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25話:隣国の王子の護衛の逆鱗に触れたようです 2

 

「──その話、どこで聞いた?」


 にこやかな表情はそのままに、ヴァインはエリルを地面に押し倒して尋ねた。声は低い。細い喉に押し当てられた手のひらに圧迫され、エリルは僅かに顔をしかめた。



 何故ローガンに近付く令嬢は不幸に見舞われるのか。



 疑問を口にした瞬間、ヴァインは行動に出た。この話題は彼にとってあまり触れて欲しくないものだったのだろう。


「あ、アイデルベルドから来たという行商人から、そんな噂を聞いたことがあるんです」


 喉を押さえられたままエリルは答えた。

 実際はメイド仲間のミントが使用人ネットワークを通じて入手した話だが、それを正直に言うわけにはいかない。ミントは『アイデルベルド国内で噂になっている』と言っていた。ならば、アイデルベルド王国に居れば自然と耳に入る話題であると推測できる。


 現にこの返答を聞いた途端、ヴァインはエリルの上から退いた。すぐ傍に膝をつき、手を差し伸べる。


「そうでしたか。いや、恥ずかしながら我が国でそういう根も葉もない噂が流れているのは事実でして。まさかこちらの国にまで知られているとは思わず、失礼しました」


 エリルは彼の手を借りて身体を起こし、軽く土埃を払った。そして、ヴァインに向き直る。申し訳なさそうに頭を下げるその姿からは、先ほどまでの迫力は感じられない。どうやら嘘の返答を信じたようだ。


「いえ。こちらこそ大変不躾なことを。そうですか、事実ではないのですね」

「もちろん。確かに過去に不幸な事故はありましたが、あくまで事故。その話に尾ひれがついて、未だに噂されてしまっているのでしょうねぇ」


 ヴァインの言い分に不自然な点はない。唯一おかしかったのは先ほどの過剰な反応のみ。もしただの噂話程度のことならば、あんな風に押さえつけるなんて行動には出ないはずだ。


 返答次第では殺されていたかもしれない。

 エリルは実際命の危機を感じていた。


「貴女はフィーリア嬢の護衛ですから、そんな噂を知ったら気が気ではありませんよね」

「ええ、まあ」

「……この話、フィーリア嬢は?」


 また少し彼の声が低くなる。


「お嬢様はご存知ではありません」

「そうですか。それは良かった! こんな噂話が原因でフィーリア嬢から避けられでもしたら殿下が気の毒ですからねぇ」


 終始にこやかなヴァイン。暗にフィーリアの耳に入れるなと言っている。やはり彼の態度には違和感があった。


「私は殿下に幸せになっていただきたいのです」


 この言葉に嘘はない。

 ならば一体何を偽っているのか。


「お嬢様には婚約者がおります」

「ええ。この国の第二王子ですよね」

「求婚をお断りする可能性もあります」

「それはそうですよね。有り得る話です」

「ヴァイン様はそれでもよろしいのですか」


 一瞬の間。


 また何か触れてはいけない部分に触れてしまったか、そうエリルは思った。しかし、ヴァインはふわりと優しい微笑みを浮かべてこう言った。




「何が起こるかわかりませんからね」と。




 これは『フィーリアが婚約者を捨ててローガンを選ぶ未来も有り得る』というように受け取ることも出来る。


 だが、今の流れでは『フィーリアが不幸に見舞われる可能性』と『婚約者の第二王子が不幸に見舞われる可能性』のどちらかに感じられた。


 背筋に冷たいものが流れるのを感じつつ、エリルは平静さを取り繕った。


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