39話:お嬢様が第2王子の不調に気付きました
「お姉様ぁ、近頃カリオン様はラシオス様とお昼をご一緒しているそうよ。今日も一緒に昼休みを過ごしたって自慢されてしまいましたの」
家族で食事を済ませた後、妹のオウレリアがフィーリアに話し掛けた。
ラシオスとのランチを蹴ってローガンやエマリナたちと過ごすようになってから数日。やや負い目を感じていたフィーリアも、それを聞いて少し安心した。
「まあ、カリオンと。仲が良いわね」
「将来は義理の兄弟になるんですもの~! それに、カリオン様はラシオス様が大好きですから」
「兄弟……」
彼らが義理の兄弟となるのは、予定通りラシオスとフィーリアが結婚した場合のみ。
フィーリアは未だにラシオスから嫌われていると思い込んでいる。更に、ローガンに求婚されている現状では、そんな未来が訪れるかどうかも分からない。
「でも、ラシオス様は最近お元気がないみたいですの。食が進まないご様子なんですって」
「え、そうなの?」
「来月は式典がたくさんありますから心配です。もし倒れられたら大変~!」
「まあ、一体どうなさったのかしら」
原因が自分だとは微塵も思っていないフィーリアは、本気で首を傾げた。
悪夢のフルーツタルト事件以降、あまりラシオスを視界に入れないようにしていた。同じ教室内にいても出来るだけそちらを見ないように努めた。またあんな表情で何か言われたら、今度こそ決定的に二人の仲が終わる気がして避けているのだ。
しかし、体調を気遣うのも婚約者の務め。
ルキウスとシャーロットの結婚式や披露宴では、招待側の親族として、ラシオスと婚約者のフィーリアも来客を出迎えて持て成す役目がある。
「明日ラシオス様の様子を見てみるわ」
フィーリアの言葉に、オウレリアは満面の笑みを浮かべて何度も頷いた。
彼女はカリオンやミントから話を聞き、二人の仲を取り持つために協力すると決めた。
姉が考え過ぎる性分であることは知っている。ラシオスとの仲がギクシャクしてしまっていることも、単に気持ちが行き違っているだけだということも。だからこそ、遠回しに相手の情報を伝えるだけに留め、その後の判断は本人に委ねた。
嫌い合っているわけではない。
ラシオスが弱っていると知れば気に掛けるはずだ。
オウレリアの読み通り、フィーリアの意識はラシオスへと向いた。
「うふふ、任務完了~! カリオン様に褒めていただけるかしら」
翌日。
貴族学院の教室内で、フィーリアはそれとなくラシオスの様子を窺った。ラシオスの席は斜め前方にある。故に、授業中は自然と彼の姿が視界に入る。これまでは意識的に見ないようにしていたが、今日はきちんと確かめねばならない。
しかし、遠目から見た限りでは普段と変わらないように思えた。積極的に教師に質問したり、学友と談笑したり。
オウレリアの話を聞いて心配していたが杞憂だったのかもしれない。そう考え、フィーリアは安堵した。
しかし。
授業中、発言のために席を立つ際にラシオスがよろめいた。倒れはしなかったが、その際にちらりと見えた表情が辛そうに歪んでいたことにフィーリアが気付いた。
──ラシオスは体調不良を隠している。
そう思った瞬間、フィーリアはすぐに彼の側へと駆け寄り、その背中に軽く手を添えた。
「ラシオス様、医務室へ参りましょう」
「フィーリア……」
久々に間近で見たラシオスは、明らかに以前より痩せていた。何故こんな状態になるまで気付けなかったのかと、フィーリアは己を責めた。
「立ち眩みがしただけだ。問題ない」
フィーリアの手をそっと退けて、ラシオスはその申し出を断った。気遣いが嬉しくないわけではない。情けない姿を見せたくない一心で不調を隠そうとした。
これまでのフィーリアならば、遠慮された時点ですぐに引き下がっただろう。だが、今日は違った。
「いいえ、今から医務室へ参ります。わたくしが付き添いますから、大人しく付いてきてください」
「……」
そのやり取りに、ローガンは思わず口を挟み掛けた。フィーリアは彼の案内係であり、求婚して返答待ちの状態だ。その彼女が、婚約者と寄り添う姿を見て心中穏やかでいられるはずがない。
ローガンの行手をエマリナたちがさりげなく妨害した。
「ローガン様、アイデルベルド王国の歴史ではこの出来事はどう伝わっておりますの?」
「国が違えばやはりお話も変わって伝わるのでしょうか」
「教えていただけませんこと?」
四方を教科書を手にしたエマリナ、クオリエ、セレイラ、シルエラに囲まれ、質問攻めに遭い、ローガンはその場から動けなくなった。
その隙に、フィーリアはラシオスと共に教室から出て行った。




