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68話:ついに第2王子の秘密がバレました

 

「申し訳ございません、控えの間に忘れ物をしてしまいまして。すぐに取って参りますので少々お待ち下さい」


 隣の部屋で採寸を始めてしばらく経ってから、布地のサンプルを忘れた仕立て屋が慌てて取りに行った。


「ここで待つのも退屈だから、ラシオス様のお部屋に戻っていようかしら」

「そうですね。では、仕立て屋が戻り次第お呼びしますので、どうぞごゆっくり」

「ありがとう、エリル」


 時間が空けば少しでも一緒に居たいのだろう。二人きりにするため、エリルは隣室に残り、フィーリアだけが隣のラシオスの部屋へと行った。


「ラシオス様、……あら?」


 部屋へと戻ると、ラシオスの姿はなかった。お手洗いだろうか、と先ほどの席に座り直そうとして、フィーリアは違和感を覚えた。


 飲みかけのティーカップがない。

 口元を拭くために使ったナプキンもだ。


 席を外した際に侍女が下げたのかもしれない。しかし、同じく飲みかけのラシオスのカップはそのまま置かれている。それだけならともかく、椅子に掛けられていたレース製のカバーが無くなっていた。

 汚した訳でもないのに何故だろう、とフィーリアは首を傾げた。


 その時、何処かでカタッと小さな音がした。


 室内には誰もいない。

 ならば何処から?

 フィーリアは音の出所を探った。


 今いるのは広い部屋のリビング部分。応接セットや長椅子、暖炉などがある。出入り口とは違う場所に扉が二つあり、一つは寝室、もう一つは通常書斎として利用される部屋だ。


 婚約者とはいえ、無断で寝室の扉を開けることは憚られた。故に、フィーリアはもう一つの扉に手を掛けた。


 手入れが行き届いた扉は音もなくすんなりと開いた。フィーリアは一般的な書斎を想像していたが、どうも違う。室内には天井の高さまである飾り棚が幾つも並べられ、ガラス張りの棚には様々な品が綺麗に並べられていた。通路は狭く、入り組んだ飾り棚のせいで奥まで一望出来ない。


 ──何かのコレクションかしら?


 婚約してから十数年経つというのに趣味すら知らなかった。打ち解けた会話が出来るようになったのはつい最近なのだから無理もない。


 ここへはラシオスを探しに来た。フィーリアは飾られている品々をよく見ることはせず、狭い通路を通って奥を目指した。


 毛足の長い絨毯が足音を消している。一歩一歩踏み締めるように進むと、また小さな音が聞こえた。陶器同士が軽く当たったような音だ。


 やはり、奥に誰かいる。

 ラシオスに違いない。

 彼が何に興味を持っているのか。

 一人でどんな風に過ごしているのか。


 知りたい、とフィーリアは思ってしまった。


 衣擦れの音が鳴らぬようドレスの裾を少し持ち上げ、息を殺して忍び寄る。一番奥にある飾り棚のその後ろにラシオスの背中を見つけ、物陰から様子を窺う。


 ラシオスは机に向かって何かを書いているようだった。手元には小さなカード。フィーリアの位置からは何が書かれているかは見えない。机の上にティーカップとテーブルナプキン。それぞれ、先ほどまでフィーリアが使っていた品だ。


 カードへの記入を終えた後、ティーカップに手を伸ばす。中にはまだ飲みかけの紅茶が残っている。それを別のカップに移してから、ラシオスは紅茶を飲み始めた。


「???」


 その光景に、フィーリアは我が目を疑った。

 人の飲み掛けを口にするなど有り得ない。

 しかも、こんな部屋の奥で隠れるようにして。

 喉が乾いていたわけではない。

 表にはラシオスのお茶も残っていたのだから。


 なんだか怖くなって、フィーリアは後退った。見なかったふりをしてこの部屋から出よう。そう思って踵を返した。


 振り向いた先にあるガラス張りの棚。そこには統一感のない品物が並べられている。先ほどは単に通り過ぎただけで何が飾られているのか確認していなかった。


 もしや、とガラス扉に顔を近付ける。フォークやスプーンなどのカトラリーや、レースのハンカチやリボンなどの小物が多数。そして、その横には小さなカードが付いていた。日付と場所などが記入されている。数年前の日付のものも有り、フィーリアは血の気が引くのを感じた。


「……あっ、」


 慌てて立ち去ろうとして棚の角に肩がぶつけてしまい、思わず声が漏れた。咄嗟に口を手で塞ぎ、狭い通路を通って扉へと急ぐ。


 もうすぐで出口の扉に着く。


 ドアノブに手を伸ばそうとした瞬間に扉が勝手に開き、フィーリアは身体を強張らせた。


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