5話:お嬢様は男爵令嬢を第2王子のお相手にと画策しております
「貴女、第二王子のラシオス様をどう思って?」
アウローラは雰囲気に飲まれて完全に萎縮していた。しかし、問われている以上答えないわけにはいかない。
「あの、ステキな方、だと思います」
取り敢えずアウローラは客観的な意見を述べる事にした。
その言葉に、フィーリアの目が鋭く光る。
「ステキ? どのようなところが?」
「うっ。……ええと、王子様ですし、入学以来ずっと首席ですし、剣技も優秀ですし、穏やかでお優しいですし……」
思い付く限り、指折り数えてラシオスの長所を上げていくアウローラ。その回答に、フィーリアは満足そうに頷いた。これは脈ありとみて間違いない、と思っている。
実際は、アウローラにとって第二王子は雲の上の存在であり、恋愛対象として意識するどころか関わりたくもないとすら思われているのだが、そのような事はフィーリアに関係ない。要は、アウローラがラシオスを嫌ってさえいなければ問題はないのだから。
「もし、もしもの話よ? 貴女がラシオス様の婚約者になれたとしたら嬉しいかしら?」
また答えにくい質問キター!とアウローラは呻いた。これは否定も肯定も出来ない。フィーリアの質問の意図が分からない。
嬉しいと答えれば王子を狙っていると疑われる。
嬉しくないと答えれば王子を侮辱したと思われる。
どちらを選んでも、相手の受け取り方によっては逆鱗に触れてしまう。高位貴族の機嫌を損ねれば、田舎の有力者程度の男爵家は簡単に取り潰されてしまう。
極度の緊張の中、アウローラはふと閃いた。出来る限りの笑顔を取り繕い、前向きな言葉を口にする。
「そっ、それはもう! 殿下のお側にいる事を許されただけで幸せだと思います!」
「そう、そうよね!」
アウローラは考えた。
フィーリアが自身の立場を再確認する為に他者である自分を利用しているのではないか、と。
しかし、フィーリアはこの回答を受け、アウローラがラシオスを憎からず思っており、婚約者になれたら幸せだと勘違いしている。お互いの認識のズレは止まる事を知らず、そのままその日は解散となった。
「あぁら、アウローラ様。随分と楽しそうなお話をされておりましたわねェ?」
「ちょっと校舎の裏までお顔を拝借してもよろしいかしら」
「ひっ、ひえぇ!」
テラスから教室に戻る途中、アウローラはフィーリアの取り巻きの令嬢たちに囲まれた。貴族の洗礼、嫌味の応酬を喰らい、アウローラはしばらく休学する事になった。
「え、アウローラさんが休学? それではラシオス様に引き合わせる事が出来ないじゃないの!」
後日それを知ったフィーリアは、早くも計画が破綻してしまった事を嘆いた。フィーリアが円満に婚約解消出来る日はまだ遠い。