65話:物語は裏で操られておりました 1
アウローラがローガンに連れ回され、パーティー会場のど真ん中で涙目になっている頃、控え室のひとつに数人の令嬢が集まっていた。
「皆さま、お手を貸していただきありがとうございました。おかげで計画通りに事が運びました~!」
令嬢たちの前で深々と頭を下げているのは王宮の給仕係に扮したミント。彼女はさりげなく他の給仕係に混ざって会場に入り込んでいたのだ。
「いいえ、貴女のおかげでローガン様の関心がフィーリア様からアウローラ様に完全に移りましたもの。これまで秘密を守ってきた甲斐がありましたわ」
そう言ってミントを労ったのはエマリナだ。ローガンがフィーリアに求婚したことを誰にも知られないように口止めした張本人である。その判断のおかげで、ここにいるフィーリアの取り巻きの令嬢たち以外には情報は広まらなかった。もしこの話が洩れていれば、最悪の場合ブリエンド王国とアイデルベルド王国の二国間で諍いが起きただろう。
「アウローラ様を休学させてしまって少し責任を感じていたのよね。今回を切っ掛けに復学してもらえたらいいのだけど」
伏し目がちにそう呟いたのはクオリエだ。彼女の父親は内務大臣である。アウローラへの招待状は彼女から父親に頼んで送らせた。お詫びの機会を窺っていたところにミントから提案を受け、今回の招待が実現した。
「私たちのせいで限定本買い逃してたなんて気の毒過ぎるもの」
「ホントよ。逆の立場なら泣いちゃうわ!」
色違いの同じ型のドレスを着て笑い合っているのは双子令嬢のセレイラとシルエラ。彼女たちはアウローラが恋愛小説にハマっていることを以前から知っていた。故に、お詫びの印として限定本を譲ったのである。ちなみに、二人ともそれぞれ所有していたので屋敷にはもう一冊残っている。
「ローガン様は乗り気みたいですけど、アウローラ様は身分差が有り過ぎて怯えてしまわれてますね~」
ミントの言う通り、アウローラは木っ端貴族の自分が王族の隣に立てるはずがない!と最初から拒絶している。しかし、気が弱過ぎてハッキリと断れずにいた。ローガンの押しが強過ぎるのも断れない理由のひとつだ。
「そのことなんですけど、実はブラースカ男爵には何年も前から陞爵の話が出ているの」
「あらっ! そうなんですかクオリエ様」
「ええ。男爵の領地は非常に難しい立地にあって、国境を接する二国との諍いが起きやすくて。でも、今の男爵が治めるようになってからは何の問題もなく。恐らく、男爵の大らかな人柄のおかげかと。でも、何の功績も無しに爵位が上がるのは困るからと、ずっと辞退されているそうです」
領地を平和に治めることは貴族の当然の仕事である、という考えなのだろう。故に、ブラースカ男爵は自分のしてきたことを功績だとは思っていない。
クオリエの父親である内務大臣は、以前から顔を合わせる度にこの話を持ちかけていたのだとか。
「アウローラ様がアイデルベルド王国の第一王子から望まれていると知れば、もう陞爵を断っている場合ではないと悟るでしょう」
「そうね。身分差を理由にせっかくの縁談を断るなんてさせたくないでしょうし」
謙虚さは美徳だが、行き過ぎれば害となる。正しい評価を受け入れ、正しい地位に就くことも時には必要になる。
「アウローラ様の話がこれ以上広まる前に、前倒しで爵位を上げてしまいましょう。私たちの親の推薦があれば多少の無茶も通るでしょうから」
エマリナ、クオリエ、セレイラとシルエラの父親はそれぞれブリエンド王国の要職に就いている。彼らの推薦と以前からの功績を鑑みれば、すぐさま陞爵が成されるだろう。
「うふふ、断る理由がまたひとつ無くなったわね~」
頼もしい令嬢たちの言葉に、ミントは満面の笑みを浮かべた。




