4話:お嬢様は身代わりの令嬢を品定めしております
翌日、フィーリアは行動を起こした。
自分の取り巻きの令嬢方を差し置いて、教室の片隅で一人読書する少女に声を掛けたのである。
「アウローラさん、ちょっと良いかしら」
突然高位貴族のフィーリアに声を掛けられ、男爵家令嬢アウローラはその場で固まった。同じクラスに在籍してはいるとはいえ、これまでフィーリアから話し掛けられた事などない。家同士の付き合いも無いし、まず接点がない。
「お話がありますの。少々お時間いただけるかしら?」
声も出せず、ただただ首を縦に振るアウローラ。断るという選択肢は彼女にはない。高位貴族の不興を買えば、男爵家など簡単にお取り潰しになってしまうからだ。
「フィーリア様、私達もご一緒してもよろしくて?」
「ごめんあそばせ。わたくし、アウローラさんと二人きりでお話したいの」
取り巻きの一人、伯爵家令嬢エマリナが声を掛けたが、フィーリアはそれをアッサリと断った。エマリナはすんなり引き下がったが、代わりにアウローラを憎々しげに睨みつけた。
「あ、あの、お話というのは何でしょうか」
テラスに場所を移した後、アウローラは初めて口を開いた。目には涙を浮かべ、今にも泣き出しそうな表情をしている。
そんな彼女を、フィーリアは興味深そうに観察した。
明るい栗色の髪、緑の瞳、小柄で可愛らしい令嬢だ。貴族の娘にも関わらず、感情を隠すのが下手で、自分の弱さを他者に晒してしまっている。高位貴族の者ならば幼少期から喜怒哀楽のコントロールを教え込まれる。気心の知れた相手以外に動揺した姿を見せることはまずない。
しかし、それが逆に魅力的だと思えた。
アウローラはその辺にいる高位貴族とは明らかに毛色の違う存在である。彼女ならばラシオスの恋の相手に向いているだろう。そうフィーリアは確信した。
「単刀直入にお尋ねするわ。貴女、第二王子のラシオス様をどう思って?」
「あ、えっ?」
何故自分にそんな事を聞くのか、とアウローラは必死になって頭を働かせた。尋ねてきたのはその第二王子の婚約者本人である。何の為に、末端貴族である自分に聞いているのか。
向かいの座るフィーリアは終始真顔だ。椅子に浅く腰掛け、背もたれも使っていない。ピシッとした姿勢と凛とした表情。声は可愛らしいが、話し方は貴族然としていて威圧感がある。
それに対し、アウローラは腰が引けて背中は丸まり、情けなく下を向くばかり。声を掛けられる度にビクッと肩を揺らし、ひきつった笑みを浮かべてフィーリアの様子を伺っている。何も知らない者には尋問を受けているように見えるだろう。
「あンの下位貴族、よくもフィーリア様と……!」
「身の程知らずな!」
「許せませんわ!」
「どうしてくれましょう!」
テラスの入り口にある柱の陰から覗く幾つかの人影。フィーリアの取り巻きの令嬢たちからは羨望と憎悪の視線を集めていたが、アウローラがそれに気付くことはなかった。