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44話:殿方同士の話し合いは剣を交えて行うそうです 2

 

 突然手合わせを申し込まれたにも関わらず、ローガンは二つ返事で了承した。それは彼が自分の腕に自信があるという証拠ではないか。


 対するラシオスは、つい先日まで意気消沈して衰弱していた。現在は回復しているが万全とは言い難い。文武両道と周りから評されてはいるが、対するローガンの実力は全くの未知数。勝てる保証はない。


「御二方とも、中央へ」


 審判役の教師は緊張で動きが硬い。自国と隣国の王子同士の手合わせだ。授業の一環とはいえ、二人は明らかに敵対心を抱いている。下手をすればどちらか、または両方が怪我をしてしまう。本来ならば止めるべき立場だが、王子たちの希望を突っ撥ねる権限も度胸もなく、ただ無事に手合わせが終わることを祈るのみ。


 両者は木剣を構え、刃先を軽く重ねた状態で闘技場の中央で向かい合った。


「始め!!」


 審判役の手が振り下ろされた瞬間、二人の王子は間合いを取るために一旦後ろへと飛んだ。身体の前に木剣を構えたまま、円を描くように距離を保ちつつ、闘技場の中央で睨み合った。


「フィーリアに気安く近付かないでもらえますか。彼女は僕の婚約者です」

「うん? その割に、仲睦まじい様子は見られなかったようだが?」

「……」


 巻き添えを食わないように、審判役の教師は剣先が届かない位置まで下がっている。


 互いの耳にしか届かないよう声を抑えて言葉を交わす。教室や他の場所では誰に聞かれるか分からず、何も言えないままだった。この闘技場では歓声が飛び交い、王子二人の会話が観覧席まで聞こえることはない。


 皮肉なことに、この状況にならねばラシオスは自分の本心を表に出すことが出来なかった。


「フィーリア嬢との婚約は僅か二歳の頃に成立したと聞いた。親同士が決めた、謂わば政略結婚。果たして、それが幸せだと言えるか?」

「……」


 じりじりと間合いを詰め、再び剣先が触れ合うくらいの距離まで接近する。カツン、と木剣同士が当たる度に観覧席から歓声が上がった。


「フィーリア嬢はラシオス殿を避けていた。形だけの婚約者を疎んでいたのでは?」


 そうかもしれない、と思うだけでラシオスの心が痛む。ローガンの言葉は全て事実を指摘している。だからこそラシオスには効く。


「それなのにラシオス殿はこうして俺に勝負を挑んできた。婚約者としての体面を守るためか!」

「そう思われても仕方ありません。僕は、いつも彼女の前では自分を押し殺していた。本当の姿を見せて嫌われるのが怖かったから」


 ラシオスの視線は相対するローガンを通り越し、後ろの観覧席に座るフィーリアの姿を捉えた。祈るように胸元で両手を組んでいる。彼女が無事を願うのはローガンか、それともラシオスか。

 愛しい婚約者の姿を見て、ラシオスは勝負に出た。


「はっ!」


 木剣を掲げ、上段から思い切り振り下ろす。

 しかし、動きは読まれていた。

 ローガンはすぐに自分の剣を横に構え、その一撃を受けた。そのままラシオスの剣先を斜めにやり過ごしてから、自分の剣を横に薙ぐ。だが、これは後ろに飛び退いて事なきを得た。


 ローガンは重い木剣を片手で軽々と振り回している。ラシオスより僅かに背が高く体格も良い。腕力や持久力は上だ。対するラシオスは両手で剣を持つのがやっと。元々痩せ型で腕力はない。勝負が長引けば勝ち目はない。


「そこまで想っておきながら何故こんな回りくどいことを!」

「僕だって分かりませんよ! 素直になれるものなら、とっくになってます!!」


 激しく剣を交えながら、荒い呼吸の合間に言葉を交わす。ローガンがラシオスとこんなに話をしたのは今が初めてではないだろうか。


「本人に言えるうちが華だぞ、ラシオス殿」

「え?」


 深く前に踏み込み、ローガンは一気に間合いを詰めた。そして、ラシオスの耳元に口を寄せる。


「その程度の想いなら、ここで俺に負けて終わりにしろ」


 いつもより低い声でそう囁き、ローガンは木剣を構え直した。


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