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45話:殿方同士の話し合いは剣を交えて行うそうです 3

 

 ローガンの意味深な言葉にラシオスは気を取られた。その隙を突き、大股で踏み込んで木剣を振るうローガン。反射でそれを避けるが、切っ先がラシオスの脇腹に直撃した。


「くっ……!」


 衝撃と鈍い痛みが腹部を襲う。幸い腰に巻いていた剣帯の金具部分に当たり、ダメージは少ない。一撃を受けても変わらず剣を構え続けるラシオスの姿に、観覧席に座る生徒たちから安堵の溜め息が漏れた。


 再度退がって間合いを取る。


「防戦一方か? 俺から婚約者を奪い返すつもりなら、そんな弱腰のままでは駄目だろう」

「……言ってくれますね」


 この勝負はラシオスが申し込んだ。

 何の勝算もなしに挑むはずがない。


 ふう、と大きく息を吐き、ラシオスは木剣の柄を握り直した。(ガード)真下を右手で握り込み、柄頭(ポメル)部分に左手を添えている。


 そして、今度は自分から仕掛けた。


 踏み込みではなく、駆け込み。これまでの動きが嘘のように、ラシオスは一気にローガンとの距離を詰めた。身体の左側に隠すように下げていた木剣を斜め下から振り抜く。


 それを紙一重で躱すローガン。


 しかし、ラシオスは左手を離し、片手だけで柄を握っていた。そのぶんリーチがやや伸び、本来ならば届かない位置まで剣先が到達する。


「なっ!?」


 これにはローガンも面食らった。予想よりも切っ先は伸びた。眼前に迫る木剣に驚き、慌てて身体を反転させて避ける。その際に出来た僅かな隙をラシオスは見逃さなかった。


 振り抜いた剣の柄を手のひらの中でくるりと回転させ、再度柄頭を左手で握り、今度は両手で振り被った。


 ──この一撃で決まる!


 誰もがそう思った瞬間、ラシオスの動きがぴたりと止まった。何かに怯み、目を硬く閉じている。


 闘技場を囲む外壁の上部で勝負を見守っていたエリルは、辺りを見回して原因をすぐに突き止めた。

 向かいの外壁に座るヴァインが短剣を鞘から抜き、刃に太陽光を反射させてラシオスの目を狙ったのだ。千載一遇の好機を逃すまいと大きく目を見開いていたラシオスは、反射光をまともに受けてしまった。


 すぐさま側にいたカラバスが取り押さえに掛かったが、ヴァインは愉快そうに高笑いしながら闘技場の外へと飛び降りて退散した。


 動きの鈍ったラシオスにローガンが斬り掛かる……かと思われたが、彼は木剣を地面に落とし、両手を上げて降参の意を表した。


「参った!!」

「え?」


 強い光で目が眩んだままのラシオスに手を貸し、しっかりと立たせてやると、ローガンは彼の肩に手を置いた。


「先ほどは完全に油断した。ここぞという時に両手持ちから片手に切り替えてくるとはな。あれには驚かされた」


 手合わせ開始直後から、ラシオスはずっと両手で剣を構えていた。

 それを見て、ローガンは無意識のうちに『ラシオスは片手で剣を扱えない』と判断していた。相手にそう思わせ、油断させることこそがラシオスの狙いだったのだ。


「真剣勝負だったらあの時点で負けていた。だから、この手合わせはラシオス殿の勝ちだ」

「ローガン殿……」


 その表情は明るく、多少の悔しさを滲ませてはいるが、全く根に持っていない様子でラシオスの健闘を讃えた。


 勝利を収めたラシオスと、潔く負けを認めたローガンに対し、観覧していた生徒たちからは歓声が上がった。惜しみない拍手が二人に送られる。


「何故あそこで剣を収めたのですか」

「俺の護衛が余計な手出しをしたからだ。あれがなければ完全にラシオス殿が優位だった。それだけの話だ」


 ローガンは、ヴァインのしたことを把握していた。主人に危険が及ばないよう守るのがヴァインの役目である。手合わせの時でも例外ではない。故にヴァインを叱ることはないが、その手出しで生まれた隙を好機と見るほどローガンは恥知らずではなかった。


「貴方は気高い人ですね」

「今頃気付いたのか!」

「そこは謙遜されたほうが」

「む、そうか」


 勝負がついた途端、二人からは殺伐とした空気は完全に霧散し、穏やかに談笑し始めた。


 その光景を見下ろしながら、エリルは眉を寄せて「全く理解できません」とボヤいた。


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