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66話:物語は裏で操られておりました 2

 

 唯一の問題はアウローラ自身の気持ちだ。

 彼女とローガンは出会ってまだ二日目。惚れっぽくて性急なローガンとは違い、アウローラは自分に自信がなく消極的。相手が隣国の王子だと知る前から腰が引けていたくらいだ。


「アウローラ様は婚約者がいないのでしょう? ローガン様を断ったとして、その後どうするつもりなのかしら?」

「身分の釣り合う相手を探すとか?」

「隣国の王子様からの求婚を蹴った令嬢に他の誰が求婚できるって言うの? 絶対無理でしょ」

「既にパーティー会場で一緒にいるところを見られてるから、噂は広まっているものね」


 もしローガンからの求婚をうまく躱せたとしても、今後アウローラに結婚相手が見つかる可能性は限りなくゼロに近い。誰も好き好んでアイデルベルド王国の次期国王を敵に回したくはないからだ。


 つまり、アウローラが生涯独身を貫く覚悟がないのならば求婚を受けるしかない。


 ローガンがアウローラに関心を持つようにお膳立てしたのは、他ならぬミントの仕業。これまでの人脈を余すところなく利用して、今の状況を作り出した。


 哀れな男爵令嬢の逃げ道は完全に塞がれた。ミントの采配と四人の令嬢たちの協力で、それは盤石となった。


「それよりミント、貴女うちの屋敷に戻る気はないの? 貴女がいなくなってから仕事が回らないとかでメイドを五人も追加で雇ったのよ」

「うちもよ。貴女が抜けて、どれだけ困ったことか。お母様も戻ってきてほしいと嘆いていたわ」

「フィーリア様が嫁いだら我が家に来てよ」

「揉めた使用人はみんな解雇したから!」


 そう、ミントはフィーリアの取り巻きである四人の令嬢の屋敷で以前働いていたことがある。半年から一年の短期ではあるが、仕事が早く、かつ話し上手聞き上手の彼女は令嬢たちに気に入られていた。


 しかし、腕は良いが度々使用人間でトラブルを起こしてしまうので、職場を転々としている。スパルジア侯爵家に入ったのも、その前に勤めていたメディクム侯爵家からの紹介だ。


「うふふ、皆さまありがとうございます。お気持ち、とても嬉しいです。でも私、今の職場がすっごく気に入っておりまして~」

「あらっ、男女トラブルは起こしてないの?」

「ええ、執事さんも料理長も庭師も素敵な男性ですが、皆さま妻帯者でご高齢ですから。今までみたいなことはないんですよ~」

「残念だわ」


 かつての主人たちから惜しまれたのが嬉しくて、ミントは照れ笑いを浮かべた。


「それと。今の同僚が、私と一緒がいいって言ってくれたんです。……うふふ、今まで同性の仕事仲間からはやっかまれてばかりだったから、私、嬉しくて」


 ミントは同僚、エリルのことを思い出していた。

 無表情で無愛想でお節介で、メイドとしては非常に変わり者だけど、今の職場であるスパルジア侯爵家の屋敷で一番仲が良い。フィーリアの専属メイドになってからの付き合いだが、十年来の友人のような気安さがある。


 何でも相談してくれて、頼ってくれて、本心を打ち明けてくれて、それがどれだけ嬉しかったことか。


 ミントが裏で色々動いたのも、エリルがラシオスの味方をすると決めたからだ。そうでなければ、つてを総動員して王族の縁談に干渉するような真似はしなかった。


 ──元々アウローラ様を身代わりにしようと

 思い付いていたのはお嬢様だけどね。


 常々婚約者から好かれていないと思い込んでいたフィーリアは、自分の代わりに他の令嬢をラシオスに勧めようと考え、クラスメイトの令嬢の中で唯一婚約者がいないアウローラに白羽の矢を立てた。アウローラが突然休学したため叶わなかったが、結果的にそれが功を奏した。


 時期と相手が変わっただけで、結局アウローラはこうなる運命だったのだ。


「アウローラ様には恋愛小説の主人公みたいな波瀾万丈な人生を歩んでもらいたいわね」

「そうね、今回の顛末を小説にしたら面白そう」

「作家の方にネタを提供してみようかしら?」

「そうしたら、私たちが小説に出るってこと? やだ、面白そうー!」


 アウローラが聞いたら泣いて嫌がるであろうことを話しながら、令嬢たちは大いに盛り上がった。


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