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8話:お嬢様は我が身を振り返って反省しております


 フィーリアの妹オウレリアの婚約者、カリオン・エウロ・カスティニアは現在十三歳。貴族学院に通う公爵家の次男である。


 現在考えている婚約者交換作戦は以下の通り。


 第二王子ラシオスをオウレリアに。そして、妹の婚約者カリオンをフィーリアに。相手が変わるだけで結び付く家は変わらない。これならば誰にも迷惑を掛けることなく婚約者を変えられる。


 しかし問題があった。


 第一に、ラシオスがフィーリアにベタ惚れであること。第二に、オウレリアとカリオンの仲が良いこと。


 現状に不満があるのはフィーリアだけ。

 簡単にトレードが成立するわけがない。


 そもそも、フィーリアはカリオン相手に恋が出来るのか。それが一番の問題でもある。


「ちょうどカリオン様がオウレリア様を訪ねてこられましたよ。午後のお茶をご一緒なさるんですよね」

「ええ、では参りましょう。カリオンと見事恋に落ちてみせますわ……!」


 眉間に皺を寄せ、険しい表情でフィーリアは席を立った。それはまるで歴戦の騎士が戦に赴く時のようであった……と後にエリルは語ったという。








「フィーリア姉様、お久しぶりでございます!」

「カリオン、よく来てくれました」


 応接室に入った途端、小柄な少年が席を立ってフィーリアを出迎えた。肩までの長さの艶やかな亜麻色の髪、くりくりと大きな青い瞳、色白な肌。華奢な身体に合わせて作られた服は彼の魅力を最大限に引き出す半ズボンにベスト、膝丈の靴下。


 この少年こそがオウレリアの婚約者カリオンである。年齢はふたつしか変わらないはずなのに、見た目も内面もやや幼い。公爵家の末っ子という立場ゆえに甘やかされて育ったからかもしれない。


「燃えるような恋のお相手には向かないのでは?」

「ギャップがあればドキッとするかもしれないでしょ。まだ分かんないわよ」


 部屋の片隅で控えながら、エリルとミントが周りに聞こえない程度の声で会話する。


「このお菓子、初めて一人で作ってみましたの。お口に合えば良いのですけど」


 オウレリアが恥ずかしそうに取り出したのは、クッキーだった。


「まあ、すごいわ。貴女が作ったの?」

「美味しそうだね」


 形はいびつでやや焦げてはいるが、愛情のこもった手作りの菓子である。

 高位貴族の令嬢が厨房に立つなど有り得ない話だが、これは婚約者であるカリオンを喜ばせたくて頑張った成果である。フィーリアとカリオンも彼女の気持ちを理解し、褒め称えた。


「手作り……」


 フィーリアは、ふと己のことを振り返った。

 自分はラシオスに何かしてあげたことはあっただろうか。もちろん誕生日や記念日の折に贈り物はしているが、選ぶのは出入りの商人任せ。添付するカードにひと言メッセージを書く程度。


 オウレリアのように、手間暇かけて何かを作ったことなどない。


──そんな妹から婚約者を奪おうだなんて


 フィーリアは反省しながら妹の手作りクッキーをひとつ手に取った。

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