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52話:何事もなく終わらせたいと思います

 

 過去に何が起きたのかは理解できた。

 しかし、まだ謎が残っている。


 令嬢たちを襲った不幸は偶然ではない。もちろん、呪いなどという不確かなものでもない。何者かがローガンに近付く令嬢を蹴散らすためにやったに違いない。手を下した犯人は、これまでずっと警戒し続けていた人物ではないかとエリルは薄々勘付いていた。


 ヴァイン・マハト・アルディーニ。


 彼はアイデルベルド王国第一王子ローガンの護衛で、留学先であるブリエンド王国の貴族学院内にも入る許可を得ている。大っぴらに護衛を連れ歩くことを良しとしない校風に従い、普段は姿を隠している。


 ブリエンド王国ではほとんどの貴族の子は幼少期に婚約者が決まっている。故に、ローガンに色目を使うような令嬢はいない。今まで何の事件も起きなかったのはそのためだ。


 そして、ローガンはフィーリアに出会った。


 僅か数日での求婚も、父王の体調が悪く、後継として結婚を急いでいたからと分かれば納得できる。第二王子の婚約者であるフィーリアは王妃教育も受けている。次期国王の相手としては申し分ない。


 控えめで野心のないフィーリアはローガンの相手として相応しいとヴァインは判断した。今のところフィーリアは危険な目に遭っていない。

 その代わり、フィーリアの婚約者であるラシオスが害されるのではないかとエリルは危惧した。先日のランチに毒は仕込まれていなかったが、手合わせの際にローガンに有利になるようにヴァインは動いた。ラシオスからフィーリアを取り上げ、ローガンの結婚相手に据えたいと考えているのだろう。


「何故ヴァイン様はそんなことを……」

「ローガン様の幸せを願ってるからじゃないの~?」




『私は殿下に幸せになっていただきたいのです』




 トリスティナを失い、弱り切ったローガンを守るために彼は密かに行動を起こしていた。


 野心を抱く令嬢たちの排除。


 悲しみを乗り越えたローガンが新たな恋をして、フィーリアに求婚した。当時を知る家臣ならば、なんとしても叶えてやりたいと思うだろう。


「だからって他人の幸せを奪っちゃダメでしょ」

「エリルはラシオス様の味方だものね~」

「だって私は王宮で働きたいんだもの」

「ローガン様に嫁いでも、アイデルベルド王国の王宮で働けるんじゃない~?」

「イヤよ、実家が遠くなるじゃないの」

「ああ~そっかあ~」


 エリルには目的がある。ラシオスに嫁いだフィーリアに付いて王宮に入り、侍女頭になるという夢がある。

 出世したいのは家族に楽をさせたいから。その一心で幼少期から侯爵家に奉公に上がり、下働きからフィーリアの専属メイドまで登り詰めたのだ。


「王宮に行く時はミントも一緒だからね」

「エリルは私がいないと寂しいの?」

「アンタがいないと困るわ」

「うふふ。そんな風に言われたの、初めてかも~」


 ミントにしては珍しく、照れたように笑った。


「とにかく、ローガン様が帰国するまで何事もなく終わらせなくては」

「エリルがそう言うなら私も協力するわ」

「頼りにしてるわよ」

「やだぁ、なんだか照れちゃう」


 ラシオスを守り、フィーリアとの仲を取り持つ。それがエリルの夢を叶えるための最善策。


 二人の方針は明確に定まった。


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