64話:逃げ道は完璧に塞がれております
押し切られた形でローガンと共にパーティー会場を回ることになったアウローラは、彼の隣を歩きながら冷や汗をかいていた。
隣国の王子と並んで歩いているところを見られたら、元クラスメイトたちに何と言われるか。いや、会場には近隣諸国から訪れている招待客がたくさんいる。そんな場所で、仮とはいえ王族のパートナーとして振る舞わねばならないのだ。
本来ならば、田舎貴族の娘であるアウローラは王宮での催しに呼ばれる機会すらない。一通りの作法は学んでいるが、詰め込んだ知識は緊張で全て頭から吹っ飛んでしまった。
ローガンは時折どこかの王族から声を掛けられ、慣れた様子で受け答えしている。彼の隣に立ち、にこにこと愛想笑いを浮かべるのがアウローラの役割。会釈と笑顔だけで数組をやり過ごしたが、ついにアウローラが一番見られたくない人たちに見つかり、あちらから声を掛けられた。
「ローガン様、本日もありがとうございます。楽しんでおられますか」
「ああ、もちろんだとも」
声の主はフィーリアだった。彼女は婚約者で第二王子のラシオスを連れ、来賓に声を掛け、何か不便がないか聞いて回っている最中だった。貴族学院ではローガンの案内役を務めていたこともあり、普通に話し掛けている。
「アウローラさんも、楽しんでいってね」
「は、はいっ」
直接笑い掛けられ、アウローラはビシッと背筋を伸ばした。
フィーリアは普段と変わらず落ち着いている。ドレスもアクセサリーも髪型も洗練されていて、まるで身体の一部のよう。まさに完璧な高位貴族のお嬢様である。
こういった完璧な令嬢こそローガンの隣に立つべきなのに、とアウローラが思った時だった。
「フィーリア、そろそろ行こう」
「はい、ラシオス様」
ラシオスがフィーリアの手を取り、自分の方へと引き寄せたのだ。そして、フィーリアは少し頬を染め、彼にはにかんだ笑顔を向ける。
「では、お二人とも、後ほど」
手を取り合い、立ち去っていく二人の姿に、アウローラはただ見惚れていた。
休学する前はあんな風に甘々な空気など微塵もなかったはずなのに、知らぬ間に心の距離が縮まっている。ラシオスがちらりと見せた嫉妬と独占欲、それを理解し、恥ずかしがるフィーリア。名ばかりの婚約者だった二人が心から惹かれあっている姿に、胸が熱くなるのを感じた。
「あぁら、アウローラ様。素敵なお連れ様ね?」
「え、エマリナ様!」
続けて現れたのはフィーリア取り巻きの筆頭、エマリナだった。彼女は人目も憚らずに婚約者であるガロフと腕を組んでいる。
アウローラは彼女が苦手だった。フィーリアに関わると彼女から圧力を掛けられるからだ。先ほど親しげに声を掛けられた様子を見ていたのだろう。また何か言われるのでは、と思わず身構える。
「ローガン様も、良いお相手が見つかって何よりですこと。全力でお二人を応援させていただきますわね」
「ああ、ありがとうエマリナ嬢」
恐れていた嫌味どころか祝福されて、アウローラは驚いた。身分違いだと知っているはずなのに、何故そんな風に言えるのか。
そもそも、今日のパーティー会場でパートナーを務めるだけの約束なのに、何故ローガンは祝福を笑って受けているのか。
「貴女がいてくれて本当に良かった。ローガン様のお気持ち、ぜひ受け入れてさしあげて」
「え、えっ?」
疑問符だらけのアウローラにそっと近付き、エマリナが小さな声で囁いた。身体を離し、ニコッと笑うと、エマリナは再びガロフと腕を組んで去って行った。
「ど、どうなってるの……?」
知らないうちに逃げ道が塞がれている気がして、アウローラは愕然となった。




