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67話:全ては丸く収まった、と思いましたが

 

 その日、フィーリアは王宮にあるラシオスの私室を訪れていた。


 ルキウスとシャーロットの祝いの宴も全て終わり、招待客も全員それぞれの国へと帰っていった。

 もちろん、アイデルベルド王国の第一王子ローガンもだ。彼はアウローラに一度帰国してから改めて正式に結婚を申し込みに来ると公の場で発言した。王族の、しかも国を跨いでの婚姻となる。先に告げたのは、気持ちの整理をしておくようにという計らいなのだろう。離れている間に彼女に変な虫がつかないようにするための牽制でもある。

 当のアウローラや男爵夫妻はずっと青褪めた様子で縮こまっていたが。


 そして、ローガンは帰り際にラシオスとフィーリアにわざと二人の仲を引き裂くような真似をしたことを謝罪した。



 ***



 招待側の身内として来賓をもてなす役を務めていた二人は公務からようやく解放され、ゆっくり過ごせる時間を手に入れた。思いを通じ合わせてから、初めて二人きりになれたのだ。


 しかし、ずっと自由という訳ではない。シャーロットから御礼として新しいドレスをプレゼントされ、今日はその採寸やら何やらをする予定が入っている。


「失礼致します。仕立て屋が到着しました。お嬢様は隣のお部屋へどうぞ」


 呼びに来たのはエリルだ。フィーリアのお供として王宮に来ている。


「すぐ参ります。……ラシオス様、わたくしは少し席を外しますね」

「ああ、僕はここで待っているよ」


 名残惜しそうに視線を絡ませたあと、フィーリアは持っていたティーカップを置いて席を立った。ラシオスはその姿を眩しそうに見つめ、笑顔で見送る。


 ルキウスの結婚式以来、ラシオスはフィーリアに対して素直に感情を表せるようになった。ああなりたいという明確な目標が出来たからだろうか。以前のように、緊張して顰めっ面になったり、嫌味のような言葉を吐くこともない。


 フィーリアが部屋を出てから、エリルは少しだけその場に残った。ラシオスから目配せがあったからだ。


「……エリル、ありがとう。君がいなかったら、僕はフィーリアとこうして過ごすことが出来なかった」

「いえ。ラシオス様が努力なさったからです」


 ラシオスは自分の悪い部分を理解し、必死に直そうと頑張ってきた。なかなか上手くいかず、時にはエリルに叱られながら、ようやくフィーリアと今のように普通に話せるようになった。


 フィーリアの気持ちを取り戻したのは、やはりローガンとの手合わせがあったからだろう。あの勝負だけはエリルには手助けのしようがなかった。自力で挑み、戦い、ローガンに認めさせたのは他ならぬラシオス自身。


「私はラシオス様を誇りに思います」


 最初から最後まで、見捨てることなくラシオスの側に居たのはエリルだけ。それがどれほど得難いことなのか、今のラシオスなら理解できる。


「ありがとう、エリル」

「いえ。いずれ私の主人となられる方のためですから」


 そう言ってエリルは微笑んだ。


 このままフィーリアがラシオスに嫁げば、エリルも共に王宮に来ることになる。そうなれば、ラシオスもエリルの主人となる。末永く二人に仕え、いずれ王宮の侍女頭になる。それがエリルの夢であり目標である。


 普段は無表情な彼女が見せたレアな笑顔に、ラシオスも笑って応えた。


 フィーリアの採寸に付き添うため、エリルも隣の部屋へと向かった。それを見送った後、そっと席を立ったラシオスの口元は愉悦に歪んでいた。


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