」
分かってる。ここで泣いても、困らせてしまうだけだって。でも、ダムが決壊したかのように溢れ出す涙は、もう制御することはできなかった。
空はやっぱり青く、曇りだしたり、雨が降る気配はない。
私の思い通りになることなんてない。そんなことを宣告されているようで、無性に悲しかった。
「おーい碧羽。幼馴染ちゃん、泣かせてやんの」
「僕が泣かせたわけじゃない...と思うんだけど」
碧羽の所為じゃないけど、碧羽が原因だ。
アニメキャラのキーホルダーが揺れるスクールバッグを開き、ハンカチを取り出す。
溢れ出す涙で大好きな、碧羽の顔は滲んでしまい、良く見えなかった。
「何か、ごめん」
「ううん、私が悪いの。こっちこそ、ごめんね...」
碧羽は、そっと私に近づくと、耳元で囁く。
「...この後、なにか悪いことでも起こるのか?」
私は、未来が視える。だけれど、その能力は周りに秘密にしている。だって、悪用されるかも知れないし、何より、偶然が積み重なっているだけかも知れないのだから。
例外は碧羽だけだ。いつも親身になってくれて、頼りになる。そんな彼だから、私も勇気を出せたんだ。
「...うん。とっても悪いこと」
「そうか、じゃあ、僕から離れるな。そうしたら――」
柔らかい微笑み。普段なら、「可愛い」と思えるその表情も、今だけは、勇ましく見える。
「いつだって、守ってやる」
ああ、嬉しい。けれど、私が一番望んでいるのは、「碧羽が生きていること」なんだ。
だから、もう、関わらないほうが良いんだ。
「ありがとう、でもごめん。もう、一緒にはいられない...!」
涙を拭うと、その場から駆け出す。
サヨナラ、私の初恋。
私が居なくなった後の校門前での会話
「佐奈、もしかして僕、嫌われた?」
「どうだろ?でも声をかけるだけで泣かれるって相当...」
「...結構傷つくな、それ。昔から、ずっと一緒に居たのに」
碧羽は、寂しそうに、心結の走り去っていった校舎を眺めていた。
********************
やっちゃった...もう引き返せない。
窓側の最後列の席で、突っ伏してしまう。心は冷たく沈んでいるのに、此処には、暖かい、陽気な日光が照りつけている。
何も、あそこまで拒否らなくても、距離を縮めない方法はあったのに。
傷つけちゃったかな。私って、最低な女。この空に溶けてなくなってしまいたい。
「居た、心結!」
碧羽...私、あんなにひどいことしたのに。どうして?
「僕のこと嫌いになっちゃったなら、無理にとは言わないけど、一度ゆっくり話さない?」
私はいつも、この優しさに甘えてしまうのだ。やっぱり、碧羽なしじゃ生きてけない。
「うん...」
「よかった」
碧羽はほっと胸を撫で下ろしたのだった。
「この先、どんな事が起こるのか、教えてほしい。そうすれば、何か解決策を思いつくかも知れないから」
先程の流れで、屋上までやってきた。通常、生徒の立ち入りは禁止なのだが、碧羽が生徒会長の権限を使って開放したようだ。職権濫用はやめてほしいのだが。
「残念だけど、碧羽にはどうすることもできないの」
これは本当だ。だって、未来の碧羽が死ぬ間際に言い残した言葉を聞けば、よく分かる。
『無事か...良かった。僕はもう駄目だ。子どもたちをよろしく頼む』
『碧羽!お願い、私を置いてかないで!』
そして、碧羽は最も美しい顔で笑う。
『僕は、心結、君が生きているだけで幸せなんだ。たとえ、僕が死ぬことになったとしても』
その瞳は、強い決意の火を灯していた。
私が何と言っても、身代わりになるのを辞めることはないだろう。
だから、碧羽自身がどうにかすることはできないんだ。
――つーっと一筋、流れ星が落ちた。
暗めな内容ですが、絶対にハッピーエンドで終わらせます!そっちの方が好きなので!
tx!:)
ありがとうございます(╹◡╹)