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34話:隣国に流れる噂の詳細が判明いたしました

 

 スパルジア侯爵家の屋敷に戻り、エリルは今日の出来事をミントに報告した。籠も無事持ち帰ることが出来た。念のためミントの知り合いの闇医者 (知り合いの闇医者とは……) に中身だけを渡して調べてもらい、籠は家令に王宮に返却してもらうように頼んだ。


 事の次第を聞かされたミントは珍しく困ったような表情を浮かべた。頬に手のひらを当て、小首を傾げている。男性が見れば思わず声を掛けたくなるような可愛らしい仕草だ。


「えーと、つまり、ヴァイン様はエリルの反応を見るためだけに疑われるような真似をしていたってことよね~?」

「ええ。でも、そんなことする必要あるかしら」

「出来れば敵対したくなかったんじゃないかしら~? だって、ヴァイン様って最初からエリルのこと気に入ってるっぽかったもの」

「はあ」


 この赤毛の同僚メイドは思考が恋愛に偏りがちである。フィーリアだけならともかく、エリルは平民だ。恋愛に興味もない。そのような話を振られても気の無い返事をするほかない。


「でね、あれから更に情報を集めてみたんだけど、最初の『不幸な事件』は誰もあまり話したがらないみたいで詳しくはまだ調査中なの。その代わり、他の令嬢たちに起きた『災難』は分かったわ」


 ミントは引き続き伝手を通じてアイデルベルド王国内で情報収集を行っていた。いわゆる最初の事件である、ローガンの婚約者の死については分からないが、その後に起きたことは調べがついたらしい。


「最初の婚約者の方が亡くなってしまった後、年頃の令嬢たちはみんな後釜に座ろうとしてローガン様に迫ったらしいのよ。まだ喪も明けていないうちから」

「逆効果にしかならなさそうだけど」

「なりふり構っていられなかったんじゃない〜?ローガン様と結婚できれば次期王妃だもの。早いモノ勝ちよ」


 婚約者を失って意気消沈している時を狙い、猫撫で声で擦り寄ってくる令嬢たち。ローガンを慰めたり元気付けたりすることが目的ならばそんな非常識な真似は出来ないはずだ。


「でも、ローガン様に群がる令嬢たちに連続して『災難』が起き始めたの。王宮に向かう馬車の馬が急に暴れ出して横転したり、階段から突き落とされたり、上から煉瓦が落ちてきたり、庭園に野犬が出て襲われたり」

「偶然ではないの?」

「全部ローガン様に近付こうとしている最中に起きたのよ。誰かがやったという証拠も無くて犯人も見つからず、何度も連続して起きたものだから『亡き婚約者の呪い』なんて噂になったんですって」

「呪い?」


 エリルは現実主義だ。不確かな話は信じないが、当時はそうとしか言えないような状況だったのだろうというのは理解出来た。


 不穏な噂が流れた結果、ローガンに近付く令嬢は皆無となり、万が一を恐れて王都からも居なくなった。


「お嬢様には今のところ何も起きてないわよね」

「別にお嬢様はローガン様の婚約者の座を狙っているわけではないもの。近付いてきたのはあちらからだし。でも、もしお嬢様がローガン様を選んだらどうなるか分かんないわよ~」


 過去の出来事と現在の状況がどう繋がるのか。

 幾ら考えても答えは見つからない。


 ただ、話の真偽が明らかにならないうちは、これ以上ローガンと親交を深めさせるわけにはいかない。あくまでフィーリアは『留学してきた他国の王子を案内する』だけで終わらねばならない。


「そういえば、カラバス様には何をお願いしたの?」


 王宮でガロフに会えなかった際の保険として、ミントはカラバスを呼んでいた。渡した封筒の中に忍ばせた手紙の内容をエリルは知らない。


「うふふ。ラシオス様をお守りするために動いていただくのよ~」


 ミントはにっこり同僚メイドに微笑んでみせた。


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