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35話:学院内に強力な味方を得ました

 

 翌日の昼休みも、ラシオスは一人で学院の中庭の片隅にある東屋にいた。王宮の厨房から届けられたばかりのランチボックス。籠のふたを開ければ温かな料理の数々が綺麗に収められていた。


 しかし、手が伸びない。


 ここ数日、せっかく作ってもらった料理を一口も食べていない。回収に来た使いの者に中身が減っていない籠をそのまま渡す度に胸が痛む。全て残されたと知ったら料理人たちは落胆するだろう。それでも毎日きちんと作り続けてくれている。今日こそは食べようと何度も試み、そして失敗していた。


「ラシオス兄様!」

「カリオン」


 そこへ、小柄の可愛らしい少年が現れた。

 彼はフィーリアの妹の婚約者、カリオンである。二つ年下で、貴族学院の一年生。昔からフィーリアを姉様、ラシオスを兄様と呼んで慕っている。


 未来の義弟をラシオスはとても可愛がっていた。故に二人はとても仲が良い。


「いつも昼食を一緒に食べている友人が怪我で休学しちゃって、僕ひとりなんです。兄様とご一緒させていただいてもよろしいですか?」

「ああ、構わないとも」

「良かった! では失礼しますね」


 申し訳なさそうに上目遣いで話し掛けてくるカリオンに、ラシオスはすぐに了承した。断る理由はない。フィーリアが居ない今、一人で過ごすには昼休みは長過ぎる。


 カリオンが向かいの席に座ると同時に、彼の従者であるカラバスが籠を持って現れた。


「兄様もお弁当なんですね。僕もなんです。折角だからシェアして食べましょう!」


 カラバスは手際良く飲み物のカップや取り皿を並べ、それぞれの籠から料理を取り出して並べた。その際に、気付かれないように見た目や匂いを確認し、異常がないと判断したものだけを主人たちの前に出した。


「これは僕の好きな雉肉のパイです。食べてみてください」


 食の進まないラシオスに積極的に声を掛けていく。勧められたら無下に断るわけにもいかす、ラシオスはようやくフォークを手に取り、パイを小さく切り分けて口に入れた。


 その様子をにこにこと見守りながら、カリオンは滋養のつきそうな料理を中心にラシオスの前に並べていった。







「ラシオス兄様、かなり弱ってたね」

「精神的に参っているように見受けられました」

「僕は明日からも兄様と昼食を一緒に食べるよ」

「は。では、念のためランチは公爵邸の厨房で作らせ、私が運びましょう。王宮の厨房にはその旨伝えておきます」

「ん。ありがとうカラバス」


 エリルから受け取った封筒の中には、カリオンに対し協力を要請する手紙が入っていた。手紙の主はミントである。ローガンがフィーリアに求婚したことやアイデルベルド王国内で流れる噂などは伏せ、


『ラシオスが命を狙われている』

『目立たぬように護衛をしてほしい』


 と、用件だけを伝えた。


 手紙を読んだカリオンはすぐに行動に移した。ラシオスとは学年が違うため常に側にいることは出来ない。その代わり、昼休みを一緒に過ごすようにした。そして、『自分の護衛として』従者のカラバスを同伴する許可を得た。


 カリオンはカスティニア公爵家の末っ子である。カスティニア公爵家は王家に次ぐ由緒ある名家であり、故に多少のワガママは許される。例えば、普通なら許可が下りない『護衛の常時同伴』も。


「カラバス。兄様を守って」

「は、かしこまりました」


 全ては愛するオウレリアのため。

 オウレリアの姉、フィーリアの婚約者ラシオスを守ることはカリオンにとって非常に重要なこと。


 主人の命を受け、カラバスは恭しく頭を下げた。彼の懐には一枚の便箋が仕舞い込まれている。主人宛ての手紙に同封されていたカラバス個人に向けたメッセージだ。


『後から来た人に掻っ攫われても知らないわよ』


 どちらにせよやるべきことは同じなのだが、カラバスは他人に心の中身を見透かされたようで良い気はしなかった。


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