47話:まだ全てが解決したわけではありませんでした
手合わせ以降、二人は何故か意気投合した。
これまで男を側に寄せ付けなかったローガンだが、ラシオスだけは受け入れるようになった。剣を交えたことで心理的にも距離が近くなったのだろう。
恋敵という立場は変わらない。勝敗自体は微妙なところだったので、結局どちらが優位に立つかは結局決まらなかった。そもそも選ぶのはフィーリアだ。今回は、ただ相手が同じ土俵に立つことを互いに認め合うだけに留まった。
しかし、ランチタイムに変化が現れた。
フィーリアがラシオスと共に過ごすと自ら言い出したのだ。これにはローガンもショックを隠せなかった。やはり選ばれたのは婚約者かと嘆いた。
実際は、カリオンがラシオスと一緒に昼食をとっていると聞いたフィーリアがその輪に加わりたいと申し出ただけだった。そこに妹のオウレリアも呼び、中庭の片隅にある東屋で四人で仲良くランチを食べることになった。
フィーリアが抜けてからも、エマリナたちはローガンを監視しつつ一緒に昼休みを過ごしている。傍目からみれば、可愛らしい令嬢たちに囲まれたローガンのほうが勝ち組に思えるだろう。
「ローガン様、もう諦めたほうがよろしいかと」
「いや、まだ俺は返事を貰っておらん!」
「フィーリア様、忘れてないかしら」
「フィーリア様、忘れてるかもね」
「色々ありましたものね」
ブリエンド王国第一王子ルキウスと婚約者シャーロットの結婚式が一週間後に迫る中、近隣諸国から続々と招待客が訪れた。それぞれ王宮内の客室や離宮に滞在することになる。ラシオスとフィーリアも、貴族学院が休みの日には王宮に集まり、式典に参加する際の作法をおさらいしていた。
「フィーリア、手を」
「は、はい」
実際の会場での動線を確認するため、案内役の後ろについて二人で歩く。
エスコートされるのは初めてではないが、これまでのように何も考えず無心でいられた時とは違う。軽く手を重ねるだけで指先が震え、鼓動が速くなる。自身の心情の変化に戸惑い、フィーリアは練習に身が入らなかった。
「お嬢様、最近浮かない表情ね~」
「ローガン様へのお返事は保留したままですし、手合わせ以降ラシオス様を意識し始めたみたいです」
「おっっっそ! 今頃???」
「まあ、今まではそれどころじゃありませんでしたから」
窓辺にある椅子に座って物憂げに空を眺めるフィーリアを見守りながら、二人の専属メイドはひそひそと小声で会話していた。もちろん仕事をしながらだ。
フィーリアはまだ学生なので結婚式前の夜会には呼ばれてはいないが、昼間の式典には全て参加が義務付けられている。そこで身に付ける数々のドレスに合わせたアクセサリーや小物を並べて磨いているのだ。
「明日からは旦那様も奥様も毎晩夜会に出られるんですって~。こんな時でもなければ会う機会がない方々も多いもの。挨拶回りだけで大変よね~」
「王族や貴族の方はそれがお仕事だもの」
連日開かれる宴で親睦を深めるのも大事な公務である。近隣諸国のお偉方とも交流があるスパルジア侯爵家の当主夫妻は持て成す側として特に忙しくなる。
宝石の表面を柔らかな布で磨きながら、ミントの話にエリルは相槌を打った。
その時、不意にあることを思い出した。
『現在王宮に滞在している他国の人間は我らアイデルベルド王国のみ。もし何かあれば真っ先に疑われてしまいますからね』
「……あっ……」
「エリル?」
急に青褪めた同僚の顔をミントが覗き込んだ。
「どうしたの~? 宝石に傷でも付いてた?」
「ち、違う、けど」
話そうにも、同じ室内にはフィーリアがいる。エリルはその場では何も言うことが出来ず、ただ上辺を取り繕って作業を続けた。




