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29話:旦那様にはナイショで色々動いております


 王宮内に出仕する高位貴族専用の執務室が集まるエリア、その中の一室にエリルはいた。


「ミントから頼まれてカラバス君を呼んでおいたけど、一体何の話だい?」

「お手数をお掛けして申し訳ありません旦那様。急ぎでお願いしたいことがございまして」

「いや構わないよ。君たちのすることだ。フィーリアのためになることに違いはないだろう」


 今回ラシオスの側近ガロフと接触出来なかった場合に備え、ミントはもう一つの手を打っていた。フィーリアの妹オウレリアの婚約者カリオンの従者、カラバスだ。彼は非常に腕が立つ人物である。彼の主人であるカリオンは元より、スパルジア侯爵の信頼も厚い。


 フィーリアの父親であるスパルジア侯爵は四十代前半のスレンダーな紳士で、一使用人に過ぎないエリルやミントに対しても偉ぶることは無く、優しく接してくれる。侯爵家に仕える人間は皆この旦那様を慕っている。


 だからこそ侯爵に余計な心配は掛けたくない。


 フィーリアが密かにラシオスと婚約破棄したいと考えていることや、実際に現在距離を置いていること、アイデルベルド王国の第一王子から求婚されたことなどは、スパルジア侯爵に一切教えていない。

 つまり、ここでも詳細は話せないということだ。


「こちらを。お屋敷に戻ってから中身をご確認ください。本日はわざわざ御足労いただき誠にありがとうございました」

「了解しました」


 詳しい説明をしていないにも関わらず、カラバスは素直に封筒を受け取った。その場で中身を確認することもせず、しっかりと抱える。


 執務室の外ではヴァインを待たせている。もし全ての事情が説明出来る状況であったとしても、届け物をするだけと偽って来ているのだ。長話をしては怪しまれる。


「私の用は終わりました。カラバス様は少し時間をズラしてからご退室ください」

「わかりました、エリル殿」

「それでは旦那様、お仕事のお邪魔をして申し訳ございませんでした。私はこれにて失礼いたします」

「ああ。ご苦労だった」


 二人に深々と頭を下げてから、エリルは執務室から出てヴァインの元に戻った。彼はソファーにゆったり腰掛けていたが、エリルの姿が見えるとすぐに立ち上がり、笑顔で歩み寄ってきた。


「もう用事は済みましたか」

「ええ。お待たせして申し訳ありません」

「私が勝手に待っていただけですから」


 ホントにな、と思いながらもそうとは言えず、エリルは曖昧な表情で笑い返した。


 これから一緒に貴族学院へ向かう。貴族学院は王宮に隣接されており、徒歩での移動も可能だ。使用人のエリルはともかく、隣国の王子の護衛を歩かせるわけにはいかない。馬車を呼ぼうとしたが、それをヴァインが制した。


「せっかくですから歩いて行きましょう。天気も良いですから。それに、ゆっくり行っても昼休みには間に合いますよ」

「そうですね、ヴァイン様がそう仰るなら」


 王宮の正門から出て、綺麗に整備された石畳の道を並んで歩く。


「数日滞在してみて気付いたんですが、もしかしてブリエンド王国では貴族以外の女性は髪を伸ばしてはいけないのですか?」

「決まりがあるわけではないんですが、洗う時に水を余計に使いますし、何より手入れも大変ですから。長い髪は貴族に許された贅沢のようなものです」

「なるほど。我が国では平民でも普通に長かったので、こちらに来て少し驚きました」


 ブリエンド王国はアイデルベルド王国より北に位置しており、年間を通して気温がやや低い。長い髪を洗うための湯を沸かすにも大量の薪が必要となる。節約して水で洗おうものなら風邪をひく。故に平民女性のほとんどは肩より上の長さで切ってしまう。


 アイデルベルド王国は温暖な気候ゆえに、沸かさなくてもそこまで冷たくはないのだろう。こんなところにも国の違いというものが現れるのか、とエリルは感心しながら聞いていた。


「貴女の髪は艶やかで美しい。伸ばせばきっとドレスに映えるでしょうね」


 ヴァインの指先がエリルの後ろ髪をす、と撫でた。振り払うわけにもいかないので、気付かぬふりをしてやり過ごす。


「私は平民ですからドレスとは無縁です」

「そういうものですか」

「そういうものです」


 彼の意図が全く読めず、エリルは貴族学院に到着するまで少し歩幅を広げて先を急いだ。


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